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お見合い話

 魔法騎士団の詰所に向かいながら。

 私はいつまで、こうやって騎士団の詰所に通うのかなって考えた。


 ディアンに浄化魔法を使った時、彼は意識がなかったし、ニコラも私が一人で発動させた魔法だって言ってた。

 まだ、魔法の発動は安定してないけど、私は魔法使いになりつつある。


 騎士ではない魔法使いの仕事を、私はあんまり知らない。

 今度、シルビアさんに聞いてみようかな。


 騎士団の詰所に行くと、ディアンが言ってたように、ダインさんが出勤してた。


「おはようございます。ダインさん。昨日はディアンの事でご迷惑をおかけしました。ありがとうございました」


 彼は微笑んで軽く首を振る。


「いや。俺の方こそ責任を感じてるよ。討伐には俺も一緒だったんだからね」

「ディアンが、きっと代わりにダインさんが出勤するから、謝っておいて欲しいと言っていました」


 ダインさんは、もう一度、軽く首を振った。

「僕には、これくらいしかしてやれない。リンの方こそ大丈夫だった?」

「私は何ともありませんよ」


 彼は、あの包み込むような微笑みで私を見た。

「倒れたから心配したよ」

「……あ、ダインさんが運んでくれたんですよね。ありがとうございました」


 ダインさんは、薄い茶の瞳に照れたような色を浮かべた。

「お礼を言われるような事じゃない。君を引っ張ってたの俺なんだし」

「でも、お陰でディアンも無事ですから」


 彼は穏やかな目で頷く。

「本当に良かった」


 私が軽く頭を下げて、団長室に行こうとしたら、ダインさんは私の腕を掴んだ。


「リン」

「はい?」


 立ち止まって見上げると、何度も瞬きを繰り返してから、ぱっと腕を離して困ったように笑った。


「ごめん。何でもない」

「……そうですか?」

「ああ」


 彼は少し笑って、掲示板の方へ歩いて行った。

 ……何だったんだろ。


                 ☆


 その日はニコラとの訓練はお休み。自主練ということで、二時間くらい魔法学園の教室で魔法を発動させる訓練をしてた。相変わらず、魔法の発動は不安定だ。


 でも、風を起こす魔法や、光魔法なんかの、割と初歩の魔法は発動率が上がってる。なんとなく、手応えを感じつつ詰所へ戻った。


 シルビアさんの書類整理を手伝いながら、ふっと、思ってた事を聞いてみる。

「シルビアさん。私が一人で魔法が使えるようになったら、どういう待遇になるんでしょうか」


 彼女は今日も、サラサラの銀髪を揺らして私を見た。


「それなんだけどね。私は、このまま、ここで働いて欲しいんだけど。グレイに意見されてさぁ」

「グレイさんですか?」


「そう。私が抱え込んでおく気なら、リンは何の為に一生懸命に魔法を訓練してるのか。ニコラが、なんで自分の仕事を後回しにしてまで、リンの訓練に付き合ってるのかってね」


 ああ。グレイさん。

 見てないようで、よく見てる。

 本当に有能な人よね。


 シルビアさんが、ふうっと息を吐き出した。


「だからね。リンは魔法騎士団所属の魔法使いって立場になる。騎士達の後方支援として、詰所の救急室で勤務しつつ、遠征なんかの討伐に同行してもらって、ベースキャンプで救急の仕事をしてもらう感じになるかな」


 ……なるほどなぁ。


「まあ、気になるようなら、今度、ここの救急室の仕事を見てみてもいいね」

「そうですね。そうできれば……」


 彼女は少しだけ困った顔で私を見る。


「ただね。もし……リイドの調査の結果によっては、火山への遠征だけには、付き合ってもらうかも。リンの魔法力を当てにしないとダメかもしれないから」


 私は軽く頷く。

「分かりました」


 もし、本当に行われるとなったら、活火山への遠征は規模が大きいみたいだしな。確か第一、第二騎士団とも揃っての遠征だったはず。


                 ☆


 その日の夜だった。

 夕食を終えた私を、アイアンさんが呼んだ。


「リン。少し書斎まで来てくれないか?」

「え? あ、はい」


 ライアンとディアンが、問いかけるような視線をアイアンさんに送る。

 アイアンさんは、ふいっと視線を避けるように目を逸らして食堂を出て行った。


 何なんだろう?

 アイアンさんに呼ばれるなんて、召喚された時以来のことだな。


 私は前にディアンが引っ張って来た部屋へ向かう。

 一番奥の突き当たり、右側だったはず。


 ノックすると、アイアンさんがドアを開いて私を招き入れた。

「すまないな、リン。食事のすぐ後だというのに」

「いえ。何かお話ですか?」


 アイアンさんは私にソファーを勧め、自分も向かい合うようにソファーへ座った。書斎には大きな机と椅子、他に応接用のソファーセットが置いてある。


「話というのはね。実は……見合い話なんだ」

「は? はい?」


 お見合い。

 私の脳裏にディアンの言葉が蘇って来た。

 どんだけ、お見合いを持って来ても断れって……。

 そういう気配は無かったから、安心してたのに。


「あ、あの。私は……」


 アイアンさんが軽く両手を上げて笑う。

「いや。分かってるんだ、リン。君が見合い話に乗り気ではないのは」


 それから、少し困ったように続ける。

「だから、君と面識のない人間からの申し入れは断っていたんだがね。今回は……魔法騎士団の人間なのでね。君に聞いてからにしようと思ったんだ」


 アイアンさんは苦笑いを浮かべて言った。


「クリスタ・ダインくんを知っているかい?」

「……はい」


 ダインさん?


「ダイン家から、私の所へ正式に見合い話が来た。ダイン家は公爵家で、主に文官職に関わっていてね。大臣も排出している名家だよ。クリスタくんは私も知ってる。向上心と気骨を併せ持つ好青年だ」


 アイアンさんが軽く首を傾ぐ。

「正式にお見合いをしてみるかい?」


 私はすごく困った顔になったと思う。

「あの。お断りしたら、アイアンさんが困ったりは……」


「それは、気にしなくていい。別に、断ったからと言って関係が悪くなるような話ではない。家同士はね。ただ、リンに取っては同僚という事になるだろ? それで聞いてからと思ったんだよ」


 私はふうっと息を吸い込んだ。

「それでは、お断りして下さい」


 アイアンさんがクスッと笑った。


 ……はい?

 なぜ、ここで笑いますか?


「分かった。断ろう」

「よろしく、お願いします」


 私が頭を下げると、彼は微笑んだ。


「まあ、そうだろうなと思っていたから。気にしないでいいんだよ」

「いつも、お気遣い頂いて恐縮です」


「はは。リン。畏まらなくていいよ。どうだい、最近は困った事とかないかな?」

「はい。皆さんに良くして頂いています」

「それならいいんだ。困った事があったら、いつでも相談においで」


 アイアンさんがニコニコ笑って頷く。


「呼び出して、すまなかったね」

「いえ。私の方こそ、我儘を言いまして」

「我儘くらい、もっと言っていいんだよ。君は私の娘みたいなもんだからね」


 ………愛でるように微笑まれると。

 少し恥ずかしいな。


 私はアイアンさんの書斎を出て、ほうっと溜め息をついた。

 ああ、なんか。

 ダインさんと顔が合わせ難いなぁ。


 でも……ちゃんと断れた。

 返事のできる申し入れをくれて、本当に良かったな。


 ……ダインさんには、申し訳ないけど。






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