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デザインのお仕事

 魔法騎士の詰所に出勤すると、ルシアが飛び込んで来た。

 軽そうな金髪が動きに合わせてふわふわ揺れる。


 ああ。ルシアちゃんだなって。

 柔らかな体に抱きしめられて、私は一人で嬉しくなった。


「リンさん! 熱出してたんだって聞きましたよ?」

「うん。もう、大丈夫。一晩で下がったしね」

「きっと、討伐で疲れたんですよ」

「そうなのかなぁ?」


 彼女は私を抱きしめたまま、淡いブルーの瞳で不思議そうに見上げた。


「あれ? なんか雰囲気が変わりましたね?」

「え、そう?」


 ダインさんも寄って来て、優しい笑顔を見せてくれる。

「ルシア。リンさん病み上がりなんだからさ」

 ルシアは小さく頷くと私を離してディアンを探しに行った。


 彼の淡い茶の瞳が、少し心配そうに細められる。

「大丈夫なの?」

「本当に大丈夫ですよ。思いがけず、ゆっくり休みました」


 ダインさんが、しみじみ私を見つめる。

 ううん。

 絶対にこれって、この世界の人の特徴よね。


「確かに、雰囲気が変わったね」

「え? そうですか?」

「なんていうか、色が濃くなった」

「はい?」


 彼は困ったように笑った。

「なんだろね? 上手く言えないな」

 それから、また、あの包み込むような優しい目をして続ける。

「けど、僕は今の君の方が好きだな」


 ……いま、なんか、さらっと爆弾を落としませんでしたか?

 私が困って目を瞬かせていると、小さく微笑んだ。


「団長が心配してたよ?」

「あ、はい。挨拶に行ってきます」


 なんか、ちょっとビックリした。

 要するに、前は今一だったってことかな。


 団長室に入って行くと、シルビアさんが私を見て嬉しそうに笑ってくれた。

「体調は?」

「大丈夫です。確かに熱は上がったんですけど、一晩で下がりましたし。ライアンが、少し大げさに話したんですよ」


 彼女は立ち上がって私に近寄るとギュッと抱きしめた。

 うん。やっぱり、愛情表現、過激だよね。

 今日もいい匂いしますね。


「いや。ライアンは君を心配してるんだよ。分かってる。私も反省してる」


 彼女は私を離して首を傾いで笑う。


「魔法騎士なんかしてるとね、女の子の扱いが分からなくなっちゃうんだよ。男ばっかだから」

「いや、シルビアさん。それはルシアちゃんに失礼では?」

「あの子はね。見た目と違って、すごくタフなんだよね。その辺りの男の魔法使いより打たれ強いくらい」


 ……ああ。

 それは、なんとなく分かる。


「でも、復帰してくれて助かった」

 彼女がチラッと見た机の上には、山と積まれた書類が……。

「分類するの手伝って」

「了解しました」


 今日の仕事は書類の整理で決定だね。


 しばらくして、グレイさんがお茶を持って来てくれた。

 この人って何者なのだろう。

 年齢はライアンより上だと思うけど、けっこう若く見えるし。

 ダインさんと変わらないくらい?


 彼の髪は焦げ茶で、サッパリと短く刈り込んでる。背は高くないけど、骨格がシッカリしてて男っぽい体だ。もしかしたら武術とか剣術とかやってるのかもしれない。瞳も焦げ茶で、なんというか、とても物腰が柔らかい。


 シルビアさん付きのボディーガード?

 彼女は皇女なんだし、そういう人が付いてても変じゃない。 

 うん。勝手に、そういう感じで納得しよう。


 シルビアさんがカップを持ってフウッと息をつく。

「そういえば、リンに頼み事があったんだよね」

「頼みごとですか?」


 彼女は少し遠い目をした。

「トルア国って、決まって夏至の日に王宮主催でダンパ開くの知ってる?」

 私がカップを持って頷くと、彼女のため息はさらに深まる。


「たぶん、知ってるだろうけど。私って皇女なんだよね」

「はい」

「でもさ、魔法騎士だし、特権使ってて。もう何年も出席してないわけ」

「気持ちは痛いほど分かります」


 シルビアさんは長い銀髪を片手で払って微笑む。

「立場的に、エスコートさせろって誘いも来るんだけどね。面倒だから全部黙殺してたの」


 まあ、こんだけ美貌の女性で、皇女ときたら売るほど求婚者もいるんでしょう。

 本当に……大変だよなぁ。


「さすがに、父上に叱られてしまってね。断るにしても、失礼のないように断れって厳命されちゃって」

「王様にですか?」

「まあ、そうなるね」

「大変ですね」


 彼女のため息は深い。

「で、ライアンに聞いてみたんだよ。ダンパどうすんのって。あいつも、あれで子爵の長子でしょ? それなりに考えているのかなって」


 あれ。

 なんか、いま、胸のあたりがモヤモヤっと。


「まあ、自分は誘う方であって、誘う相手が見つからない時は出ないって言っててね。いいよね、男は」

「……そうですか」

「で、どう断ったら失礼にならないか、男の立場から教えてって聞いたの」

「はい」


 シルビアさんが小さく微笑んだ。

「ライアンはね、綺麗な絵の入ったカードでも送ればいいって。その辺りに売ってるものじゃなく、リンに絵を入れてもらうといいんじゃないかって」


「……え? わ、私ですか?」


 彼女は甘えるように上目遣いで私を見た。

「そういうの、リンは得意ですよって言ってたんだけど。頼んでもいいかな」

「え、えっと」


 首を傾いで美貌はどこへやら、まるで少女のように愛らしい。


「特別に作りましたっていうカードなら、相手も嫌な思いをしないで断りを受け入れてくれるだろうって。確かに、そういうものかなと思って。数はね、絞って、ええと。六枚。報酬も相場で出すから」


 デ、デザインのお仕事かあ。

 私の頰が高揚してくる。


 今なら、薔薇の図案が出来てきてるし。

 いけるかなぁ。


 シルビアさんが、そんな私を見てダメ押しで行った。

「お願い」


 シルビアさんには、お世話になってるし。

 ライアンが私を押してくれたんだし。


 ……これは、引き受けるしかないかな。


「分かりました。カードはどんな材質ですか? 大きさは? いつまでに上げればいいでしょう」


 彼女はニッコリ笑って、上質な紙で出来た真っ白なカードを十枚差し出した。

「このカードを使って。一応、四枚は予備。期日は十日間。よろしくね」


 ……準備万端ですね。














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