女の子だから
次の日、シルビアさんと仕事をしてたら。
「ああ、リン。ええと、明後日になるのかな。そろそろ、また、ディアンと巡回に行って来てほしいんだけど」
「はい。今度は何処ですか?」
「北の森なんだけど」
「はい」
確か、ディアンとライアンが話してた所だな。
リトゥーチャに襲われた村の近くで、私も一度だけ行ったことがある。
ここのところ、魔物が増えてるって言ってたものね。
「で、少し心配だから、もう一人、魔法騎士を付けるね。あと第一騎士団の剣士が二人来る」
「なんだか……討伐並みですね」
「うん。最近、あそこの森って不穏なんだよ。だから、ディアンとリンがいいかと思ってさ。二人なら、強力な魔法も使えるから。頼んでいいかな」
「それは、もちろんです」
私は、その為にここで働いているんんだし。
相変わらず、一人では全く魔法が発動しないんだけどさ。
また、ディアンに魔法書でも借りてこようかな。
魔法も種類を覚えるだけは覚えた方が、何かと便利だろうし。
午後になって、いつもの掃除。
外掃除をするのは、少し緊張する。
ライアンに会ったら、どんな顔をしたらいいんだろう。
私が軽い溜め息をついていたら。
「リンさん!」
ミリアンが陽気に声を掛けて来た。
「こんにちは。ミリアン」
彼はハンサムな顔に満面の笑み。
なぜ?
「今度、巡回行くでしょ? 俺、一緒なんですよ」
「え? そっか、ミリアンと一緒なんだ。なら、安心だね」
この間の若い剣士みたいに、絡んではこないだろうし。
私も彼には少し慣れたし。
「あと、ライアンが一緒ですよ」
……え?
ミリアンが不思議そうに私を見た。
そうでしょう。
だって、彼の名前を聞いただけで……。
「どうしたんですか? リンさん、真っ赤ですけど」
「……ど、どうもしません」
彼は含んだ目で私を見る。
「ライアンに告られましたか?」
「えっ? こ、こく? ち、違います」
ミリアンが目を瞬かせ、軽く首を傾いだ。
「あれ? 違いましたか。なんか、今日はあいつもボケッとしてて、変だったから。そうかなと思ったんだけどな」
それから、ニコッと微笑んだ。
「違ったんならラッキーだ。先越されたかと思った」
「ミリアン」
「はい?」
「私、ちょっと仕事が残ってますので」
思い切り頭を下げて、逃げるみたいに焼却炉まで走った。
ううん。はっきり、逃げた。
だって、ダメ。
これ以上、ライアンの話をしてたら心臓への負担が激しすぎる。
私はふうっと息をついて、自分の首に手を当てる。
彼の残した噛み跡は薄くなったけど、まだ消えないで残ってて。
思い出すだけで、発熱しそうだもん。
私は掃除道具を片付けながら、ふっとミリアンの言葉を思った。
……私って、そう言えば。
ライアンから、好きとか、付き合ってとか、そういう類の言葉を言われたことは、一度もないんだよね。
思わず手が止まってしまう。
この世界の人が、そういう関係をどう進めて行くのか分からない。
ミリアンが言うところの、告るっていうのも、どんな言葉が一般的か知らない。
ミリアンはライアンが女性に声を掛けてたのは、煙幕だって言ってたけど。
今は止めたんだって聞いたけど。
彼にとって、ああいう事は、珍しいことじゃなかったりする?
少し気に入ってれば、そんな感じになる?
だって、ライアンはモテるだろうし。
あれ?
なんか、私……。
「リン?」
名前を呼ばれて、ビックリして振り返ったら、ディアンがギョッとした顔で私を見つめた。
「ど、どうしたの? 何かあった? リン」
「えっ?」
気づけば、涙がポロポロこぼれてた。
自分でビックリしてしまう。
「え? 私、なんで泣いてるの?」
「い、いや。分かんないけど。嫌なことでもあったの?」
「……ないと思う」
ディアンがふっと溜め息をついて、私の腕に触れた。
「昨日からオカシイ。なんか、悩んでるなら言ってくれよ」
彼の目がひどく真剣で、私は何を言えばいいか分からなくなる。
「大丈夫だよ。なんでもないから」
そう言って笑ったら、すごく傷ついたを顔された。
……なんで?
「リン。俺は、そんなに頼りない?」
「え? ちが、違う。そういう事じゃない」
私は否定したんだけど。
ディアンは綺麗な顔を歪めて、哀しそうに私を見つめた。
「そりゃ、俺は周りに比べれば幼いと思う。痛感させられること、多いしね。けど、少しは頼ってくれたってよくないか?」
「だ、だから。違うって、自分でも分かってなくて。ディアンだから相談できないんじゃないってば」
そこにヒョコッとルシアが頭を出した。
「揉めてます?」
私は全力で首を振る。
「も、揉めてない。ぜんぜん、揉めてない」
ディアンがホウッと溜め息をつく。
「リン、昨日からオカシイんだ。今も……泣いてたし」
私は慌てて両手を振る。
「い、いや。本当に、なんで泣いてるのか、自分でも分からないんだってば」
ルシアがニコッと笑った。
「リンさん、女の子の日ですか?」
「へ?」
「女の子の日には、情緒が不安定になりますから」
「いや、あの。違うけど。でも、まあ……そういうものだよね」
ルシアの意外な発言に、私が、しどろもどろになってると、ディアンが赤くなって狼狽える。
「……ごめん。俺、そういうの気が回らなくて」
ディアンは、そう言って少し赤くなったまま早足で立ち去った。
……ちょっと、助かった。
ルシアを見ると、彼女はニコッと笑った。
ああ、私が困ってるの見て、わざとああいう話題を振ってくれたんだ。
「ルシア。ありがとう」
「いいんです。でも……本当に辛いことがあるなら、話して下さいね。力になれるかは分かりませんが、私だって、話を聞くだけは聞けるんです」
思わずルシアを抱きしめる。
ああ、もう。本当にいい娘だ。
「ルシア。大好き」
「私もリンが大好きです」
ふわふわのルシアの髪に顔を埋めて、私は思う。
皆んな、本当に優しくて。
なんだか泣けてくる。
「……リン?」
「ちょっとだけ、このまま」
彼女はポンポンと私の背中を叩いてくれた。
私は泣きながら、ライアンが背中を撫でてくれたことを思い出してた。
なんだか、私、バカみたいだ。
少し落ちていて、ルシアの頭から顔を上げる。
「ありがと、ルシア」
彼女は私を見上げて、クスクスと笑った。
「なんでしょうね。リンは、年上なのに可愛い。ほっとけない気にさせますね」
「え、あ。ご、ごめん」
「謝ることじゃないですよ。いつでも、私で泣いて下さい」
ルシアの言葉が胸にキュッときて、私は思わず赤くなってしまう。
彼女はクスクス笑いながら、私の頰にキスしてくれる。
ふわっと柔らかな彼女の唇が、私の頬に触れる。
えっと。
わりと、真面目に恥ずかしいんですけど。
「シルビアさんの気持ちが、分かりましたね」
彼女は首を傾いで私を見て笑うと、頭をヨシヨシって撫でる。
ああ……私ったら。
三つも下の女の子に、甘えまくって。
……ほんと、ごめん。




