↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/77

報告

朝、目を覚ますと、ライアンがジッと私を見つめてた。

ずいぶん、真剣な表情で。


「……ライアン」

「おはよう」

「あ、おはよう。あの……」


彼はふっと表情を緩めて微笑んだ。

「俺、簡単に死ねなくなったな」


私は思わずライアンの首に抱きついてた。

言葉は出てこない。


ライアンは私を強く抱きしめて髪に顔を埋めた。

「リン。大切にする。誓うよ」


優しい声でそう言ってくれた。

私は胸がいっぱいで、ただ彼を強く抱きしめ返した。


私の目が覚めた時間が遅かったみたいで……。

昨夜の食事をワゴンに片付けて廊下に出したら、もう新しいワゴンが置かれてた。


朝食はパンとハムとフルーツにお茶で、軽めだったのは嬉しかった。

ライアンが欠伸を噛み殺して伸びをしてる。

寝不足なのね……私もだけど。


食事をして、荷物を片付け、部屋を少し整えていたらノックの音がした。

ライアンが扉を開けると、淡い水色のワンピース姿のシルビアさんと、光沢のあるシャツにゆったりしたグレーのズボンを履いたグレイさんが、揃って手を繋いで立っていた。


「おはよう、二人とも。ゆっくりできた?」


 ライアンが笑って肩を上下する。

「お陰様で」


グレイさんが、私の左手を見て微笑んだ。

「シッカリ決めたみたいだな」


ライアンが、小さく笑って私を呼ぶ。

「リン」


私がライアンの隣に並ぶと、肩を抱いて二人に言った。

「俺たちも結婚するよ」


二人が笑って頷く。

シルビアさんが続けて言った。


「式は私達の後にしてね。私とグレイが立会人になるから」


私が不思議そうに彼女を見ると、微笑んでウィンクした。

「トルアの結婚には、立会人が必要なのよ」


グレイさんも微笑む。

「先に結婚してる夫婦が立ち会うものなんだよ」


……なるほど。

仲人的なものを指してるのかな?


それから、両腕を広げたシルビアさんが私を呼んだ。


「リン、来て」


私は微笑んで彼女の腕に抱かれる。


「少し残念だわ。本気で面倒みたかったのにさ。でも……おめでとう」

「ありがとうございます」


彼女は私を離してしみじみと見つめ、柔らかく髪を撫でた。


「ここに召喚された頃は、まるで迷子みたいな顔してたのよ。どれだけ、申し訳ないと思ったかしれないわ。でも、今はトルアの大切な魔法使いになった。頼りにしてるわ、リン」


私は少し恥ずかしくて、目を瞬く。

「皆さんのお陰です。まだ、一人前じゃないですけど、頑張ります」


グレイさんが私たちを見て微笑むと、ライアンに視線を移す。

「さてと、ライアン。用意が出来たら先に行こう」

「はい」


ライアンが自分の荷物を持って、私の頭をポンと軽く叩いた。

「先に帰ってる」

「……はい」


討伐前のお休みは、きっと、忘れられない。

大切な思い出になって胸に残るだろうな。


私はふっと自分の左手薬指に目をやった。

シルバーにハメ込まれた小さなトパーズが、陽の光を受けて煌めいて見えた。


                ☆


アイアン家に戻って荷物を片付け、ララさんに挨拶してお茶を入れてもらった。

「シルビア姫の別荘は、いかがでしたか?」

「お屋敷でした。アレで別荘なんですから、何やら勿体無い」

私が笑うと、彼女も笑った。


それから彼女は不思議な笑みを浮かべた。

「ライアン坊ちゃんとご結婚なさるんですね」

「……え?」


どうして分かるんだろう。


彼女は微笑んで悪戯そうに言った。

「娘が嫁ぐ事を決めた時と、同じ様子をしてますもの」


私は少し恥ずかしくなって、軽く俯向いてから頷いた。

「………はい」


ララさんは座ったままで、私を抱き寄せる。

「貴女が他に嫁がなくて良かった。これからもよろしくお願いしますね」

「私の方こそ。ララさんは、トルアに来てからのお母さんだと思ってますから」


彼女は目を細めて、少し涙目になる。

「あの小さかった方が、こんな可愛いお嬢さんとねぇ。不思議なものですよ」


私は幼かった頃のライアンの思い出話しを、ララさんから、たっぷり聞かせてもらった。


            ☆


夕方になって、少し眠ってた私の部屋を誰かがノックする。


……ああ、ライアンだなって分かった。

私ってば、ノックの仕方でライアンだと分かるようになってる。


起き上がってドアを開くと、ライアンがクスッと笑った。


「寝てたか」

「うん。でも、もう起きるよ。夜、眠れなくなるし」

「親父が帰って来たから、ちょっと付き合えよ」

「……はい」


きっと、報告するんだよね。

少し緊張するなぁ。


二人でアイアンさんの書斎を訪ねると、彼は面白そうに私達を見た。


ライアンは前置きも言わないで、私の肩を抱いて言う。

「父さん。俺、リンと結婚するよ」


アイアンさんは、嬉しそうに笑った。

「やっと、そうなったか」


……やっと?


アイアンさんが、優しい目で私に問いかける。

「リン。本当にライアンに嫁いでくれるのかい?」


私は大きく頷いて微笑んだ。

「はい」


アイアンさんも微笑んで、私を抱き締めた。

「有難う。息子をよろしく頼む」


私を抱き締めたまま続ける。

「私にも、やっと娘ができるんだな」


ライアンが片眉を上げて父親の腕を軽く叩く。

「いつまで抱いてんだ?」


アイアンさんが苦笑して私を離した。


「少しくらい幸せを分けたっていいだろうに。ケチくさいな、ライアン」

「大きなお世話だよ」


二人はそのまま抱き締め合って、背中を叩き合う。


「他に持ってかれるかと心配したぞ」

「人になんかやらねぇよ」


アイアンさんが、父親の目でライアンを見つめて笑う。

「おめでとう」

ライアンは、少し照れたように微笑んだ。

「ああ、有難う」


ライアンを離したアイアンさんが、目を細めて言った。


「これからの話しは、改めてにしよう。とにかく、二人とも遠征から無事に戻って来るんだぞ」


ライアンが、私の肩を抱いて言った。

「分かってる。無事に戻って来るよ。リンも、俺も」


アイアンさんが静かに頷いた。


そうだよね。

アイアンさんは、息子を二人とも遠征に送るんだよね。

彼の家族を……。


私は祈るような気持ちで、遠征が無事に終わる事を願わないで居られなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。