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討伐2

 北の森に着いて、馬車を降りる。

 ライアン達の馬を繋いで御者さんに頼んで行く。


 魔法騎士達は皆んな黒いフード付きマントを着込んでいるけど、剣士の二人は長袖のシャツブラウスに長ズボンで、腰に剣を下げ、ブーツを履いた姿だ。


 ライアンとミリアンが前を歩き、私はディアンと並んで歩く。

 その後ろをニコラがついて来る。


 ミリアンが歩調を緩めて私に並ぼうとしたら、ディアンが私の腕を掴んで反対側に回した。


 うぅん。

 なんか、さすが兄弟だよなぁ。

 ライアンの仕草にそっくりじゃない。


 ミリアンが少し不満そうに目を細めて言う。

「ディアン。お前まで、そういう事するかな」

「そういう事って?」

 ディアンは軽く眉を上げると、ミリアンを横目で見た。


 ライアンが振り向きもしないで手を挙げ、軽く動かしてミリアンを呼ぶ。

「ミリアン」


 ミリアンは少し顔を顰めて、仕方なさそうにライアンに並ぶ。

 ニコラが歩調を早めて私の横に並ぶのを、ディアンが軽く睨んだ。


 ニコラがククッと喉の奥で笑ったら、ディアンは少しムスッとして言った。

「なんだよ、ニコラ」

「いや。リンも大変だなって思ってさ」


 彼は面白そうに私を見る。

 揶揄うみたいなニコラの視線に、私は苦笑を浮かべて答えた。


 どのくらい進んだんだろう。

 私の横でニコラがふっと息を飲み込む。

 ディアンの目も細められる。

 森の気配が変わったのが、私にも分かった。


 ニコラが抑揚のない声で言った。

「ライアン。ヴォルクの群れだ。わかる範囲で二十頭」


 ヴォルク。魔性の狼。

 二十頭もいるの?


 ライアンが振り向いて頷き、剣を抜きながらミリアンに視線を移す。

 ミリアンも剣を抜いて身構える。


 ディアンが私に向かって小さく言う。

「リン、離れるなよ」


 ライアンが私をふっと見た。

 一瞬だけ、私と彼の視線が絡む。


 分かってる。ディアンの側を離れない。

 そうじゃなきゃ、私は何もできないんだから……。


 ザワッと首筋が鳥肌だった。

 近くでヴォルクが吠えるのが聞こえた。


 ディアンとニコラがガーディアンを呼び出す。

 ディアンの頭上に翼を広げた真っ白な鷲が現れる。


 ニコラのガーディアンは不思議だった。

 翼を持った濃紺の蛇が彼に巻きつくように現れたのだ。


 鱗の一枚一枚が光彩を放つ金色の目を持つ蛇は……たぶん、水のエレメントの幻獣なんだろう。


 ザザッと草を分ける音がしたと思ったら、銀の毛に覆われたヴォルクが咆哮を上げてライアンの前に飛び出して来た。


 ライアンは身をかがめ、踊るように回りながら剣でヴォルクの首を落とす。


 私は思わず目を見張った。

 ライアンの動きは速い、その上、無駄がなくて綺麗だ。


 ミリアンも飛び出して来たヴォルクを剣で切り裂く。さすがに体躯に恵まれているミリアンの剣は、重く力強い。速さはライアンが上だが、一刀の破壊力が違う。


 この二人、すごく強いんじゃない?


 私も二人に気を取られてる場合じゃなかった。

 浄化魔法を放って向かって来たヴォルクを消滅させる。

 ディアンが風の魔法を放ってヴォルクを引き裂き、ニコラも浄化魔法を放つ。


 それでも、ヴォルクは次々に飛び込んで来る。

 甲高い咆哮がアチコチで聞こえた。


 ニコラが叫んだ。

「くそ、ライアン。もう一つ、群れが合流した!」


 ライアンが眉を顰めて、吐き捨てるように言う。

「……切りがねぇな」


 ディアンに飛びかかったヴォルクをガーディアンの鷲が鋭い爪で引っ掛け、上空に持ち上げて落とす。


 気を取られて上を見たのがいけなかった。

 ヴォルクの一頭が私に向かって跳躍して来る。

 魔法が間に合わない。


 走りこんで来たライアンが私を庇って前に立ち、剣でヴォルクの牙を抑える。

 そのまま、足でヴォルクを蹴り倒し、喉に剣を突き立てた。


 すぐに私の肩を強く抱く。

 私は声も出せないままで、ライアンを見上げる。

 視線だけが絡んだ。


 彼は私の向きを変えると、背中を押して叫んだ。

「ディアン!」

 ディアンが私に気づいて腕を伸ばし、手を掴んで引っ張る。

「離れるな、リン」


 その時、ライアンに向かって跳躍してくるヴォルクが見えた。彼は身を翻して避けたけど、そこにもう一頭のヴォルクが牙を剥いて襲いかかる。


 いくら剣の腕がたっても、体制を立て直す前に二頭は——。

 私の背筋に冷たい感覚が走った時。


 頭の中で、ヴォルクなど比較にならない、低く大きな咆哮が響いた。

 まるで振動そのもののような獣の咆哮に、突き動かされる。


 反射的にライアンに向かって腕を伸ばしていた。

 私の手の平から赤い閃光が放たれ、ライアンに襲いかかっていた二頭のヴォルクを掻き消した。


 ライアンが私を振り返って目を見張った。


 ……今のなに?


 私は古語を唱えなかったし、赤い閃光は見たことがない。

 けれど、考えいる時間はなかった。

「リン! 肩に手を!」

 ディアンの声で、私は彼の肩を掴む。


 彼の唱える古語が小さく聞こえた。

 浄化魔法を使うつもりだ。

 それなら、セーブする必要はない。


 私はディアンを掴んだ手から、電気的な刺激が這い上って来るのを感じた。

 全身を痺れが走り抜けると、私の体からディアンにエネルギーが流れ込んでいく。全身の細胞が震えるような気がして、強い目眩を感じた。


 ディアンが両手を広げ、魔法を発動させると——。

 彼を中心に光の爆発が起こった。

 周りが真っ白になってしまうほど、強力な光が広がっていく。

 ヴォルクは光に飲み込まれ、次々と霧散して消えていった。


「なんだ、これ」

 ミリアンが呆然と言うのが聞こえた。


 光は起こった時と同じように急速に収束してゆく、私はディアンの肩を離した。

 目眩が酷く、立っていられない。

 後ろに倒れそうになった私を、ライアンが抱き止めてくれた。


「リン。大丈夫か?」

 ライアンの声を聞いた途端に、体の力が抜けてしまい、私は彼の腕を掴んでなんとか立っていた。


 目の前でディアンが崩れるように座り込む。

 ライアンは私を支えながら、弟の名を呼んだ。

「ディアン!」


 ディアンではなく、ニコラが答える。

「大丈夫だよ」


 彼はディアンに近づくと、彼の顔を上げさせて古語を唱えた。

 回復魔法をかけたようだ。


「ディアン。もう暫くは座ってた方がいい。あれだけの魔法力を通したんだ。普通の魔法使いなら、ショートしてるところだよ。意識が保ててるのが不思議なくらいだ。……凄いな」


 ニコラは微笑むと、ディアンの肩をポンと叩いて立ち上がり、私に向かって歩いて来た。


 私を真っ直ぐに見つめて言う。

「噂以上だね、リン。……僕の目を見てて」

 彼の焦げ茶色の大きな目を見つめる。


 額に手を当てられると、冷んやり冷たくて気持ち良かった。

 ニコラの瞳に細かな金の粒が舞う。置かれた手から暖かいモノが流れ込んで来た。彼がふっと笑った。


 私はニコラの笑顔の優しさに少し驚いた。

 だって、魅惑的な笑みしか見たことがなかったから。


「これで、ゆっくりなら動けるね?」

「ありがとう、ニコラ」


 彼はそのままライアンに手を伸ばしたけど、ライアンがその手を遮った。

「いや。俺はいい。大丈夫だ。ミリアンを頼む」


 ニコラは不思議そうに首を傾いだけど、言われるままにミリアンの方へ回復魔法を掛けに行く。


 私は振り返ってライアンを見上げる。

 問いかけるような私に、彼は小さく笑って耳元に顔を寄せた。


「リンの噛み跡、消えるだろ」


 密かな囁きが私の心臓を鷲掴みにして、赤くならないようにするのが大変だった。私が何度も瞬きするもんだから、ライアンはクッと喉の奥で笑った。


「リン。もう一人で立っていられるか?」

「大丈夫」


 私が微笑んで答えると、彼は頷いてから私をそっと離し、ディアンに近寄って肩を抱く。


「大丈夫か、ディアン」

「……うん。だいぶいい」

「お前、すげぇな」


 そう言ってディアンの頭をクリクリと撫でた。

 ディアンは、少し照れたように兄を見上げて眉根を寄せる。


「……髪が崩れんだろ」

「髪がちっとぐらい崩れたって、顔は変わんねぇよ? 心配すんな。俺の弟は男前だよ」


 ライアンは笑いながら言って、ディアンの腕を取ると立つのを助けた。

 なんだかんだ言っても、この二人って仲の良い兄弟なんだよな。

 少し羨ましいような気がする。




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