別荘
シルビアさんの別荘って……アイアン家より大きいですね。
さすが皇女だけあるなぁ。
大きな湖のすぐ近くに、お城が建ってんですよ。
そりゃ、トルア城に比べれば、ずっと小さいですけど。
馬車が着くと黒いベストに黒ズボンの、白髪の男性が迎えに出てくれました。
ええと……バトラーと呼ばれる方なんでしょうか。
「凄いですね」
「え? 何が?」
何がじゃないですよ。
「私には別荘じゃなくて、お城に見えます」
「ああ。そりゃそうよ。お城だもん。私達が泊まるのはね、あっち」
そう言ってシルビアさんが指差したのは、お城より湖に近いお屋敷だった。
はは。それでもビックリだけど。
「こっちは父上の持ち物なのよ。何人か手伝いに来てもらうから、挨拶してくだけだから」
「えっと……では、あの別荘は?」
「ああ、アレは私の個人所有」
「……はは。やっぱり、凄いです」
シルビアさんがバトラーの方とお話ししてる間、私は馬車で待ってるように言われたから、そっと幌馬車についてる小さな窓のカーテンを開ける。
そこからでも個人所有とシルビアさんが言ってた別荘が見えた。アイアン家より少し小ぶりだけど、十分にお屋敷だよ。
赤いトンガリ屋根で、ベージュの外壁、部屋数は分からないけど、窓の数をかぞえると七部屋から八部屋はありそう。扉の横には広い窓があって、芝生が広がってるのが見えた。
……それが別荘ですよ。
町から近いって言ってたけど、本当に馬車で三十分くらいなんだよ?
ここからなら、馬を使えば町まで遠くない。
でも、別荘扱いかぁ。
なんか、勿体ないなと。
庶民はしみじみ思ってしまう。
まあ、シルビアさんは、お姫様だしなぁ。
気さくな方なので……忘れがちなんだけどね。
☆
シルビアさん所有の別荘に着くと、彼女は私をツインの部屋に通したんですけど。
……なぜ、ツイン?
上品なクリーム色のソファーセットがあって、絨毯もフカフカですね。
えっと、奥にダブルのベッドが見えるんですけど。
一人で使っていいって事ですよね?
……そうですよね?
「この部屋を好きに使って。ええとね、食事は別にしてくれると私が嬉しい。だから、食事は時間で扉の外にワゴンを置いてもらうようにしてあるから、勝手に部屋で食べてね。リクエストがあったら早めに言ってくれれば対応出来るから」
彼女はベッドサイドに置いてあったベルを鳴らしてウィンクした。
「使用人に用がある時には、このベルを鳴らすの」
「……はい」
扉がノックされ、メイドさんがシルビアさんに何やら包みを渡す。
シルビアさんに微笑まれて、まだ年若いメイドさんは頬を染めて目を潤ませた。
緊張した面持ちで、そっと部屋の扉を閉める。
うん。気持ちはよく分かる。
照れちゃうくらい、美人だもんね。
シルビアさんが悪戯そうに微笑んで私を見る。
「さ、着替えようか、リン」
「……え? あ、いえ。私はこのままで」
「何を言ってるの? せっかく泊まりでデートなのに」
……えっと。
そうなの?
これって、泊まりでデートなの?
私が真っ赤になったらしく、シルビアさんがクスクスと嬉しそうに笑った。
「もう。リンたら、可愛いなぁ」
「や、いえ……あの」
「ほら、私がもっと可愛くしてあげるから」
シルビアさんの細い指が、私のブラウスを脱がせようとする。
な、なんか、すごく、恥ずかしいんだけど。
「シ、シルビアさん。自分ででき……」
彼女は私の耳元に口を寄せて妖しく囁く。
「いいから任せて。体の力を抜いててよ」
や、あの、何で囁くのシルビアさん。
余計に恥ずかしいってば。
彼女の手で着替えさせられたのは、黄色に近いオレンジのサマードレスだった。生地がサラサラで着心地が抜群なのは、すごく高い布を使ってるからじゃないんだろうか。
花の形をしたスカート部分が、確かにとても可愛らしいし、装飾は過剰ではなく上品ですね。
確かに素敵なんですけど……。
ノースリーブな上に少し、えっと。
「あの。胸元が開きすぎじゃないですか?」
「そう? ほら、昼間はカーディガンを羽織ってればいいし」
シルビアさんは、淡いクリーム色のサマーカーディガンを私に着せた。
「うん。やっぱり、リンは太陽の色が似合うわ。絶対にそうだと思ったのよね」
彼女は目を細めて私を見直し、一本三つ編みにした私の髪をクルクルとお団子にしてピンで留めた。
「やっぱり、女は、うなじよね」
「え……と」
「うん。可愛いわ。さすが、私のリンだわ」
……ええと。
着せ替えがしたかったんですね。
お人形扱いだよなぁ。
「ほら、この靴も可愛いでしょ? けっこう悩んだんだから」
「良いんですか? ええと、こんな高そうなお洋服を」
「いいのよ。私が着せたかったんだから」
扉をノックする音がして、グレイさんとライアンが入って来た。
グレイさんが柔和な笑みを浮かべてシルビアさんを見る。
「連れてきたよ」
「ありがと、グレイ。ようこそ、ライアン」
彼女に艶然と微笑まれ、ライアンは少し戸惑ったように頷いた。
シルビアさんの隣に立ってる私を見て、少し目を見張る。
……えっと。
やっぱり、服に着られてる感があるよね。
グレイさんが小さく微笑んで私を見た。
「ああ、シルビーの言った通りだね。リンさん、その服、とても似合ってますよ」
なんだか恥ずかしくなって、私は軽く俯いてしまう。
「あ、えっと。有難うございます」
シルビアさんがライアンに笑いかけた。
「ボートの場所とか、グレイに聞いてるでしょ? 好きに過ごしてくれていいから、私達の邪魔はしないでね」
そう言った彼女は、グレイさんの腕を取るとライアンに軽くウィンクした。
「せっかく、作った機会なんだから有効に使って」
ライアンは戸惑いまくった様子で二人を見た。
「え? 俺もここなんですか?」
グレイさんが少し目を細めてライアンを見る。
「そうだよ。君もこの部屋に泊まるんだ、ライアン」
それから、ライアンの腕をポンッと軽く叩いて口元だけで笑う。
「君も男なら、シッカリ決めろよ?」
シルビアさんとグレイさんは、呆然としてる私達を残して部屋を出て行ってしまった。
……えっと。
ど、どうしよう。




