そのタイミング?
一度、別荘に戻ったら部屋の外にワゴンが置いてあって、昼食が乗ってた。
私はこの国に来て、初めてパスタを食べました。
あるんだね、パスタ。
まあ、トルアは小麦が主食みたいだから、あっても変ではないんだけど。
ライアンも珍しそうに食べてたから、一般的ではないんだろうな。
その後、二人で湖の周りを散策して、今日はよく歩いた。
夕焼けが始まったから、シルビアさんの別荘に戻ると、すぐに、浴室の用意が出来ましたってメイドさんが知らせてくれた。
「先に入って来いよ」
ライアンがそう言ったから、私は着替えを持ってメイドさんについてく。
浴室は広くて綺麗で……さすがですよね。
お湯からは薔薇の香りがしてました。
汗を流して、髪を洗って。
ええと。
私、すごく緊張してきてるんだけど。
だって、やっぱり、この流れ的に……。
あの部屋に二人で泊まるんだよね?
えっと……嫌ではないけど。
ふーっと息を吸い込んで、自分を落ち着かせる。
いや、無理。
落ち着くわけない。
肌と髪にララさん特製のオイルを塗って、少しボンヤリ。
あ、でも、ライアンと交代しないとお湯が冷めちゃうよね。
部屋に戻って緊張しながら扉を開ける。
「ただいま」
ライアンがソファーから私を見上げた。
「お帰り」
ああ……自分の目が泳ぐよ。
「あの、お風呂空きました。浴室は廊下に出て、右に真っ直ぐ行って、突き当たりを左です」
「了解」
彼はヒョイッと立ち上がると、着替えを持つ。
部屋を出て行く時に、私の耳に顔を寄せて小さく言った。
「濡れ髪って色っぽいよな」
私がグッと詰まっていると、喉の奥でククッって笑って出てった。
すでに心臓が壊れそうなんだけど。
深呼吸して荷物を片付けて、窓まで歩く。
窓の外には月明かりに照らされた湖が見えた。
シルビアさんもグレイさんも、姿すら見かけないんだけど。
まあ、邪魔しないでって言われてるし。
探すのもアレなんだけど。
でも……なんか、落ち着かないなぁ。
結局、学園の制服に着替え直したんだけど。
これで眠るわけにもいかないよね。
荷物には夜着も入ってるんだけどさ。
なんか……ねぇ。
☆
戻って来たライアンは、ワゴンを押しながら部屋に入って来た。
ええ、確かに濡れ髪は色っぽいですね。
彼は苦笑しながらワゴンを見る。
「二人で食べる量に思えないよな」
確かに、スープにパンにサラダ、魚料理に肉料理にフルーツにデザート。
うん。たぶん、食べきれない。
ライアンが、少しだけ嬉しそうにしたから、思わず聞く。
「なに?」
「ワイン」
「ワイン? ライアンってお酒飲むの?」
「大酒は飲まないけどな。ワインは好きな方だな」
……へぇ。
ライアンの事で知らないこと、まだ沢山あるんだね。
せっかくだから、食事をテーブルに並べ直すと、ライアンが燭台に火を灯してランプを消した。なんか、それだけで、一気にディナー感が増してる。
ライアンは、早速ワインをグラスに注ぐ。
「お前も、少しだけ飲めよ」
そう言って、私のグラスにワインを注いだ。
まあ、トルアの成人は十六歳だし。
私も未成年じゃないし。
いいのかな?
向かい合って座って、ワインを口にする。
すごく飲みやすい。
というか、美味しい。
……これ、危ないかも。
私が目を瞬いてると、ライアンが笑った。
「良いワインを出してくるよな」
「ビックリした。ワインって美味しいんだね」
「飲みすぎんなよ? 明日が辛いぞ」
……なるほど。
本当に飲みやすくて、コクコクと飲める。
こうして酔っ払いや、二日酔いの人が出来上がるのか。
美味しかったけど、私はライアンが注いだ分だけでやめる事にした。
ティーポットもあって、ジャスミンのお茶が淹れてあったし。
私はそっちを飲む。うん、お茶も美味しい。
でもワインを飲んだら胃の辺りがポッと暖かくなって、気分が少し楽になったみたい。ガチガチの緊張が少し緩和された感じ。
食事も、さすがって感じで美味しい。
でも、ララさんの料理の方が好きだなぁ。
なんていうか、ホッとする美味しさなのよね。
それに、やっぱり緊張してて、あんまり食べられないや。
ライアンも、いつもより食べないみたい。
ワインはけっこう飲んでるみたいだけど、別に酔ったふうでもないから、お酒が強いのかな。
「リン、あんまり食べないな。あっち、行こうか」
「あっち?」
「ソファーの方」
彼は燭台をソファーのテーブルに移すと、フルーツのお皿とワインを置く。
私を立たせると、そのままソファーへ連れてく。
えっと。
酔ってないっていうのは、酔って見えないってだけ?
ライアンは私の腰を抱いて、そのままソファーに座った。
「えっと、ライアン。酔ってる?」
「いや。酔ってないよ。ほら、口開けろよ」
「えっ?」
フルーツのお皿から葡萄を摘むと、私の口に持って来る。
「あ、あの。食べたかったら、一人で食べられるから」
「いいから、口、開けろ」
仕方なく、あーんってすると、葡萄を私の口に放り込む。
シルビアさんの所の料理人さんは、葡萄の皮まで剥いといてくれるんですね。
ライアンは葡萄を食べる私を、なんでか嬉しそうに見てる。
こういう時って、ほとんど愛玩動物だなって思う。
そうやって、何度か私にフルーツを食べさせると、悪戯そうにニッと笑った。
自分の口にワインを含むと、私の首を掴んで口付ける。
口の中に芳醇なワインが流れ込んできた。
慌てて飲み下すと、そのまま、ゆっくりとキスが続いた。
……やっぱり、少し酔ってませんか?
唇を離したライアンは、ふっと目に緊張を滲ませた。
なに?
なんですか?
「リン」
彼は自分のポケットに手を突っ込んで、私の左手を取ると、左手の薬指に指輪をハメた。
「俺と結婚しよう」
私は目が点になってしまう。
……指輪。
しかも、小さな宝石がハマってる。この色はトパーズだよね。
「え、あ、あの」
「返事は?」
「……はい」
彼は、ハァーって息を吐いて笑った。
「緊張した。こういうの、言い出すタイミングが分かんねぇよ」
「……これ、どうしたの?」
ライアンが甘い目で私を見つめる。
「リンの国では、こうやって求婚するんだって、わざわざ、シルビアが教えに来たんだよ。お前の指のサイズだっていう紐持ってさ。だから……店に頼んで指輪を作ってもらってた」
あ……あれ。
シルビアさん。
あの紐、ライアンに持ってたんですか。
それで……。
指輪、作ってくれたんだ。
自分の左手を胸元に抱いて、ジンッと感じ入る。
なんか、やっぱり、嬉しい。
「……ありがとう、ライアン」
私は改めて自分の指にハマった指輪を見る。
シンプルだけど、とても上品なデザインで、小さな黄色い石がロウソクの灯りに揺れてる。
彼は微笑んで立ち上がると、ランプに灯りを灯して、ロウソクの灯りを消した。
そのまま私をヨイショって抱き上げてベッドに運ぶ。
……え?
「じゃあ、昼間の続きしようか」
「はい?」
私をベッドに下ろしたライアンは、くるっと反対向きに回して両腕を取った。
「え? あ、あの、ライアン?」
ポケットからハンカチを出したと思ったら、私の手を後ろ手に縛り出す。
何でも入ってるポケットだね。
……って。
「ラ、ライアン。何してるの?」
「縛ってる」
「し、縛ってるって、なんで」
「手を噛まないようにな」
そして、私をクルッと自分に向けると、少し意地悪そうに口元だけで笑う。
「それと。俺が堪能するため」
「……た、堪能って」
そのまま私の耳に顔を寄せ、溶けるほど甘く囁く。
「もう、我慢しなくていいだろ」
……答えられるわけがない。




