↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/77

最後の遠征

 結婚の話をディアンにするのは、遠征から帰ってからにしようという事になった。きっと勘のいい彼の事だから、気づいているんだろうけど。


 遠征前の休み、ディアンはルシアを誘って町に遊びに行ったそうだ。

 ちょうど、人形劇が来てたんだって。


 まあ、教えてくれたのは、ミリアンに話を聞いたライアンなんだけど。

 ディアンは何にも話してはくれない。


 あえて、聞いたりもしないけどね。

 ディアンは、アレで照れ屋だし。


 一週間は、あっという間に過ぎて行った。

 騎士達は交代で休みを取ってたけど、その間も遠征に向けて準備は進んでいた。


 移動に一日、討伐に三日、帰路に一日。


 五日間の日程が組まれ、グループわけされて討伐範囲を割り当てられる。

 魔法騎士も分かれて配置され、同行する魔法使いも選別されて、医療班として後方支援を担当する。


 宿泊は主に野営になるそうだ。

 まあ、私とルシアはシルビアさんのテントに泊まるので、男性よりはシビアじゃないと思う。何たって、彼女は王族なわけだから。


 私は、これが魔法騎士の一員として活動する最後の討伐になるんだよね。


 魔法騎士にはなれないってニコラに言われたし、結婚が決まったら辞めるという、アイアンさんとの約束があるし。


 戻ったら、騎士団の魔法使いとして救急班へ転属が決まってる。


 救急班の仕事は二十四時間体制だそうだけど、女性は朝から昼までの早番と、昼から夕刻までの遅番を担当するんだって。夜勤は男性のみなんだそうだ。


 魔法使いの女性は多くないから、一緒に仕事をするのが今から楽しみだな。やっぱり、女性同士の会話って楽しいなって、見学させてもらった時に思ったし。


 とにかく、遠征が無事に終わって欲しいと心から願うよ。


              ☆


 現地につくと、皆んな緊張でピリピリしだした。

 予想より魔物が多いみたいだ。


 ベースキャンプが作られ、振り分けが発表される。


 私はディアンとシルビアさんという面子で、第二騎士団の騎士についていく。騎士団は四つのチームに別れるようだ。


 第一、第二、騎士団とも、団長、副団長がチームを率いて、魔法騎士が同行する。ライアンが割り振られたチームには、ルシアとニコラが同行するらしい。


 遠征に出る前、ライアンから絶対に一人になるなと念を押されてた。


 私の魔法は、まだ発動率が五割だから、魔物に襲われた時に発動するとは限らない。一人で魔物に襲われて魔法が発動しなければ、最悪の事態が待っている。


 ディアンからも離れるなと、きつく言われてた。


 のに……。


 私達のチームはベースキャンプの近くを担当し、戦っていたのはヴォルクの群れだったんだけど、ヴァローナの群れが上空から襲ってきて、混戦になり、私はディアンから少し離れてしまった。


 シルビアさんが剣士達に支援魔法を放ち、剣士の人達が魔性の狼に加え、カラス達を薙ぎ払ってる時。


 跳躍して来たヴォルクを避けようとして、私は足を滑らせた。


 戦っていたのが、ちょうど小さな崖のある場所だったのも悪かった。

 背後からの奇襲を避ける為に、ベースキャンプは崖のそばに作ってあったから。


 滑り落ちた私は、森の中で一人になってしまった。


 頭上の崖の上、元の位置に戻るには、少し大回りして森の中を抜けていかなければならない。


「……も、戻らなきゃ」


 私が崖沿いに移動し始めてすぐ。


 オークに出会ってしまった。


 人の倍の大きさ、黄土色の皮膚、人の美意識で言えば醜く、そして知性が低く乱暴で衝動的。オークは魔性を帯びた人間だ。原始的で野蛮な部分が強く出ている。


 白濁した灰色の目に、獲物を見つけた喜びが浮かぶ。

 黄色い歯を剥き出して歪んだ笑みを見せる。


 ……オークが居るなんて聞いてないよ。


 不幸中の幸いは単体だった事。

 不幸中の不幸は雄の個体だった事だ。


 私は踵を返して走り出す。

 捕まったら、連れ去られて繁殖に使われてしまう。

 ……最悪だ。


 オークは私の数倍の大きさだ、ゆっくり追いかけて来てるにの速い。

 自分の足の短さを恨んだって仕方ないけど。

 全く逃げ切れる気がしない。


 私は左手のブレスレットに触れる。

 ディアンの言葉が頭をよぎる。


 ……使う時に躊躇しちゃダメだ。


 追い詰められた私は足を止めてオークを睨む。

 オークが大きな腕を伸ばして来た。

 歪んだ笑みに背筋が総毛立つ。


 魔法を発動させる時間はない。

 左手のブレスレットを掴んで、引きちぎって投げつけた。


 四本のブレスレットは、眩い閃光を放ってオークの動きを止める。


 ……投げつけたら迷わず走って逃げろ。


 私はオークの横をすり抜けて、来た道を全力で走った。

 そっちに行かなければ、崖の上に戻ることができないもの。


 執着の強い性質を持つオークは、しばらく閃光で足を止めていたけど、やっぱり追いかけてくる。次に追いつかれたら打つ手がない。


 息が上がって足の動きが遅くなる。

 後ろから追って来たオークの気配が近づいてくる。


 ……どうしよう。

 混乱する自分を抑え込み、とにかく足を前に出す。


 その時、私の横を走り抜けてく人が見えた。


 ……え?


 振り返れば、ライアンが飛び上がって木の枝に飛びつき、反動をつけてオークを蹴り倒すのが見えた。彼は着地すると同時に剣を構える。


 オークは唸り声を上げて立ち上がり、ライアンに太い腕を伸ばした。


 彼はオークの腕をすり抜け、踊るように背後に回って、後ろからオークの首に剣を当て、両手を使って力任せに切り裂いた。オークの黒みがかった緑の血液が飛び散って、口から泡と血液を吹き出して倒れた。


 肩で息をするライアンが剣を地面に刺し、私に両腕を伸ばして呼んだ。


「リン!」


 私は走って行って彼の腕の中に飛び込み、しがみついた。

 体の震えが止まらない。


「お前、こんな所で何やってんだ」


 溜め息のようなライアンの声が聞こえる。

 私は返事もできないで、ただ、彼に強くしがみついてた。

 ライアンは私を抱きしめて髪に顔を埋める。


「閃光が見えたから、村人かと思ったんだぞ」


 私は大きく息を吸って、彼を見上げた。

 ライアンは、泣きそうな、ホッとしたような、複雑な目で私を見つめる。


「……崖から、落ちて」

「どこも、何ともないか?」


 私が無言で頷くと、彼は、もう一度、私をギュウッと強く抱きしめてくれた。

 その体温とライアンの匂いで、体の震えが収まってくる。


 私は全身で息を吐き出した。

 本当に……怖かった。


 ライアンは私を離すと辺りを見回した。


「戻るぞ。走れるか?」


 頷いた私の手を掴んだライアンは手を引いて走り出した。

 足がガクガクするけど、私は必死で彼について走った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。