ニコラ
ルシアと詰所に戻りながら、このままじゃダメだなって思う。
アレは、アレとして一時保留しなきゃ。
体制を立て直さないと、周りの人に心配だけさせてる。
「あ、そうだ。ルシア、ミリアンに会ったら謝っといて欲しいな。さっき、すごく失礼な態度を取っちゃって」
「あれ、リンが泣いてたのミリアンのせいですか?」
私は苦笑して首を振る。
「違うよ。ミリアンは関係ないの」
ルシアは、また、クスクス笑った。
「ですよね。兄じゃないですよね。きっと、ライアンです」
私がビックリして目を瞬いていると、彼女は面白そうに私を見た。
えっと、なんで、わかる?
「ミリアンには上手く言っておきます。私、ディアンを探してきますね。フォローしとかないと、きっと一人でモンモンとしてます」
彼女はバイバイと手を振って行ってしまった。
……ううん。
ルシアは私が思う何倍も人の事をよく見てるのかも。
詰所の中ではダインさんが、若い男の子と話をしていた。
誰だろう。
魔法学園の制服を着てる。
魔法騎士の人達は、割と個人主義的人が多くて、挨拶はするけど、あんまり話した事ないからな。今ひとつ顔が分からないんだよね。
身長はディアンと同じくらいかな。少しキツめの癖っ毛で、焦げ茶の髪と目をしてる。それにしても、本当にこの世界は美形率が高すぎないかな。
男の子は、すごく綺麗な子。
ディアンとは違う方向にだけど。
なんていうか、目が大きくて色白で女の子みたいな感じ。
骨格で男の子だと分かるけど、体の線を隠してしまったら女の子で通じそう。
私が近寄ると、ダインさんが包むような笑みを浮かべてくれる。
「やあ、リン」
「ダインさん。この間は、本当に有難うございました」
私が頭を下げると、彼は軽く手を振った。
「そんな、大げさな事じゃないよ。また、行こう」
私は無言のまま、笑って誤魔化してしまった。
だって……ライアン、怖いし。
「こんにちは、リン」
ダインさんの隣に立ってた男の子が、ニッコリ笑って私に手を差し出した。
「明日、一緒に巡回に行くよね。僕はニコラ」
「よろしくお願いします。ニコラさん」
私が手を握ると、彼は笑った。
「僕が呼び捨ててるんだから、君も呼び捨てればいいよ。同い年らしいし」
あ、そうなんだ。
「じゃあ、ニコラ。よろしく」
「うん」
彼は焦げ茶の目に好奇心を浮かべてる。
握った手を軽く引っ張られた。
……え?
ダインさんの手が私とニコラの間に入って、ニコラの頭を押し退けた。
「ニコラ。彼女はダメだ」
彼を見るダインさんの目が、笑ってるけど、なんか、怖い。
ダインさんが私を見て苦笑を浮かべた。
「ニコラはキス魔なんだよ。性別も年齢も関係なくキスする」
私がビックリしてニコラの手を離すと、彼は悪戯そうに笑った。
「ダメだって言われちゃったよ。まあ、手を握れば、だいたいは分かるけど」
「……分かる?」
ダインさんが頷く。
「ニコラが得意にしてるのは、鑑定魔法なんだ。発動させなくても、だいたい分かるらしいよ」
ニコラが小さく笑って自分の唇に指を当てる。
「キスすれば、もっといろんな事が分かるんだけどね」
……なに、その能力。怖い。
私が引きつってると。彼は面白そうに笑った。
なんか、小悪魔みたいな、魅惑的な笑みではあるけど……。
「話に聞いてたけど、リンはすごいね。ここまで大きい力は滅多に感じた事がないよ。それに……」
ニコラは大きな焦げ茶の目で私をジッと見た。
「魔法の発動条件が皆んなと違うみたいだね」
「え? それって、どういう?」
彼は魅惑的な目を細めて小さく笑う。
「知りたい? なら、キスしようか」
私は思わず一歩下がって両手を振る。
「け、結構です」
ニコラは面白そうにクスクスと笑った。
「いいの? なんだ、残念。君となら鑑定抜きでしてみたいのにな」
そして、大きな目で私を舐めるように見た。
……うわあ、背筋がゾクゾクする。
この人、怖い。
ダインさんがニコラの頭を両手で挟んで、拳でコメカミをグリグリした。
「痛てぇ! ダ、ダイン、止めろよ。痛いって!」
「お前、巡回でリンになんかしたら、息の根を止めるぞ」
「な、なんかって何だよ。しないって、するわけないだろ」
……えっと。
ダインさん?
ニコラはダインさんが離すと両手をコメカミに当てて彼を睨む。
「痛てぇな。何かなんか、するわけないだろ? この子、シルビアのお気に入りで、ディアンの相方だろ? マジになんないで欲しいな。んとに」
ダインさんがニコラをキュッと睨む。
「ニコラ。俺だってマジになる相手もいるって事だ」
………えっと。
ニコラは呆れたように苦笑した。
「分かった。分かったけど、ダイン。シルビアにリンは口説くなって言われてなかったか?」
ダインさんがヒョイと肩を上げ下げする。
「それは無理だって言ってある。僕は彼女が好きだからね」
私は思い切り困った顔になったと思う。
確かに言ってたけどさ。
……冗談ですよね?
私を見て、ニコラがダインさんの腕を軽く叩いた。
「あぁ。止めときな、ダイン。彼女、誰かいるよ」
………誰かって。
ダインさんが、小さく微笑む。
「知ってるよ。それでもだ」
……知ってるって、どういう事ですかね。
ニコラが私を見て笑った。
「リンも大変だね。まあ、仕方ないかな。君って珍しいし」
「………えっと。褒めてます?」
「もちろん。明日が楽しみだよ。じゃ、よろしく」
彼は手を振って詰所を出て行った。
……シルビアさん。人選間違ってませんか?
ダインさんも苦笑する。
「明日、ライアンもディアンも一緒なんだよね。あいつ、大丈夫かな」
「えっと。どうでしょう」
彼は不思議な目で私を見つめた。
「さっきの、本当だからね」
「……え?」
「君に好きな相手がいるのは知ってる。けど、諦めないよ」
「あ、あの……?」
ダインさんが、少し目を細めて言った。
「諦めは悪い方なんだ」
私が言葉に詰まってると、彼はポンって私の背中を叩いた。
「巡回だって魔物に会わない訳じゃない。気をつけるんだよ。怪我なんかしないようにね」
「あ、はい。有難うございます」
ダインさんは微笑んで、詰所を出て行った。
……ええと。
私、もしかして、それこそ、告られたんですか?
しかも、返事は出来ない方向で?
ああ。
なんだかな。
いろいろ有り過ぎで思考も、気持ちも、追いつかないよ。




