赤いライオン
私もライアンに支えられてるディアンに、近寄って声を掛けた。
「ごめん、ディアン。セーブできなくて」
彼は首を振って笑った。
「リンのせいじゃない。俺がコントロール出来なかっただけだよ」
ニコラが小さく笑った。
「お陰で北の森一帯に浄化魔法が使われた。僕が把握出来る範囲に魔物はいない」
ミリアンが改めてディアンと私を見つめる。
「二人、マジで凄過ぎだな。けど、二人セットじゃないとって制約が合って良かったよ」
私が首を傾げると、彼は苦笑を浮かべた。
「一人でこのレベルの魔法が使えてたら、近隣諸国に拉致されかねない」
私は眉を寄せてミリアンを睨む。
「……嫌な事を言わないでよ」
ミリアンは、ハッとしたように両手を振った。
「い、いや。気をつけてって言いたいだけだよ。脅してる訳じゃない。リン、そういう顔をしないでくれよ。本当、他意はないんだからさ」
ニコラが呆れたようにミリアンを見た。
「魔法使いを拉致るバカなんか居ないよ。能力が高けりゃ、高いほど、諸刃の剣だしね。それに、彼女はシルビアが抱え込んでる。例え一人で魔法を使えても心配ないよ、リン」
ニコラがそう言ってくれて、私は少しホッとした。
「ありがとう、ニコラ」
私が笑いかけると、彼は面白そうに微笑んだ。
「本当、興味深い人だよね。探査出来ないのが、すごく残念だ」
焦げ茶の瞳が舐めるように見たから、また、背筋がゾクゾクっとした。
悪寒だよね、コレ。
ライアンが片眉を上げてニコラを睨むと、ディアンが苦笑して言った。
「ライアン。大丈夫。シルビアさんが釘を刺してる。それより、歩けるから、そろそろ戻ろう」
ディアンは大丈夫だと言ったけど、ライアンとミリアンが肩を貸して、三人で歩き出す。私は彼らの後ろをニコラと並んで歩いてた。
歩きながら、ニコラが私に聞いて来た。
「リン。さっき、ライアンを襲ったヴォルクを消したよね」
「……たぶん」
「たぶん?」
私は軽く溜め息をつく。
「自分でも何が起こったか、分からないの」
「魔法を使ったんだと思ったけど?」
「え? アレ、魔法なの?」
ニコラが不思議そうに私を見た。
「僕は、そう思った」
「けど、私は古語も唱えてないんだよ?」
「……そうなんだ」
彼は少し考えるみたいに黙って、少しして聞いた。
「なら、赤いライオンに心当たりは?」
「……え?」
私はまじまじとニコラを見てしまった。
大きな焦げ茶の瞳が、興味深そうに私を見つめ返す。
「あるんだね、心当たり」
「……少し前、私は熱を出したの。その時、夢で会った」
「なるほどね」
どうして、赤いライオンを知ってるんだろ。
誰にも話してないのに。
ニコラは私の視線に答えるように言った。
「僕にはね。リンから飛び出してくる赤いライオンが見えた。一瞬、ガーディアンかと思ったんだけど、すぐに消えたんだよね」
彼は前を歩くライアンを見つめる。
「不思議だよ。けど、アレは幻獣だ。火のエレメントだ。君のそばにいる」
私は戸惑いを感じたものの、否定は出来ない。
だって、あの時、獣の咆哮を聞いたから。
ニコラは私を見ると、悪戯そうに続けた。
「で、ライオンはライアンを助けた。リンにキスするのは止められてるじゃん? だから、ライアンにキスしてみようかな?」
「ダ、ダメ!」
自分でもビックリする早さで答えてた。
ニコラが目を見開いて私を見ると、ゲラゲラ笑いだした。
「リン。分かりやす過ぎだろ?」
私は真っ赤になってしまった。
前を歩いてた三人が、不思議そうに振り返って足を止めるから。
「な、何でもない!」
そう叫んだら、ニコラがさらに笑う。
「もう! ニコラ、煩い! 前の三人も、何でもないって言ってるじゃない。歩いてよ!」
私が怒ったように言ったら、三人が不思議そうに目を合わせてから歩き出した。
ニコラは、馬車に戻るまで、ずっと笑ってた。
ライアンがミリアンにディアンを任せて、馬に寄って行ったら。
ニコラが私の手を引っ張ってライアンの所に連れてく。
ああ、もう。
せっかく赤くならなくて済んでたのに……。
「ライアン」
ニコラは彼の前に立つと私の手を離し、ライアンをジッと見つめた。
「なんだ?」
ライアンが軽く首を傾いでニコラを見返す。
「さっきさ、ライアンを襲ってたヴォルクをリンが消したじゃん?」
ライアンが私の方を見て頷く。
「……みたいだな」
「僕さ、知りたい人にキスすると、けっこう詳細なデータが拾えるんだよね」
ライアンが少し気味悪そうにニコラを見る。
「……で?」
ニコラは笑いを堪えて続けた。
「アレが気になってさ。リンにキスするのは、皆んなに止められてるし。ライアンならいいかと思ったんだけどさ。ライアンにキスするのは、リンが駄目だって言うんだよね」
私は俯いて真っ赤になってしまう。
ライアンが何度も瞬きして、私を見てるのが分かった。
だって、嫌なんだから仕方ないじゃない。
いくらニコラが男の子だって、探査の為だって……。
「だからさ、ライアンに鑑定魔法を使わせて欲しいんだ」
「……キスさせろってんじゃないなら、いいけどな。そもそも、俺は魔法なんか使えないぜ?」
ライアンは少し目を細めて伺うようにニコラを見る。
ニコラが真面目な表情で頷く。
「分かってる。けど、アイアン家には魔法使いの因子がある。ライアンも持ってるはずだ」
ニコラはライアンの手を取って、彼を見つめる。
はっきり言えば、私はソレだって嫌だよ。
だって、ニコラは女の子と間違えそうになるくらい、綺麗な男の子なんだもん。
「僕の目を見てて」
ライアンは少し戸惑った様子で、ニコラを見つめてる。
たぶん、ニコラの瞳に金色の粒が舞ってる事だろう。
少しして、ニコラがライアンの手を離し。
考え深く頷いた。
「ありがとう、ライアン」
「……なんか、分かったのか?」
ニコラは不思議な笑みを浮かべる。
「アイアン家は風のエレメントと親和性が高いって聞いてた。けど……ライアンは、火のエレメントと親和性が高い因子を持ってるんだね」
「ふぅん。それで?」
「だから、リンのそばに居るのが火のエレメントなんだ」
ライアンが不思議そうにニコラを見る。
「そばに居る? リンはガーディアンを持ってないんだろ?」
「ああ。持ってない。ガーディアンはね。けど、彼女をすごく気に入った幻獣がいるんだよ。それが、彼女のそばを離れない」
ニコラが不思議な目で私とライアンを見た。
「その幻獣ってのはね。ライアン。君を通して彼女の所に来たんだ。こういうの、初めて見たよ。ただ、聞いた事はあるんだ。古い魔法使いには、こういう事が起こってたそうだから」
ディアンを馬車に乗せたミリアンが、私達に寄って来て不思議そうに聞いた。
「さっきから、何やってんだ?」
ニコラが笑ってミリアンを見る。
「魔法史のお浚いだよ」
彼は、もう一度、私とライアンを見て目を細めた。
「すごく興味深いな。……まあ、今日はここまでだね。行こうか、リン」
「あ、うん」
馬車に戻る途中で、ニコラに聞いてみた。
「ちょっと、よく分からなかったんだけど。結局、どういう事なの?」
ニコラが優しい目で私を見る。
「まあね。僕だって、もう少し早く君に会ってたらなって思うけどね」
「えっと?」
「無理だろうね」
彼はクスッと笑って続けた。
「馬車の中で話すよ」
「あ……うん」
……やっぱり、よく分からないや。




