トルア廟
トルア廟というのは、アイアン家から見るとお城の反対側に作られていた。
なんでも、国の設立に関わった英雄のお墓なんだそうだ。
乗合馬車でお城の反対側まで来るのは初めてだ。
なんだか、少し景色が違って見える。
トルア廟は森林公園のようになっていて、大きな石碑の前には多くの人が献花を捧げている。英雄のお墓は、今でも溢れるほどの花に囲まれていた。
「すごいね。こんな所があったんだ」
私が感慨深く石碑を見上げていると、ライアンが小さく笑った。
「お前は、本当に何にでも感動すんだな」
「だって、建国からあるんでしょ? 今でもこんなに慕われてるって、すごいと思う。皆んな、この国が好きなのね」
「まあ、国の象徴だからな」
その日の私は、ライアンにもらった白い薄手のブラウスに若草色の踝まであるフレアスカートを合わせてた。
本当はウエストにリボンを巻くんだけど、それは恥ずかしいからしてない。ごめんなさい、ララさん。
サイドの髪を後ろに集めて一つに縛り、濃い緑の細いリボンも結んだ。
私としては可愛くしたつもりなんだけど……。
ライアンは何にも言ってくれない。
まあ、結局スケッチの道具を持ってるから、大きなカバンをぶら下げてるんだけどね。
ライアンは相変わらずタックの入ったシャツブラウスに、黒いズボンだったけど、腰に黒いウェストポーーチのような物をつけてた。手ぶらってわけには行かなかったみたい。
トルアの夏は、そこまで残暑が厳しくないみたいで、風が吹けば涼しく感じる季節になってた。
少し秋めいて感じる。時の流れって早いなぁ。
雲の様子も少しづつ変わってきてる。
私が空を見上げて流れる雲を見ていたら、ライアンが手を引っ張って笑った。
「リン。カラス見るんだろ? 屋台の近くに行こう」
「屋台の近く?」
「ああ。あいつら、食いもんの近くにいるんだよ」
……なるほど。
カラス達は、観光に訪れた人がくれる食べ物を狙って集まってた。
トルアの人達は、カラスを嫌ったりしてないみたい。
すごく友好的に接してる。
私は真剣にカラスをスケッチした。
ライアンは文句も言わないで、面白そうに私を見てる。
「ライアン。つまらなかったら、散策して来てもいいよ? 私、ここに居るから」
「面白いよ。リン、スケッチすんの早いんだな」
「ラフだからだよ。カラス、ジッとしてないし」
どのくらい、そうしてたろう。
私は、なんとか知りたかった羽のつき方や、尾羽の位置とか、足の具合とかを描き留めることができた。
「ありがとう、ライアン」
私が彼を振り返って言うと、軽く首を傾いで微笑む。
「もういいのか?」
「うん。気になってた部分が分かって、すごく助かった」
「じゃあ、屋台で何か買って食おうか」
「はい!」
私はライアンが買ってくれた、フライドポテトとチキンのサンドイッチ、オレンジ果汁のジュースを持ってベンチに座る。
「あ、お金払う。いくらだった?」
「いらねぇよ。奢ってやるから、こぼさないで食べろよ」
「え、でも。私だってお給金はもらってるし、このくらい払える」
「奢ってやるって言ってんだ。有難く奢られろよ」
私が上目遣いに見ると、彼は溶けそうな甘い目を細める。
「……奢られます。ありがと、ライアン」
「ああ。残すなよ」
私は一生懸命に食べてたんだけど、気づけばライアンは食べ終わって私を見つめてる。えっと。見られてると食べにくいんだけどな。
「ライアン。食べるの早いね」
「そうか? まあ、俺のことは気にしないで、ゆっくり食べな」
「……うん」
だからって、愛でるように見られると恥ずかしいんだけど。
その時、足元にカラスが寄って来た。
お礼に少し分けてあげたいけど、これはライアンが買ってくれたんだからダメ。
全部、私が食べるの。ごめんね。
私が情けない顔をしたんだろうな。
思案気に眉を寄せたライアンが……。
「リン。ちょっと、そのまま食べてろよ」
そう言ってから立ち上がって屋台に向かう。
戻って来るとクッキーの袋を持ってた。
「モデル代ってヤツだな」
面白そうに笑って、砕いたクッキーをカラスに放ってやる。
この人って……。
私は、すごく嬉しくなって最後のサンドイッチをジュースで吞み下して笑った。
ライアンは、笑った私の口にクッキーを入れて、自分も一枚口に入れる。
「これでお終いだ」
そう言って、袋ごと砕いたクッキーをばら撒いた。
カラスが数羽飛んで来て、奪い合うようにクッキーを啄む。
ポンポンと手を叩いた彼は、立ち上がって私に手を差し出す。
「食い終わったよな? 少し歩こうか」
「うん」
私は彼の手を取って立ち上がった。




