落ち着かない
遠征前の一週間で、騎士達は交代で二日づつ休みをもらう事になったわけだけど。詰所の掲示板を見ながら、ルシアが溜め息をついた。
「リンと休みがズレてます」
「そうだねぇ」
「また一緒に何処かへ出かけたかったな」
「……そうだね。機会があったら行こうね」
私達が掲示板を見ていると、ニコラが寄って来た。
「へえ、リンは早めに休みなんだね」
「ニコラ。うん。そうみたい」
彼は少し面白そうに笑った。
「シルビアの休みに合わせてるんだろ?」
……なんで知ってるんですか。
「シルビアに自慢された。リンを旅行に連れてくんだって」
ニコラがククッと喉の奥で笑った。
掲示板を見直したルシアがプッと頰を膨らませる。
「シルビアさん、狡いです。職権乱用ですよ」
私の鼻くらいまでしかなかったルシアだけど、今は目の高さまで背が伸びてる。
少しづつ横顔も大人びてきてる。
でも、こういう物言いは変わらなくて可愛い。
相変わらず美少女だし。
「でも、ほら、ルシアはディアンと休みが一緒だよ?」
私が慰めるように言うと、彼女は微妙な表情になった。
「……そうですね」
ニコラが苦笑を浮かべて、そんなルシアを見る。
「待ってないで、誘ったら?」
ルシアはキュッとニコラを睨んだ。
なんか、可愛い。
彼女はツンと顎を上げる。
「人の事は放っておいて下さい。ニコラこそ、休みはどうするんですか?」
ニコラはポリッと顎を掻く。
「別に予定はないんだよね。ルシアが暇なら、僕と何処か行く?」
ルシアはニコラを軽く睨む。
「嫌です」
そう言ったと思ったら、クルッと踵を返して行ってしまった。
ニコラが面白そうに私を見る。
「振られちゃったな」
「ニコラが揶揄うからでしょ?」
「揶揄ったつもりはないよ。ルシアの魔法にも興味あるからね」
……魔法にねぇ。
そこにダインさんが寄って来る。
「二人とも休みの確認?」
ニコラがダインさんを揶揄うように見た。
「残念だったね、ダイン。ダインの休みは後半だ」
「いいんだよ。俺は二日を利用して星を見に行くんだから」
私はダインさんを見上げる。
「星ですか?」
彼が優しい目で頷く。
「趣味なんだよ。山に入ってキャンプしながら星を観察するんだ」
……へぇ。
ロマンティクな趣味だなぁ。
ニコラがククッと笑った。
「本当はリンを誘いたかったんでしょ?」
ダインさんがニコラの後頭部を軽く叩いた。
「分かりきってる事を言うなよ」
「痛ってぇな。バカになるだろ」
「すでにバカだろ」
この二人って、何だかんだ言って仲が良いなぁ。
私が生暖かい目で見てると、ディアンが掲示板を見に来た。
「なに騒いでんの?」
「休みが合うとか、合わないとかだよ」
彼はふいっと掲示板を確認すると、少し目を細める。
「……ふぅん」
意味ありげに私を見たけど、何も言わないで行ってしまった。
なんか……まあ、うん。
☆
シルビアさんに誘われてから、私ときたら意識し過ぎてライアンが見られないの。ライアンも何となく私を避けてるみたいだし。
ディアンが意味ありげになるのも仕方ないんだよね。
………でも。
どうしていいか、分からないんだもん。
そんな感じのまま、明日から休みに入るんだけど。
大丈夫かな、私。
「リン。シルビアから聞いてるけど、彼女と別荘に行くそうだね?」
その日の夕食後、さっさと食堂を出た私を、アイアンさんが追いかけて来て聞いた。思わず強張ってしまう。
「……はい」
彼は目を瞬き、微妙な表情で私を見つめた。
「嫌なら断ってもいいんだよ?」
今度は私が目を瞬く。
「え? いえ、嫌ではありません」
………そうか。
硬くなってたから、行きたく無さそうに見えちゃってたのかな。
「少し緊張してるだけなんです。初めての事なので」
私がそう言って微笑むと、彼は面白そうな目をした。
……なぜ?
「そうか。それなら、いいんだよ。楽しんでおいで」
「はい。有難うございます」
アイアンさんは、微笑んで頷くと食堂に戻って行った。
なぜ………食堂に?
ララさんにお茶でも淹れてもらうのかな。
☆
取り敢えず。旅行に行けるように荷物を詰めた。
一泊くらいなら、そんなに荷物もない筈なのに、画板とか、ペンとか、インクとか、絵の道具も持ったら、結構な大荷物になっちゃった。
落ち着かない私は、ルシアにもらった金糸草の具合を確かめる。
うん。良い感じで押し花になってる。
この金糸草を使って栞でも作ろうかな。
押し花の板を元に戻して、私は立ったり、座ったり。
……もう。
眠らなきゃいけないのになぁ。
ベッドに入ってランプの灯りを小さく絞る。
目を閉じても、思い浮かんで来るのはライアンの顔だし。
一人でドキドキして。
何かを期待してて。
そこに自分が突っ込みを入れて来る。
……何を期待してるわけ?
落ち着きなさいよ、私。
シルビアさんが、私の気持ちを察して、誘ってくれただけなんだから。
なんだ、かんだ、言ったって、シルビアさんもグレイさんも一緒なんだし。
深呼吸してランプの灯りを消して、目を瞑る。
……もう、ライアンの顔しか浮かんで来ないし。
私は寝返りを打って息を吐く。
諦めて彼を思いながら眠るしかないや。
私は熱を出した夜、ライアンが頭を撫でて歌ってくれた事を思い出す。
彼の優しさを思い出してたら、頭の中で小さく、彼の歌う声が聞こえてきた。
……甘くて優しい声。
ああ。なんとか眠れそう。
私は一人で微笑んで、彼の歌を頭の中で聴きながら、やっと眠りに落ちた。




