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一人で魔法

 団長室に行って、シルビアさんに挨拶してから訓練に行くのが日課なので、その日もまずは団長室へ。


 ニコラと一緒に顔を出すと、シルビアさんはグレイさんと二人でお茶を飲んでる所だった。


「おはようございます」


 私たちに気づいたシルビアさんは、満面に笑みを浮かべて立ち上がり、歩いて来て私を抱きしめた。


「おはよう、リン。精霊酔いは、無事に終わったみたいだね」

「昨日は御迷惑をおかけしました」

「ビックリしたよ。けど、まあ、アレが終われば一人前よね」


 婉然と微笑まれると、やっぱり、赤くなるくらい美人だわ。


「今日もグレイが立ち会うからね」


 グレイさんは微笑んでから、カップを置いて立ち上がった。

 私は頭を軽く下げる。


「毎度お付き合いさせて、すみません」

「いやいや。僕も魔法訓練というものを、興味深く見させてもらってるから」


 シルビアさんが含んだ笑いを浮かべた。


「グレイもね、昨日のリンは見てみたかったんだってさ」

「……え?」

「女の私がゾクッとしたって言ったら。家に帰したのを残念がってたわよ」


 私が困っていると、グレイさんがニッコリ笑った。


「そりゃね。僕だって男ですから。女性の魅力的な部分は見たいよね」


 ……いえ、あの。よねって言われても。

 私が少し赤くなって俯くと、シルビアさんが私をギュッと抱いた。


「見せないわよ。リンは私のなんだから」

 そう言って顔を顰め、グレイさんにベッと舌を出す。


 ニコラが呆れたようにシルビアさんに言う。

「それはいいけどさ、いい加減にリンを離してよ。訓練に行きたいんだけど?」


 シルビアさんが私をもう一度ギュッって抱いた。

「少し待ってよ。昨日すぐ帰っちゃったから、リン不足なの」

 そう言って、私の頭に自分の顔を擦り付ける。


「シ、シルビアさん?」

「美味しいとこは、全部ライアンが持ってくんだもん。私にも少しは分けてよ」


 ……えっと。


 ニコラが苦笑しながら、私の腕を掴んで引っ張った。

「はい、はい。もういいでしょ? 時は金なりってね。訓練の時間が減るからさ」


 シルビアさんが仕方なさそうに私を離す。

「グレイ、ちゃんと見ててね?」


 グレイさんが、笑いながら頷く。

「分かってるよ。君も、ちゃんと仕事するんだよ」

「はーい」

 シルビアさんは、先生に言われた生徒みたいな返事をした。


             ☆


 魔法学園の教師に収まると、ニコラは私の額に指を当てた。

「いいかい。ここに三つめの目がある。自分で閉じたり開いたりできる」


 私は少しビックリした。

 だって、サードアイの概念は元の世界にもあったもの。


「それ、知ってる。私の居た世界では第三の目とか、サードアイって呼んでた」


 ニコラが面白そうに笑う。

「へぇ。奇遇だね。それなら話しが早いや。その目をイメージして?」


 私は両目を閉じて額に集中する。

 イラストや映像でサードアイは見た事あるし。

 仏像なんかでも、彫り込まれている物もあったから、イメージはしやすかった。


 ニコラの声が嬉しそうに聞こえてきた。


「そう、そう。いい感じに開いてきてる。そのまま、両手で空間を持って光魔法を唱えてみようか」


 私は両目を少し開いて、自分の手を見る。

 光、眩しいライトを記憶から引っ張り出す。


「……あっ」


 私の手の中で光が輝き出し、眩しいほど発光した。

 ニコラの声が弾んで聞こえる。


「よし! 出来たね、リン!」


 私は、あんまり嬉しくてニコラを抱きしめてた。

「で、できた! 一人で魔法が使えた……ありがとう、ニコラ!」


 ニコラも私を抱きしめて、背中を叩いてくれた。

「うん。やっぱり出来たね、リン!」


 抱き合って喜んでたら、ニコラがグレイさんを見て悪戯そうに言った。

「これは不可抗力だよね? リンの方から抱きついたんだし」


 グレイさんが苦笑を浮かべて私達を見る。

「ま、目を瞑っておくよ。ただし、いい加減で離れなさい」


 私はハッとしてニコラを離した。

「ご、ごめん。つい、嬉しくて」

「謝んなくていいよ。いつでも、抱きついてきて。なんなら、抱き合って訓練してもいいくらいだ」


 ニコラが面白そうに笑うから、私は少し恥ずかしくなって俯いてしまった。


「リン。イメージを忘れないウチに、もう一回やってみようか」


 ニコラに促されて、私は午前中いっぱい魔法の訓練を続けた。


 光魔法と回復魔法、風を起こす魔法、次々と試して行ったけど、成功率は半々くらいだった。

 私が少しヘコんでると、ニコラが笑った。


「贅沢だなぁ。昨日の今日で五割成功なんて破格だぜ?」

「……そうなの?」

「ああ。目が開いたばっかりなら、三割いけば良い方だよ」

「そっか」


 ニコラが私の手を取って、目をジッと見つめる。

「実はね、閉じる方が難しいんだ。手を繋いでるから、一緒にやってみよう」

「はい」


 私は砂金のように光が舞う、ニコラの美しい瞳を見つめた。

 彼の額の目が私の額の目を見つめるのが、分かった。


 なに、この感覚。

 凄く奇妙で……エキサイティングだ。


 彼の額の目が閉じてゆくのに合わせ、私も額の目をゆっくりと閉じる。

 イメージだけど。本当に辺りが少し暗く感じるから、すごく不思議だなぁ。


「リン。もう少し。まだ、少し開いてる。ギュッと瞑って」


 ギュッとね。ギュッと。


「ああ、そう。出来てるよ。閉じたね。ちゃんと閉じてれば、いきなり精霊に呼ばれたりはしないからね。開いてると呼ばれるから、気をつけて」


「……はい」


 ニコラが、とても優しく微笑む。

 本当に、急に驚くほど優しく笑うから、ビックリするよ。


「よし。じゃあ、このまま、額の目を開いたり閉じたり、そういう練習するよ?」

「はい」


 その日は、昨日の分まで訓練を続けていいって、シルビアさんが許可してくれてたから、夕方まで魔法学園でニコラに指導して貰えた。


 成功率は半々のままだけど。

 私は一人で魔法が使えるようになった。


 ……これで、少しは胸を張って魔法使いですって言えるかな。






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