ライアンのせい
魔法騎士団でシルビアさんの書類整理を手伝ってると、気になる文書というものにも出会う。
仕事で知った情報は、秘匿するのが常識だと思っているから黙っているけど。
それでも、気になるなって事はある。
例えば、リイドさんに要請されている活火山の調査依頼とか。
ライアンとディアンの叔父であるリイドさんは、魔法騎士団に泊まりながら、魔法学園の上級にある学校で臨時の講師をしてるって聞いてる。
上級の学校っていうのは、魔法学園の教師を育てる為に設立してるらしい。
大学みたいなものかな。
ディアンに教えてあげたい気もするけど。
……止めておこう。きっと、本人から聞きたいだろうし。
私が騎士団の詰所でララさんが作ってくれたサンドイッチを頬張っていたら、ダインさんが顔を出した。
「あれ? どうしたんですか?」
「いや。今日は学園の当番だったから早く終わったんだよ」
魔法騎士の人達は、週一くらいで代わるがわる魔法学園へ行く。
そこで課外授業のようなモノを担当するんだそうだ。
この間、ディアンも学園に行ってたな。
「リンさんって、いつもここで食事してるの?」
「いろいろです。学園まで行って学食使うこともあります」
彼は私の横に座って微笑む。
「学園の学食は、けっこう美味しいよね」
「はい。ちゃんとデザートまであって、お得ですよね」
「はは。やっぱり、女の子なんだね。甘いもの好きなのかな」
「そうですね」
ダインさんは、ふぅんって顔をしてから言った。
「そういえば、この間の巡回でディアンと組んだんだよね」
私が苦い顔をしたんだろう。
彼は口元を手で隠して笑い出す。
「いや、第二騎士団の団長が君達の魔法を褒めてたって聞いてね」
「団長さんですか?」
それは初耳なんだけど。
「年配の剣士が一緒だったでしょ?」
「あ、はい。黒髪で緑の目の方ですね」
「彼は第二騎士団の団長なんだよ」
へぇ。まあ、確かに強そうだったけど。
なんか、威張ってたし。
でも、そうなんだ。褒めてくれたんだ。
ダインさんは含んだような目をして口元だけで笑った。
「ま、若い方の剣士が君に絡んで、ディアンが君を離さなかったって話も聞いてるけどね」
「あれは、剣士の人が悪いんです。ディアンのせいじゃありませんよ」
彼は面白そうにククッと笑う。
「だろうね。彼は帰ってから団長に絞られたらしいから。ただね、魔法騎士を妬む剣士ってわりといるんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。魔法騎士は優遇されてるから」
ああ。魔法騎士特権かぁ。
「そういえば、リンさんもダンスパーティー出ないんだってね」
「はい。私は踊れませんし。人の多い所は苦手なので」
彼はちょっと眼鏡の奥の目を細めた。
「ドレス、きっと似合うのにね」
「え? まさか。似合いませんよ」
私が笑って片手を振ると。
ダインさんが真顔になって言った。
「いや。きっと、すごく似合うよ」
えっと。
私が困って苦笑を浮かべてたら、シルビアさんが食事から戻って来た。
彼女はお城まで戻って食事を取ってくることが多い。
ここは、お城からも近いから。
私も誘われたけど、とんでもないので断った。
「ダイン。戻ってたんだ。なら、話しがあるから団長室に来て」
「はい」
シルビアさんは、ふっと眉根を寄せて続けた。
「あとね。リンは私のだから、口説かないで」
……はい?
ダインさんが、また口元を押さえて笑い出す。
笑いながら、
「いや。それは団長命令でも聞けませんね」
そう言った。
シルビアさんが、口を尖らせて私を見た。
「もう、リンはモテるから心配になるよ。はやく、私の所においで」
「い、いえ。別にモテてませんから」
ダインさんが含んだように笑って、優しい目で私を見る。
「団長。彼女は自覚がないんですよ。自分が魅力的な女性だっていうね」
「ダ、ダインさんまで、そういう事をいいますか?」
「言うよ。本当のことだからね」
シルビアさんが、ムッとしたようにダインさんの腕を引っ張った。
「だから、私の目の前で口説くんじゃないの。リン。食べたら仕事!」
「あっ、はい」
ダインさんが面白そうに笑う。
「彼女に当たらなくてもいいでしょうに。じゃ、またね。リン」
「…あ、はい」
なんか、さらっと呼び捨てにされました?
食事の後はいつもの清掃。
外そうじの時に、気になってた草むしりをしてたら。
「マメだな」
上から甘い声が降ってきた。
ライアンだ。
私が返事をしないで草むしりを続けてたら。
わざわざ、しゃがみこんで顔を覗き込んでくる。
「なんだよ。まだ怒ってんのか?」
ライアンは私の目を見て甘く微笑んだ。
……だから。顔が近いってば。
私は立ち上がってライアンを睨む。
「怒ってません」
彼も立ち上がって面白そうに私を見た。
「ふぅん?」
まともに彼を見ると、自分の顔が赤くなっていくのが分かった。
……だってね。
あんな事されたの、初めてなんだからね。
ライアンは面白そうに私を見つめて、甘く名前を呼んだ。
「リン?」
それだけで、私は真っ赤になったと思う。
彼は目を細めて、すごく可笑しそうに笑った。
「なに、赤くなってんだよ」
「う、煩いな。何色になったって勝手でしょ!」
「いや、真っ赤だぜ?」
「……ほっといて」
ライアンのクククッって喉の奥で笑う声が聞こえてくる。
なんか。すごく悔しい。
彼は、さんざん笑ってから。
「……ごめん。こんなに効くと思ってなかった」
そう言った。
いたたまれなくて、そのまま詰所に戻ろうとしたら、腕を掴まれた。
ライアンが困ったような声で言う。
「ごめんって」
「離して」
「リン」
私は大きく深呼吸してライアンを向き直る。
「だから、怒ってるわけじゃないから。少し、ほっといてよ」
彼は困ったように眉を寄せて私を見る。
「少ししたら、きっと落ち着く。いま、混乱してるの」
私はそのまま詰所に戻った。
本当に落ち着いてもらわないと困る。
ライアンを見ただけで、心臓が壊れそうじゃない。




