お誘い
書類の分類も進んで、午後はいつものお掃除をした。
なんか、休む前より荒れてる気がする。
私が休んだの、一日だけなんだけど。
室内を箒で履いて、モップをかけて、椅子や机の拭き掃除をする。
ゴミをまとめて裏にある焼却炉まで運び、道具を片付ける。
いつもは始めに窓枠や棚なんかも拭くんだけど、今日は時間がないからパス。
そのまま外の掃除に取り掛かっていると、ライアンが歩いてくるのが見えた。
鞘に収めた剣を首の後ろへ横に当てて、両手を剣にぶら下げている。
なんか、疲れてるのかな?
気怠るそうに見えた。
私に気づくと剣を下ろして腰ベルトに引っ掛ける。
たぶん、威嚇しないようにだと思う。
剣はやっぱり武器だから、剣士は扱いに気を使うってミリアンに聞いた。
剣を持ってるライアンは初めて見た。
それなりに様になってて、というか……格好いい。
言わないけど。
「よお。体調は?」
彼は少し首を傾いで軽い調子で聞いた。
「お陰様で調子も戻ったみたいです」
私が丁寧な口調で答えると、面白そうに目を細めた。
「そりゃ、良かった」
ちょっと上目遣いに彼を見てから、深く頭を下げる。
「シルビアさんに、カードのお仕事もらいました。ありがとうございます」
ライアンは片眉をヒョイと上げて口元だけで笑う。
「どう致しまして」
彼が丁寧に答えるから、笑ってしまった。
「ちゃんと描けるか不安だけど、すごく、嬉しい」
「大丈夫だろ。リンの絵は丁寧で綺麗だよ」
ライアンは甘く笑って、私の髪を掻き回す。
「ライアンは髪に触ってもいいんだ?」
気づけば苦い顔のミリアンがライアンの後ろから歩いて来てた。
彼はライアンの隣に立つと口を尖らせて私を見る。
「俺はダメなのに。ライアンには髪を触らせるんですね」
私は思わず目を瞬く。
そういえば……。
だって、ライアンに触られるのは怖くないからなぁ。
「そうですね。ライアンはいいんです」
正直にそう言ったら、二人がクッと黙り込んで……。
ライアンが目を瞬いて、私から軽く視線を逸らせた。
苦い顔をさらに苦くしたミリアンが溜め息をつく。
「ずるくないですか?」
「ずるくないですよ。ライアンは怖くないから」
「リンさん。まだ、俺が怖いんですか?」
「……少し」
ミリアンが軽くショックを受けてる。
せっかくハンサムな顔がちょっと崩れてるよ?
「夏至の日に遠乗りに誘おうと思ってたんですけど」
ミリアンがそう言うと、ライアンが剣呑な目で友人を睨む。
「誰が、誰を誘うって?」
「睨むなよ。別に二人で行こうってわけじゃない。夏至の日は騎士も全員が休みだろ? ルシアが行きたいって言ってるんだよ。だから、リンさんもどうかなって」
ルシアちゃん行くのか。
でも……。
「私は馬に乗れないので」
「いや、ルシアも乗れませんよ。あいつはディアンを誘って乗せて貰うつもりらしくて、だから、リンさんは俺……」
ライアンが裏拳で彼の鼻を叩いたので、ミリアンはその先を言えなかった。
「痛てぇな、ライアン」
「お前、さっきの聞いてなかったのか? リンはお前が怖いんだと」
ミリアンは苦い顔でライアンを睨む。
それから、溜め息をつくように言った。
「じゃあ、ライアンに乗せて貰えばいいんじゃないですか? お前も来いよ、ライアン。どうせ、ダンパには出ないんだろ?」
ライアンが甘い目をちょっと伏せて、どうする? って、目線で聞いてくる。
「……ライアンが乗せてくれるなら」
私がそう答えたら、ミリアンがライアンの肩を抱いた。
「来るよな、ライアン。リンさんが来ないんじゃ、ルシアのお守りをする甲斐がないんだよ」
ライアンはヒョイと肩を上げた。
そこに森の巡回からルシアちゃんとディアンが帰って来た。
魔法騎士は討伐がなくても、定期的に剣士と組んで森を巡回し、魔物の様子を監視する仕事がある。
ここの所、ディアンはよくルシアちゃんと一緒に組んでる。
シルビアさんが言うには、ディアンを付けとけば、ルシアちゃんがよく働くのだそうだ。
走り込んで私に抱きつくルシアちゃんに、ミリアンが言う。
「良かったな、ルシア。リンさんも遠乗りに来てくれるってさ」
それから、ちょっと口を尖らせて。
「ライアンが馬に乗せるのが条件だけどな」
そう言った。
ルシアちゃんの顔がパァッと明るくなる。
「やった。嬉しいです。リンさんに見せたい景色があるんです!」
それから疲れた顔のディアンを振り返った。
「ディアンも来ますね?」
「……分かったよ」
少し恨めしそうに、私とライアンを交互に睨んだ。
「休みまでルシアと一緒かぁ」
「なんですか、ディアン。私と一緒は不服なんですか?」
「……そうじゃないけど」
ふっと私を見てから。
「なんでライアンの馬なの?」
そう言った。
ライアンが口元で笑って弟を見てから、ミリアンに目をやって言う。
「こいつの馬に乗せろっていうのか? お前はルシアを乗せるんだって聞いたぞ」
ディアンがミリアンを見ると、ミリアンがポリッと顎を掻いた。
「リンさんは俺が乗せてくつもりだったんだけど……」
私はよく分からないけど、ここはハッキリ言っとこうと思った。
なんかの手違いでミリアンの馬に、なんて、なったら困る。
「私はライアンの馬にしか乗りませんから」
そう宣言したら、男三人が驚いた顔で私を見る。
それから——。
ミリアンは目を盛大に瞬かせ。
ディアンが顔を顰めて私を見た。
ライアンは片手で顔を覆って俯いてる。
あれ、なんか、少し顔が赤くない?
ルシアが面白そうに笑った。
「私、ライアンが照れてるの初めて見ました」
「え? ライアン、照れてるの?」
私がビックリしてライアンをジッと見つめていると……。
彼は赤い顔で私を睨んだ。
……うわっ。可愛い。
私までカッと顔が赤くなっていくのが分かった。
ミリアンが大きく溜め息をつく。
「じゃあ、話しは決まったってことで。行くぞ、ライアン」
「ああ。じゃな」
二人は連れ立って第一騎士団の詰所へ向かった。
ルシアが私を見上げて、面白そうに聞いた。
「なんでライアンの馬にしか乗らないんですか?」
「え……なんか、安心だから」
私がそう答えたら、彼女は納得したように頷いた。
「なるほど」
ディアンは腕を組んで不服そうに言った。
「俺の馬は不安だってこと?」
私は不貞腐れてるディアンを見て、ちょっと困った。
「だって、私はディアンが馬に乗れるって知らなかったし、ルシアちゃんを乗せるんでしょ?」
ルシアちゃんは、私を離してディアンに走って行き、彼を抱きしめた。
そして彼女は、聞いた事がないような静かな声で言った。
「ディアン。私を乗せてくれますか?」
彼は少し困ったような顔で彼女を見る。
「……いいけどさ」
ルシアちゃんが嬉しそうに笑ったので、私は、なんとなくホッとした。
この二人には仲良くしていて欲しい。
私はディアンもルシアちゃんも大好きだから。




