お買い物
リイドさんは火山調査の為に、教え子を何人か連れて魔法騎士団の詰所を後にした。ライアンも言ってたように、彼の調査結果が出なければ何も決まらない。心配だけしてたって仕方ない。
それに、討伐は繰り返されてる。
遠征だけじゃない。
………私は毎日、彼らの無事を祈るしかできない。
騎士の誰もが怪我をしないで、無事に帰還してくれるように。
私が玄関まで出て行くと、アイアンさんが、目を細めて笑う。
「リンは休みかい?」
「はい。今日はお休みです」
「そうか。良い休日をね」
ディアンが溜め息をつく。
「ほんと、リンとは全然休みが合わないよな。シルビアさん、嫌がらせしてんじゃないかな」
「そんな事はないでしょ。ルシアとは休みが合うじゃない」
「……嫌がらせだろ」
ライアンがククッと喉の奥で笑う。
「あいつ、本当に毎日、プティング食ってるらしいぞ。ミリアンが言ってた。楽しみだな、ディアン」
「………楽しみなら、代われよ。ライアン」
「ヤダね。ミリアンの弟になるなんて、考えただけで死にたくなるだろ。じゃな、リン」
私は笑って手を振る。
「気をつけて。行ってらっしゃい」
さて、今日は何をしようか。
☆
スッカリ伸びきった私の髪を、ララさんが揃えてくれると言った。
日差しはスッカリ強くなってきて、もう夏も本番といった気温になってる。
髪を切ってもらえるのは、正直いってありがたい。
ここに来た時と同じ、肩甲骨の辺りまで切ってくれた。
彼女は髪を梳いてオイルを塗り込んでくれる。
そういえば、ララさんは、ときどき町へ買い物に行ってるんだよね。
「ねえ、ララさん。画材や文房具ってどこに行けば買えますか?」
彼女は私に地図を書いてくれた。
「亡くなった奥様が、よく行かれてましたから。ねぇ、リンさん。私の選んだ服は気に入りません?」
「えっ?」
「全然、着てくれないんですから。制服ばっかりじゃ、つまらないですよ。町へ行かれるなら、着て行ってくれませんか? せっかく買ったんだし」
ララさんの選んだ服は、リボンとか、レースとか、多いんだよなぁ。
「……そうですね」
でも、せっかくだし。
私は中から薄い生地のワンピースを選ぶ。
淡いクリーム色で、七分丈の袖と裾の所に黄色の小花が刺繍してある。
このくらいなら、まあ、恥ずかしくないかなぁ。
それを着て、ララさんの所へ行くと嬉しそうに笑って、サイドの髪を細い三つ編みにして後ろで留めてくれた。
「ほら、すごく似合います。やっぱり可愛らしい」
「ありがとうございます」
褒められると、ちょっと気恥ずかしいな。
「気をつけて、行ってらっしゃい」
彼女は私に麦わら帽子をかぶせると、柔らかく微笑んで送ってくれた。
乗り合い馬車に乗って町まで出るのは、ライアンに連れて来てもらっていらい。
ハッキリ行って、道が全く分からない。
ララさんの地図を片手に、歩いて行くけど。
彼女は字が書けない。
絵や記号で描かれた地図は、ちょっと難解だよ。
このままだと、迷子になってしまいそう。
そんな時だった。
「……リン?」
名前を呼ばれて振り向くと、ダインさんが立ってた。
彼は髪を切ったようだ。後ろで括っていた淡い茶色の髪がなくなって、耳から上がふわっと膨らんで整った顔立ちが良く分かるようになってた。眼鏡がよく似合う髪型だ。
「ダインさん」
「今日は休みなの? 奇遇だね」
彼は眼鏡の奥から、あの包むような優しい微笑みで見つめる。
この微笑みは、ちょと心臓に悪い。
鼓動が少し早くなっちゃう。
「今日は、また、すごく可愛い格好してるね。女の子らしくて似合うよ」
ダインさんは、目を細めて首を傾げて笑う。
私は少し恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。
「そうですか? 着慣れないので、落ちつかないですけど」
「いや、可愛いね。すごく」
…………なんていうか。うん。
「有難うございます」
ダインさんは、タックが入った生成りのシャツで、下は黒いタイトなズボン。ハッキリ言って、格好いい。この人は手足が長いんだよね。背が高いけど、ミリアンほどガッチリしてなくて、スッキリ細いから威圧感は感じないし。
「買い物かい?」
「あっ、はい。そうなんですけど……」
私はララさんの地図を困った顔で見てしまった。
彼は私の持ってる地図を覗き込んで、少し掠れた声で聞く。
「何処へ行こうと思ってたの?」
ダインさんは、ハスキーで声が低いんだよね。近くで聞くと、少しドキっとする。うん。ライアンの甘い声とは、違う感じに耳をくすぐる声だなぁ。
「………画材屋さんに行きたいんですけど」
「ああ。リンはそういう事するの好きなんだったね」
地図を覗き込んだままの距離で、私を面白そうに見る。
えっと、少し顔の距離が近いなぁ。
「連れてってあげようか?」
「えっ、いいんですか」
……あっ。
ほぼ反射で答えちゃった。
彼は口元に手をやって笑う。これって、たぶんダインさんの癖だね。
「いいよ。ただ、先に僕にも付き合って欲しいな」
「………えっ?」
「それでいいなら、連れてってあげる。でないと、君は画材を買った途端に帰りたくなるだろ?」
ダインさんは悪戯そうに笑う。
それは……。
確かにそうなんだけど。
「えと、何処に行くんですか?」
彼は微笑んで私の手を取った。
「内緒だな。けど、きっと好きだと思うよ。じゃ、行こうか」
………えっと?
ダインさんは、私の手を引いて歩き出す。
ああ、また、このパターンなんだなぁ。




