告白
夕食が終わって、自室に戻ってボンヤリ椅子に座ってた。
せっかく画材屋さんで買った新しい道具も、机の上に置きっ放しになってる。
シルビアさんに何か送りたいと思ってるのに、全く手をつけられない。
せっかくディアンに借りた魔法書を読んでも、やっぱり集中できない。
ほうっと息を吐く。
溜め息ばっかり出てしまう。
誰かのノックでビクッとする。
思い切り緊張してる。
だって……。
扉を開けると、やっぱりライアンが立ってた。
「……少し、話しがしたいんだけどな?」
……なんだろう。
彼も緊張しているように見えた。
私は目を伏せてから、半身になってライアンを部屋に入れる。
夜に部屋を訪ねるのは、よくないんじゃなかったのかな。
彼に椅子を勧めて、私はベッドに腰掛けた。
「……話しってなに?」
ライアンは少し困った顔になって。
「リン。お前が椅子に座ってくれ。俺は床に座る」
「え? なんで?」
「……なんでもだ」
彼が床に胡座を掻いてしまったので、私は言われたように椅子に移動した。
まあ、この方がランプの灯りが近いから、お互いがよく見えるけど。
ライアンは落ち着かないみたいで、自分の手をジッと見ながら何度も瞬きする。
こんな彼を見るのは初めてで、なんだか、やっぱり緊張する。
「夕方……お前の様子が変だってミリアンに言われて」
……あぁ。
私、思い切り逃げたもんなぁ。
ライアンがふうっと大きく息を吐き出して、私を見上げた。
ランプの灯りが揺らめいて、彼の整った甘い顔も揺れて見える。
やっぱり、ライアンは、すごく綺麗な男性だなぁ。
「……謝った方がいいのか?」
そんな甘い目で私に問いかけられても。
鼓動が早くなるだけで、答えなんかでてこないよ。
私は目を伏せて彼の視線を避ける。
「ライアンは謝るようなこと、したの?」
自分の声が少し震えて聞こえた。
だって……なんだろう。
謝られたら、なんか。
……私。
「……リン。泣くなよ」
ライアンの声が動揺してる。
彼は手を伸ばして、椅子に座ってる私の手に自分の手を重ねた。
「ごめ……私……どうしていいか、分からないだけなの。謝らなくていい。ただ、こんな、気持ちは……なったことなくて」
ライアンは自分も泣きそうな顔で私を見つめる。
それから、ふうっと息を吐いた。
「俺もだ。リンを見てると……気持ちが先走って、上手く伝えられない。ただ、泣かせたいわけじゃない」
彼は立ち上がって私の頭を抱きしめ、自分の体に押し付けた。
ライアンの体温と匂いが、私の胸を締め付ける。
「困らせたいわけでも、傷つけたいわけでもない」
彼は私の頭を両手で持って上を向かせると、こっちが切なくなるような目で覗き込んで言った。
「俺はお前に惚れてる」
私の胸がギュッって詰まった。
ディアンから聞かされた時には実感がなかったけど、本人に言われると重さが違う。
なんだか、苦しいくらい。
ライアンは指で私の涙を拭うと。
髪を撫でながら、囁くように続けた。
「……こんなのは、初めてで、どう進めていいのか分からない。本当は、笑ってて欲しいんだ。なのに……どうにも、自分が止められない」
彼は、あの、騒つくような熱を持った目で私を見つめた。
「……リン」
ライアンの指が私の唇を撫でる。
長い睫毛が動いて、彼の瞼が閉じていくのが見えた。
綺麗な顔がゆっくり近づいてくる。
誘われるように、私も瞼を閉じた。
柔らかな唇から、彼の息が入り込んでくる。
彼が触れている。
私の小さな声が息になって、彼の中へ消えてゆく。
甘い感覚に頭の芯が痺れてクラクラする。
彼が唇を離すと、ふうっと甘い息が私の唇にかかった。
座ってて良かった。
私の体はグッタリと力が入らなくなってる。
私が瞼を開くと、ライアンの黒い瞳が私を映してた。
彼は目をちょっと細めて、眉根を寄せた。
「……ダメだ、俺。言ってるそばから、止められないんだ。お前、なんか出してないか?」
「え? な、なんかって、何よ」
「匂いとか」
「に、匂い?」
彼はクスッと笑った。
「だって、お前、いい匂いがするぜ?」
そう言って私の髪を撫でる。
「こ、これはラベンダーでしょ? ライアンからも、時々ラベンダーの匂いするじゃない。ガインさんがお湯に入れてくれるんだし」
私がちょっとムキになって言うと、ライアンは、またクスッと笑った。
「リン。お前、やっぱり、笑ってる方が可愛い」
「……ライアンは、こうやって女の子を口説くのね?」
私が揶揄ってそう言うと、彼は面白そうに笑った。
「ああ。本気で口説く時はこうなんだろ」
「そう? なら、少し屈んで?」
ライアンは不思議そうに私を見て、少し前屈みになってくれた。
だから……。
抱きついて、彼の首に噛み付いてやった。
「あっ、うわっ。ちょ、止めろ、リン。は、離せよ」
私はパッと彼を離す。
ライアンは目を瞬かせ、真っ赤になって首に手を当てて、私を見てる。
「しばらく、消えないよ」
私が笑うと、彼は片手で顔を覆って項垂れ、真っ赤な顔のまま私を睨んだ。
「お前ね。こういうの止めろよ。マジで今の俺はダメなんだって。襲われても知らないからな」
「私を襲うの?」
彼はグッと息を飲んで、あの騒つくような目で私を見た。
その目を正面から見返す。
「私、ライアンが好きよ」
ライアンの目に動揺が浮かんだ。
私から離れて、もう一度、床に座り直す。
顔を赤くしたまま、何やら瞬きを繰り返してる。
「……い、いや。俺はいいけど。ってか、いいなら……。いや、リン。ここじゃダメだろ」
目を泳がせて、しどろもどろになってる。
この人は、いきなり、何を言い出してるんだろ。
「ライアン。今、襲ったら悲鳴を上げるからね」
なんで意外そうな顔するのよ。
「……そうなのか?」
「そうに決まってるでしょ」
彼は、はぁって息を吐く。
「女って分かんねぇな」
それがライアンのセリフだってことが、可笑しくて、クスクスと笑ってしまった。ライアンは困った顔で私を見て、それからクスッと笑った。
「ライアン。気に掛けてくれて、ありがとう。明日、巡回だし。話せて良かった」
彼はホッとしたように笑ってから、立ち上がった。
私も彼を送ろうと立ち上がる。
甘えるような目をしたライアンが、私の腕を引っ張って言う。
「リン……もう一回」
私は彼の唇を手で押さえる。
「ダメ」
彼は不満そうに片眉を上げた。
「ダメ?」
「ダメ。部屋に戻って、鏡で首の噛み跡を見て、ちょっと困るといい」
私は上目遣いに彼を見る。
「……私が感じてた気持ち、ライアンも感じるといい」
彼は少し赤くなって、自分の首に手を当てた。
「おやすみ、ライアン」
私が扉を開くと、彼はふうっと息を吐いた。
「おやすみ、リン」
彼は私の頭をクシャクシャって掻き回して、蕩けそうな甘い視線を残して部屋を出て行った。




