可愛いルシア
どのくらい走ったんだろう、ミリアンが速度を緩め、私達を振り返って言った。
「この先に川に入れる場所があるんだ。ルシアが気に入ってる場所も近いから、ゆっくりな」
速度を緩めたライアンがマロンの首を優しく撫でた。
「大丈夫か?」
マロンが首を上げてライアンに答える。
彼は、それから私を伺うように見たから、微笑んで大丈夫だと伝える。
ミリアンはゆっくりと林の中に入って行く。
木々の葉が日差しを遮って、少し涼しく感じた。
見上げると木漏れ日がキラキラと漏れて、宝石みたいに綺麗だ。
ふわっと風が頰を撫でて行く。
なんだか、不思議な気分になる。
「リンさん! 見てください。ここを見せたかったんです」
ディアンの馬からルシアちゃんが叫んだ。
目をやると、開けた木々の根元に黄色い花が満開になって広がっている。
緑の葉と黄色い花のコントラストが美しい。
「すごいね」
「金糸草っていうんですよ」
ルシアちゃんが嬉しそうに言った。
ああ、私は彼女を抱きしめたくなった。
ディアンの馬にいるのが残念だな。
それに、紙とペン。
持ってくれば良かったかな。
「綺麗な場所だね」
「はい。今の時期が満開なんです」
「いいもの見れた!」
彼女は軽そうな金髪を揺らして、全身で嬉しいって伝えてくれた。
ライアンが私の耳に顔を寄せて。
「お前、紙とペンが欲しいって思ったろ」
そう言って笑った。
まあ、思いましたよ。
ええ。
私達はそこで馬を降りて、少し休むことにした。
ライアン達が皮袋から馬に水を飲ませている間に、ルシアちゃんが私の手を引いて金糸草の茂みに引っ張ってゆく。私は彼女を後ろから抱きしめてから、愛らしい花に触れる。
「気に入ってもらって嬉しいです。家族ではよく遠乗りにくるので、見せたいなって思ってたんです」
本当に可愛いな。ディアンは彼女に懐かれて、なんの不満があるというのか。
ルシアちゃんは花を一輪取ると、ハンカチに包んでポケットから出した小さな板に挟み込む。
「はい。リンさんにあげます。このまま乾燥させれば、押し花になりますから」
「ルシアちゃん。ありがとう」
ああ。なんか、感激する。持って帰れるなんて思わなかったな。
「呼び捨てでいいですよ。ルシアって呼んで下さい。私の方が歳下だし」
「ええ。じゃあ、リンって呼んでくれるならルシアって呼ぶ」
彼女は少し照れたように笑って。
「リン」
って呼んでくれた。
「ルシア、ありがとう」
私がそう呼んだら、さらに照れて頰を染めた。
思わず彼女を抱きしめて額にキスする。
「くすぐったいです、リン」
彼女がクスクス笑う。
ああ、もう。本当に可愛い。
私、シルビアさんの気持ちが少し分かったみたい。
ここまで可愛くはないけど、私をこんな気分で見てるのかもなぁ。
呆れたようなミリアンの声が聞こえた。
「リンさんは、また、ルシアとイチャついてんですか?」
横からライアンが面白そうに言う。
「こいつ、シルビアと出来てるしな」
ディアンまで。
「そのうち、ルシアを嫁にするって言い出すよ」
そう言って苦笑する。
私はルシアを抱き寄せて、男三人を睨みつけた。
「煩いな。悔しかったら、ルシアくらい可愛くなってみなさいよ」
ミリアンが、ふうんって私達を見下ろした。
「なんですか? 可愛くなったら抱きしめてくれるんですか?」
「もちろん。家に持って帰って、ずっと抱きしめてる」
何を想像したんだろ。
ミリアンが急に黙り込んで赤くなった。
ディアンが冷たい目でミリアンを見て言う。
「言っとくけど、今のミリアンさんの事じゃないから」
ライアンが苦笑を浮かべて私を呼んだ。
「リン。来いよ。お茶飲もう」
私がルシアを離すと、彼女はディアンに走り込んで抱きしめる。
ディアンが苦いような、困ったような顔をした。
私はライアンに並んで歩き出した。
ミリアンが私の隣を歩こうとしたら、ライアンが私の腕を引いて反対側に回す。
「ライアン。お前は馬に乗せてんだろ。隣くらい歩かせろよ」
「嫌だね。お前は歩くだけで済まないだろ」
「どういう意味だよ」
「そういう意味だよ」
ミリアンが少し恨めしそうにライアンを見る。
「お前といい、ディアンといい、ガード固すぎだろ」
「なんだよ。お前はルシアのガードしときゃいいだろ」
「アレのどこガードしろって?」
シッカリとディアンの手を掴んで離さないルシアを見て、兄は軽く溜め息をつく。ライアンが苦笑を浮かべてミリアンを横目で見た。
「今のは俺が悪かったな。確かに、アレじゃ、どこをガードすりゃいいか分かんないよな」
「俺としちゃ、お前の弟を心配してるくらいだ。いつかルシアに襲われるんじゃないのか?」
「そりゃ、いらない心配をどうも」
ポンポンと会話が続くんだよね。
この二人って、なんだかんだ仲がいい。
お茶を飲んだ後は馬を引いて移動した。
近いから歩いての移動になったんだよ。
マロンも少し休めるね。荷物は背負ってるけどさ。
ミリアンが案内してくれたのは、川の流れている岩場だった。
段差になった部分で小さな滝が出来ていて、水が跳ねてとても綺麗。
私が少し目を丸くして川に見入ってると、ミリアンが嬉しそうに笑った。
「ここで飯にして、川遊びをしようと思ってさ。釣竿も持ってきてるんだ」
ライアンが軽くミリアンを睨む。
「なんだよ、先に言っとけよな。俺も竿を持ってきたのに」
ミリアンが笑って私を見る。
「いや、驚かせてあげたかったからさ」
私は目を瞬かせて笑った。
「確かに驚いたよ。綺麗な場所だね、ミリアン」
正直にそう言ったら、ミリアンが本当に嬉しそうに笑った。
ルシアと同じ柔らかそうな金髪が揺れて、淡いブルーの目が細められると、とても綺麗な笑顔で少しビックリした。
そうだった。
この人って黙ってれば、正統派のイケメンなんだった。
なんだか、忘れがちなんだけど。
馬達を繋いで休ませながら、大きな木の下に敷物を敷き、布を貼って日差しよけをつくる。やっぱり、皆んな手慣れてるな。
ララさんお手製のお弁当が広げられた。私が感激したのは、プティングが入っていたことだ。ララさん、大好き!
食べきれないかと思う量だったけど、まあ、男三人はよく食べた。
ビックリしたのは、ルシアの食べる量だった。
負けないくらいパクパクとよく食べる子だった。タフな心と体は、こうして維持されているのかぁ。
「リンは少食なんですか?」
彼女が私を見て首を傾げる。
いや、普通だと思うよ。
ディアンが苦笑を浮かべる。
「普通だよ。ルシアが食べ過ぎなんだろ」
「そんなことないです。ミリアンは私の倍は食べます」
「体の大きさが違うだろ? 大丈夫、リンにはプティング与えとけば、動けなくなるまで食べるよ」
「リンはプティングが好きなの?」
私が頷くと、ルシアがボールに作られたプティングをそのまま渡してくる。
「全部食べていいですよ」
「え? いや、でも。皆んなの分もあるでしょ?」
「いいんです。デザートならフルーツもありますから」
ミリアンも横から口を出す。
「食べなよ、リンさん。俺たち、別にいらないからさ」
ライアンは、また、喉の奥で笑ったまま、私を見ていた。
ディアンが腕を伸ばしてスプーンを差し出してくる。
「どうぞ」
「……えっと。そうですか。じゃあ、遠慮なく」
スプーンを受け取って、ボールのプティングをすくって口に入れる。
うっ。
やっぱり美味しい。
そして、また。
四人の目に晒されながら、私は一人でプテイングを食べるはめに陥った。




