ボート遊び
私とライアンは、しばらく無言で立ってた。
もう、本当に、どうしていいか分からないんだもの。
ふうっと息を吸い込んだライアンが、自分の荷物を置いて私を見る。
「こんなの……聞いてねぇよな」
「……うん」
困ったように髪を掻き上げると、改めて私を見る。
「それ、シルビアがやったのか?」
「え?」
「服とか、髪とか」
「……そう」
彼は少し照れたように目を逸らして、軽く肩を上下させて笑った。
「似合うな。っていうか、メチャメチャ可愛い」
私はボッと音が出そうな勢いで赤くなるのが分かった。
「え、あ。……ありがとう」
ライアンは赤くなった私を面白そうに見て、笑いながら言った。
「仕方ないから、ボートにでも乗るか?」
「う、うん!」
部屋で二人きりは、やっぱり緊張しすぎるもんね。
外に出て遊んだ方が、いくらかマシだわ。
☆
シルビアさんの別荘からは、本当にすぐの所に湖がある。
けっこう大きな湖で、周りが木々に囲まれてて、とても風光明媚だ。
ボート乗り場は無人だったけど、ボートはキチンと手入れされてるみたいだ。
「勝手に使えって、グレイさんが言ってたしな。大丈夫だろ」
ライアンはボート乗り場に結んであるロープを外し、私の手を取って先にボートへ乗せてくれた。
「大丈夫か?」
「うん」
私がおっかなビックリでボートに座ると、ライアンはボートを蹴って、ヒョイっとそのままボートに乗った。なんて身軽なんだろ。
本当に、身体能力の違いを痛感するよ。
……私も少し鍛えないとなぁ。
ボートに乗って湖に漕ぎ出すと、湖面を風が抜けて気持ちよかった。
「ライアン。この湖の名前とか知ってる?」
「いや……知らない。湖に名前なんかあんの?」
「え? あるでしょ?」
「森の北側のヤツとか、城の南西の小さめのヤツとかで通じるだろ」
……ほぉ。
もしかして、トルアって湖に名前がついて無いのかもね。
ライアンは器用にオールを操りながら、湖の反対側へ漕いでゆく。
「漕ぐの上手なんだね」
私が関心していると、彼はクスッと笑う。
笑みが甘いのは、二人っきりだから気が抜けたのかな。
「漕いで見るか?」
彼にオールを渡されたけど、私はオールを水の中から上手く引き上げる事ができない。おまけに左右のバランスが難かしくて……。
「ああ、ダメだぁ。ボートが回っちゃうよ」
「左が弱いな。リン、水面に出すときはオールを垂直にすんだよ」
「……難しい」
ライアンが軽く身を浮かせて、私の座ってる方へ移動してくる。
「重さが偏るとひっくり返るからな。あんま、動くなよ?」
そう言いながら、私を足の間に入れて座った。
……えっと。
そのまま手を取って、一緒にオールを漕いでくれる。
「あ、すごい。進むね」
「お前、筋力が無さすぎなんだよ」
「……いや。剣を振るう人に言われても」
というか、体が密着してて少し恥ずかしい。
ライアンの息が顔にかかるもの。
何か話してないと……。
意識しちゃって、体が強張ってきちゃう。
「えっと。ボート、よく乗るの?」
「……よくってわけじゃないけどな。遠征なんか行くと荷物を運ぶのに都合がいいからさ。湖より、川で乗ることの方が多いな」
あ、どうしよう。
ライアンの声がビックリするくらい近い。
甘い声が顔のすぐ横で聞こえて、くすぐったいくらい。
「ね、ねえ、ライアン。それ、ボートなの? すでに船じゃない?」
「ええ? 大して変わんないだろ?」
「変わるでしょ。だって、荷物運ぶんだよね?」
彼が揶揄うように言う。
「今も荷物運んでるぜ? ちょっと面倒くさいヤツ」
「……私のことじゃないよね? 面倒くさいって」
振り返って睨んだら、甘すぎる視線とぶつかった。
ライアンがオールを船に引き上げて、ふいっと私の腰を抱く。
「お前を相手にしてると、自分が面倒くさい」
そう言って首筋にキスをする。
私は身をよじりたいんだけど、ボートの上だし。
転覆は避けたいんだし。
私はグッと唇を噛んで動きたいのを我慢する。
だから……そのまま首筋を舐めるの止めて。
……が、我慢してるんだから。
「ラ、ライアン。ボートの、上だし」
「……そうだな」
そうだなって言いながら止めないし。
唇が動くたびにゾクゾクする。
「や……ダ、ダメだって。ライアン」
私が体を離そうとすると、両手で抱きしめる。
ちょ、そこ、触っていいとこじゃないし。
クスッと笑った彼は面白そうに言う。
「動くとひっくり返るぜ?」
……確信犯なんですか。
ライアンが耳元で甘く囁く。
「……ヤバイ。リン。止まんない」
そう言って私の顔を自分に向けさせて、後ろから抱いたまま、ゆっくり口付ける。頭の芯が痺れてくるみたい。何も考えられなくなってく。
ヤバイのは私の方だよ。
ライアンの口付けは力が抜けちゃう。
そのまま、彼の手が私に触れるから。
「……や……あ」
声が出ちゃうし。
彼は耳元で愉悦に満ちた声で囁いた。
「そういう声、たまんない」
もう恥ずかしくて、私は自分の手を噛んで口を塞ぐ。
ライアンに触れられるたびに、自分の体が熱くなってゆくのが分かる。
すぐに私が手を噛んでるのに気づいた彼は、顔を寄せて囁くように言う。
「手、噛むなよ。痛いだろ」
そう言って私の手を口から外そうとする。
私が手を噛んだままで首を振ると、大きく溜め息をついた。
彼は額を私の肩に乗せると、そっと抱き締める。
そのまま、しばらく動かなかった。
「………今はもう何もしないから。手を外せよ」
私はゆっくり自分の手を口から離した。
ライアンの困ったような、甘いような目が私を見つめる。
「ごめん。髪が……」
私は髪をほどいて、ライアンに微笑む。
「こっちの方が楽だしね」
彼が目を細めて笑った。
「まあ、その方が触りやすいしな」
私が軽く睨むと、はぁっと息をついた。
「睨むなよ。今日のお前、本当に……そそる」




