シルビアさんのガーディアン
ニコラに訓練を受けた帰り、私達が魔法騎士団の詰所に戻る為に歩いてる時。
グレイさんは、学園に用事があったらしく、珍しく途中で別れた。
だから……。
私はずっと気になってた事をニコラに聞く事が出来た。
グレイさんが居ると聞き難い事だから。
シルビアさんには、内緒にしときたい。
「ニコラって、シルビアさんのガーディアンを見た事ある?」
「あるよ?」
「どんなガーディアンなの?」
彼は面白そうに笑った。
「大ガラスだよ。ただし、白い」
「……白いカラス?」
「ま、幻獣って架空の動物の姿が多いから、カラスが白くたって驚かないけどね」
「それって、目の色とか、嘴とかも白いの?」
ニコラが不思議そうに私を見る。
「そんなに気になる?」
私は少し躊躇いながら、ニコラにも自分の趣味を話した。
ニコラは興味深そうに私を見る。
「……へぇ。リンの居たとこには、そういう学校があるんだ。弟子入りとかするんじゃなく」
「うん。学校があったよ。ずっと昔は、弟子入りしてたみたいだけど。私の頃には、そもそも弟子を取る師匠が居なかったよ」
ニコラは、それで? って、問いかけるように私を見た。
「で、シルビアさんのガーディアンをモチーフにして、図案化してみたいの。来年には結婚するでしょ? 何か贈りたいなって思って」
「なるほどね。ええとね、確か、目は銀色。瞳は瞳孔が縦に入ってて、何ていうか赤っぽい金色かなぁ。嘴と爪は白かったと思う」
頭の中に湧いた大ガラスは、幻獣らしく荘厳な感じで、とても美しい鳥だった。
「綺麗だね。それって、やっぱり風のエレメントなの?」
ニコラが頷く。
「そう。ディアンと同じ、風のエレメントだね」
私は彼女にライアンから借りてるような、物入れに出来る箱を作ろうと思ってた。その箱の装飾を悩んでて、彼女のガーディアンに興味があったんだ。
「ありがとう、ニコラ。何とか図案化出来そう」
彼は面白そうに私を見る。
「その図案、出来たら見せてよ。駄目出ししてあげるから」
「ええ……。駄目出しなの?」
「チェックとも言うね」
まあ、そっか。
私は見た事ないけど、ニコラは見てるんだもんね。
「分かった。けど……お手柔らかに」
ニコラがクスッと笑った。
「気づいてないんだね。僕はリンに甘いよ。本来はもっと嫌な奴なんだけどね」
「……そうなの?」
「うん。自分でも、意外なくらい」
私は少し返答に困って、目を瞬かせた。
「ニコラは、すごく優しいと思うけど?」
「優しい? 違うよ。リンに甘いだけだ」
うぅん。
上手く伝わってないみたい。
「そうじゃなくて。本質的にっていうか。だって、ニコラはすごく優しく笑うし」
彼は苦笑して私を見た。
「そんなん言われた事ないよ」
そうかなぁ。
私はすごく優しい笑顔だと思うのに。
「本当だよ。少なくとも、私はそう思う」
そう言って笑ったら、彼は珍しく照れたように目を伏せた。
それから、ふうっと溜め息をつく。
「……んっとに。天然って面倒だよな」
「え?」
彼は何かを含んだ目で私を見て言う。
「なんでもない。一人で魔法訓練、今はしないようにね。僕がいいって言うまでは、お預け」
「…………お預けかぁ」
ニコラは、また、小さく笑った。
「また、精霊酔いしたいなら別だけどね」
「え、アレって一回で終わらないの?」
「額の目が開きっぱなしになったら、またなるよ」
そ、それは困るよ。
「分かった。ニコラが、いいって言うまで我慢する」
「それがいい。じゃ、シルビアによろしく言っといて」
「あれ、ニコラは団長室に寄らないの?」
彼は軽く肩を上下させた。
「ちょっと、先に寄りたい所があるからさ」
「分かった。じゃあ、ここで。今日はありがとう」
ニコラは団長室に入って行く私に、軽く手を振った。
一人でシルビアさんに挨拶に行くと、彼女は机に座って仕事をしてた。
真面目に書類仕事をしてくれてて感謝してしまう。
だって、グレイさんを借りっぱなしだし。
「シルビアさん」
私が声をかけると、顔を上げて花のように笑う。
もう、本当に美人。
「訓練は終わったの?」
「はい」
彼女が立ち上がった時、白いシャツブラウスの胸元でペンダントが揺れた。
あれ?
こんなペンダント、してたかな。
シルバーの細工物らしく、小さな蝶のモチーフの愛らしい物だ。
私は思わず口に出していた。
「可愛らしいペンダントですね?」
彼女はニコッと微笑んで、長い指でペンダントを摘むと軽く持ち上げて揺らす。
「ありがとう。これはね、グレイのお婆ちゃんの形見なの」
「へえ。とても凝った細工ですね」
「ま、ね。この国の伝統だから」
私は少し首を傾いだ。
「シルバーの加工がですか?」
「違うの。そっか、リンは知らないか」
彼女は私のそばに寄ってくると、胸のペンダントに触れたまま微笑む。
なんというか、見てるこちらが幸せになるような、満ちた微笑みを浮かべてた。
「伝統っていうのはね。求婚の仕方。身内や、親しい人が逝ってしまった人は、形見を結婚したい人に贈るのよ。ずっと、一緒に思い出を共有して欲しい……そんな意味があるの」
「うわぁ。なんか、ロマンチックなんですね」
「まあ、今は、こんな古典的なプロポーズする人は減ってるけどね。口で言わなきゃ分かんないんだし。あいつ、古臭い男なのよ」
彼女は照れたように首を傾げた。
長い銀髪がサラサラ流れて彼女の肩を滑り落ちる。
ううん。
色っぽいわ。
もう、グレイさんが羨ましくなっちゃう。
シルビアさんは、えへって感じに肩を竦めると私に聞いた。
「リンの居た所では、プロポーズってどんなだったの?」
「そうですね。男性から女性に指輪を贈ります。左手の薬指にはめるんですよ」
「左手の薬指じゃないとダメなの?」
私は自分の左手を出して、右手で薬指から胸下までを撫でてから、シルビアさんに微笑んだ。
「この指が心臓に一番近くて、心臓に思いが詰まってる。そう考えられてたからって聞きました」
「へぇ、なるほどね」
「指輪には誕生石を使うのが一般的でしたね」
彼女が不思議そうに私を見る。
「誕生石?」
「私の居た世界は、ここと同じで一年を十二の月に分けて数えてました。その月ごとに宝石が決まってて、生まれた月の宝石を身につけるとお守りになるって信じられてたんです」
シルビアさんが関心したように頷く。
「やっぱり、プロポーズってロマンチックに出来てるのね。ちなみに、リンの誕生石って?」
「私ですか? 私が生まれたのは十一月だったので、トパーズか、シトリンです」
「……なるほどね。それなら、この国でも手に入りそう」
はい?
手に入れてどうするつもりなんでしょうか?
彼女は少し考えて、引き出しから紐を出してくると。
「左手を貸して」
そう言って私の左手の薬指に巻きつけて、長さを測った。
「ふぅん」
「い、いや。どうするつもりなんですか?」
彼女は悪戯そうに笑って紐をポケットにしまう。
「リンに求婚しようかと思って」
「シルビアさん。私の国では二人の人とは結婚できませんよ。重婚っていう罪になるんです」
シルビアさんがケラケラ笑った。
「トルアでも罪になるよ。でも、求婚するだけなら罪じゃないわ」
……まあ。
確かにそうだけど。
私は面白そうに笑うシルビアさんを、少し不安に思いながら見つめた。




