おはようございます
次の朝、食堂に行くとディアンがいつもより早く来ていた。
「おはよう、リン」
「おはよう」
昨日、会ってないだけなのに、なんだか久しぶりな気がしてしまう。
私は嬉しくなってディアンの隣に座る。
ディアンは綺麗な顔で微笑んで、伏せてあるカップを一つ取ると、ティーポットから私の為にお茶を注いでくれた。
「もう大丈夫なの? 精霊酔いしてたって?」
「そうなんだよ。なんか、ずっと声が聞こえてて、おいで、おいでって」
ディアンは苦笑を浮かべて頷いた。
「酔うってほどじゃなかったけど、俺もそんな事があったよ。学園に入学する前だったけど」
「そうなんだ。こういうの、魔法使いには皆んな起こるものなの?」
彼はお茶を飲みながら首を振る。
「皆んなじゃないと思うな。俺なんかもそうだけど、こっちの魔法使いは子供のうちに精霊と接触するからさ。少しづつ慣れていくから、リンみたいに精霊酔いはしないと思う。リンは急に接触が増えたからなったんだろ」
……すごいな。
子供のうちに、あんな世界に触れるんだねぇ。
なんか、根本的に価値観が変わってきそうな気がするよ。
精霊酔いの体験は、本当に貴重だったな。
今は、こんな私でもこの世界の一部なんだって確信があるくらいだし。
ただ……。
「皆んなに、迷惑を掛けちゃったけどね」」
私が少しヘコんだ声を出したら、ディアンは励ますように言ってくれた。
「それはね、魔法使いになってく過程の一つだから仕方ないよ。たぶん。これから、リンは少しづつ一人でも魔法が使えるようになってく。俺がそうだったから。始めは使えたり、使えなかったりだけど、腐らないで訓練を続けなよね」
ディアンてば、優しいなぁ。
「ありがとう。経験者の助言は貴重だよ。少し、気が楽になった」
私が軽く頭を下げると。
「まあ、分からない事があったら聞いてよ」
そう言って、クスッと笑った。
ううむ。
少し先輩ぶってるねぇ。
まあ、こと魔法に関しては、彼の方がずっと先輩なのは間違いないけどね。
そこにライアンが入って来て、私達を見て微笑んだ。
「よぉ。居るってことは、精霊に連れてかれないで済んだんだな」
私は赤くならないように、澄まして挨拶する。
気を抜くと色々、うん、自分が大変な感じになっちゃうからね。
「おはよう、ライアン。昨日は、ありがとう」
彼は甘い目に少し含んだ色を浮かべて笑う。
「どう致しまして」
ディアンがそんなライアンを見て、少し目を細めた。
「ライアン。リンに何にもしなかっただろうね? シルビアさんが心配してたけど?」
ライアンは片眉を上げて弟を見る。
「お前、朝一でそういう事を聞くか? そんな状態じゃなかったよ」
……まあ、うん。
目を瞑ってくれって、言ってたしねぇ。
……うん。
アイアンさんも食堂に入って来て、私を見ると心配そうに言った。
「おはよう。リン、昨日は精霊酔いしたそうだね? もう終わったのかい?」
「はい。お陰様で普通に戻ったみたいです」
アイアンさんが優しく笑う。
「そうか……。それなら、いいんだよ。ディアンの時も、けっこう大変だったからね。早く終わって良かった」
あら?
ディアンが自分で言ってたのとは、少しニュアンスが違うんじゃないかな?
私がチラッとディアンを見ると、彼はフイッと視線を逸らせた。
……ふぅん。
☆
魔法騎士団の詰所に行くと、ルシアが飛び込んで来た。
「おはよう、リン」
「おはよう」
彼女は私を抱きしめると、目を瞬かせて見上げる。
「昨日、精霊酔いを起こしたそうですけど?」
「そうなんだ。でも、もう大丈夫だよ」
ルシアが悪戯そうに笑った。
「残念です。見たかったな。ダインさんを赤面させたって、ニコラが言ってたんですよ。私も赤面したかった」
……ニコラ。何を吹聴しているんだ。
噂をすれば、ダインさんが詰所に入って来て、私とルシアを見た。
「おはよう。二人とも」
「「おはようございます」」
私を見るとダインさんは、戸惑ったように軽く目を逸らす。
「えっと、大丈夫だった?」
「はい。昨日は、すみませんでした」
彼は何度か瞬きを繰り返してから、私に視線を移して、あの包み込むような笑みを浮かべた。
「いや。謝るような事じゃないよ。魔法使いは、稀にそういう状態になるしね」
ルシアも頷いて笑う。
「私は、ずいぶん小さい頃だったんで覚えてないですが。家族は大変だったって言ってました」
三人で話していると、ニコラがやって来た。
私を見ると大きな焦げ茶の目でジッと見てから笑う。
「おはよう。……終わってるね。良かった」
それからダインさんをチラッと見て、ニヤッと口元でだけで笑った。
「残念な人もいるだろうけどね」
ダインさんが無言でニコラの後頭部を叩いた。
「痛って、ダイン。最近、ちょっと暴力的なんじゃない?」
「口の減らない奴がいるからだろ」
ニコラはヒョイと肩を上下させると、私を見て言った。
「じゃ、今日からは少し違う方向の訓練に変えて行くから」
「はい。よろしくお願いします」
それから、やっぱり私を舐めるように見て。
「まあ、ダインだけじゃなくて、僕も残念だけどね。あの状態のリンと訓練しても良かったなって、今になってから思うよ」
うわぁ。
また、背筋がゾクッと。
今度はダインさんじゃなく、ルシアがニコラの脛を蹴った。
「痛ってぇ。何なの、皆んなして」
ルシアがニッと笑った。
「なんか、ムカつくんです」
ダインさんが吹き出して笑うと、ニコラはムッとしたように彼を睨んだ。




