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納品

 カードを納品できたのは、期限ギリギリになってしまった。

 樹液を塗るのがけっこう難しくて。


 剥がれないように、上手く薄く塗るのに苦労してしまったし、黄色味が出てしまったのよね。


 二枚ほど、失敗しちゃった。


 けど、もともと、モチーフの薔薇は黄色かったし。

 シルビアさんは、すごく喜んでくれたからいいかな。


 カードを見た彼女は、目を丸くした。

 美貌の女性がそういう表情すると、破壊的に可愛らしい。


「これ、リンが作ったんだよね?」

「一応、そうです」

「すごいじゃない。綺麗だね。色数が少ないのが上品」

「シルビアさんのイメージだと、もっと薔薇が白いんですけど。ちょっと黄味がかっちゃって」


 彼女は微笑んで私を抱きしめた。

「十分だよ。これなら、父上の顔も潰さないで済むね。大変だったでしょ? ありがとう」


 そう言って、私のおデコにキスした。

 柔らかくて、滑らかな彼女の唇がおデコに触れる。

 私は真っ赤になったと思う。


「シ、シルビアさん?」


 彼女はウィンクしてカードを大切そうに机にしまう。


「あ、そうだ。なんだか、ライアンが一枚欲しいって言ってたんですけど?」

「ん? なに、あいつも特別に断る相手でもいるの?」


「……さあ」

 なんとなく、モヤッとするけど聞いてないし。


 引き出しから一枚取り出した彼女は、面白そうに笑った。

「まあ、ライアンがリンの事を教えてくれたんだしね。また、何かあったら頼んでいいかな?」

「シルビアさんの頼みなら歓迎です。今回も作るの楽しかったですし」

「それなら良かった。はい。今回の報酬」


 紙に包まれた紙幣は、思いのほか高額だった。


「え、こんなにですか?」

「なに言ってんの。相場だよ。図案から頼んで彩色までしてもらったんだし」


 私はちょっと嬉しくなってしまう。

 魔法騎士団でお仕事させてもらってるから、お給金はもらってる。


 けど……これは、デザインでもらった報酬なんだよね。

 私が感激してると、シルビアさんは面白そうに笑って見てた。


              ☆


 夕食の後、私はライアンの部屋を訪ねた。

 カードを渡そうと思って。


 ノックで扉を開いたライアンは、不思議そうに私を見る。

「……どうぞ?」


 部屋に入れてもらうと、床に剣が抜き身で置いてあった。ランプが床に置いてあって、布と液体の入ったガラス瓶が横に置いてある。手入れをしてたみたいだ。


「作業してたんだね、ごめん」


 彼は剣を鞘に収めて、また、不思議そうに私を見る。

「いや。どうかしたのか?」


「これ。シルビアさんにもらったから」

 カードを出すと、やっと納得がいったように微笑んだ。


「ああ。ありがとう」

「ねえ、それ、どうするの?」

「え? どうもしない」


 今度は私が彼を不思議そうに見たと思う。

「どうもしないの?」

「欲しかっただけだよ」


 彼はカードを机の引き出しにしまって笑った。


「そういや、この間の巡回で若い剣士に絡まれたって?」


 私は目を瞬く。

 なんでそんな事を知ってるんだろ。


「第二騎士団で話題になってたらしいぜ? どんだけ誘ってもガード固いってさ」

「な、なに、それ?」

「ディアンがお前を離さなかったって?」

「はい?」


 そりゃ、ずっと手を離さなかったけど。

 ライアンが目を細めて私を見た。


「その剣士はディアンに妬いてるってさ。あいつ、ルシアに抱きつかれるだろ? ルシアも、どんだけ誘ってもディアンから離れないし、お前までそうだから。魔法騎士ってどうなってんだってさ」


 何を勝手な事を言ってるんだろう。

 あの煩かった剣士の人だよね。


「どうなってるもなにも。仕事中に女の子に絡む方が、どうなってんだって聞きたいわよ」


 彼は喉の奥でククッって笑った。

 なんなのよ。


「男なんて、そんなもんだよ」

「そんなもんって何よ」


 ライアンは、目を細めたまま、首を傾げて私を見た。


「好みの娘がいたら、状況なんか考えないで誘うんだ。今回はディアンが一緒で良かったな」

「なに、それ。ライアンの実感?」

「実感だな」


 なんだろ。

 また、お説教的な事を言われるんだろうか。


「お前、ミリアンで懲りないのか?」

「あのね、ライアン。今回、私は一人でウロウロなんかしてないから」

「分かってるよ」


 そう言って、腕を伸ばして私の手を掴んで引っ張った。

 私はよろけてライアンの腕の中に抱かれる。


 な、なに?


「え、あ、あの、ライアン」

「大人しくしてろよ」


 彼に抱きしめられると、ちょうど肩に顎が乗る。

 顔も近いし、胸が合わさると彼の鼓動を感じるようで。

 私の体が熱くなっていく。


「ラ、ライアン?」


 彼はゾクッとするような甘い声で囁いた。

「お前ね、夜になってから、簡単に男の部屋を訪ねるもんじゃないよ?」


「そ、よ、用事があったから」

「部屋の中まで入る用だったか?」

「だって……どうぞって」


 ライアンの手が私の背中を滑り降りて腰を抱く。

 強く抱かれると体はさらに密着して、私は恥ずかしいを通り越して混乱する。


「ちょ、ラ、ライアン。離して」

「嫌だって言ったら?」

「……い、言わないでしょ?」

「……」


 ライアンは、ふわっと私を離すと笑った。

「隙だらけなんだって」


 私はもう真っ赤になってたと思う。

「自分は私の部屋に普通に入ってくるじゃない」

「それも、本当はどうかと思うけどな」

「なに、それ」


 彼は腕を組んで片眉を軽く上げた。

「俺だって、いつでも自制できるわけじゃないんだよ。とくに、ここは俺のテリトリーだしな」

「わ、分かったわよ。部屋を訪ねたりしない。ごめんね」


 私が出て行こうとすると、腕を掴んで真顔で言った。

「いや。いつでも来いよ。待ってるから」


 ライアンの手を払って、私は無言で彼の部屋を出た。

 自分の鼓動が早鐘みたいに煩い。


 ……ライアンのバカ。








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