四本目のブレスレット
魔法騎士団の詰所で、私は午後の清掃の為に外を掃いていた。入口が数段の階段になってるから、室内にゴミやホコリが入り込む事は少ないんだけど、その代わりに階段下にホコリが溜まってしまうんだよね。
それに、小さな雑草も生えてきてるな。明日は草むしりでもしようかな。
そんな事を考えてると、珍しく午後出勤のダインさんが来た。
「やあ、リンさん。いつも綺麗にしてくれて、ありがとう」
相変わらずの優しい笑顔、私も思わず笑顔になる。
「いえ、仕事ですから。珍しいですね、午後からですか?」
彼はちょっと苦笑を浮かべて立ち止まった。
「本当は非番だったんだよ。午後から会議するから出て来いって、団長に呼び出されたんだ」
「それは……お疲れ様です」
シルビアさんなら、それぐらい平気でしそうだよね。本人が仕事第一の人みたいだからさ。
「ああ、そうだ」
ダインさんは私を見てポケットに手を入れた。
「リンさんに会ったら、僕もコレを渡そうと思ってたんだ」
「……え?」
ダインさんは玉虫色のビーズのブレスレットを差し出した。
「君が腕にしてるのは、アイアン家の人達にもらったんだよね? だから、僕からも君にあげたいと思って」
あまり仲良くない人から、ホイホイ物を貰うのは躊躇われるんだけど。
……どうしよう。
断ったら失礼になるかな。
私が戸惑ってると、彼は包むような笑みを浮かべた。
「リンさん。この先、君が自分で魔法を使えるようになったら、きっと多くの人を助けるよ。あの村で見た回復魔法は凄かった。あんなの、見た事ないよ。だから、その前に君に怪我なんかして欲しくないんだ」
「いえ、あれはリイドさんが凄かっただけで……」
彼は小さく首を振った。
真顔になった彼は、思ってたより鋭い顔をしている。
眼鏡の奥から見つめてるのは、アーモンド型の大きな目で、顎のラインも細い。
元が整っているから、少し怖い雰囲気を出してる。
……ちょっと、緊張する。
ダインさんは、その表情のままで、私をじっと見つめた。
「それは違うよ。確かにリイドさんの魔法も強い。けど、あれは君から流れ出た魔法だよ。今度、機会があったら観察してごらん。僕らが使う回復魔法は黄緑色をしてる。でも、あの魔法は白かった。君の魔法だ」
ダインさんは私の左手を取って、ブレスレットを握らせた。
「もらって欲しいんだ。そのブレスレットは一度に数を使えば、それだけ大きな閃光を生み出す。多すぎて困るってことはないと思うよ」
彼はそう言ってニコッと笑った。
やっと、雰囲気が和らいで、私は思わずホッとする。
「……ありがとうございます」
ダインさんは軽く頷いて笑った。
「それにしても、リンさんはアイアン家で大事にされてるんだね」
私の腕の三重になったブレスレットを、面白そうに見る。
「はい。とてもよくして頂いてます。私の状況が特殊だからだと思いますけど」
そこに、ライアンが歩いて来た。
なぜ?
ダインさんが私の手を離してライアンを見る。
ライアンは私を見て甘くない声で聞いた。
「中に団長はいるか?」
「あ……団長室にいらっしゃいます」
彼は手を上げて了解を示し、ダインさんを横目でチラッと見てから詰所に入って行った。
ダインさんは含んだ笑みを浮かべる。
「状況のせいだけじゃ、無さそうだけどね」
私はよく分からなくて首を傾いだ。
それにしても……。
「剣士の方もここに来るんですね?」
「ああ、ブライアンは団長補佐だから、僕と同じ会議に出るんじゃないかな」
「団長補佐なんですか」
「そうだよ。団長が忙しいんだろ。あれ? 知らないの?」
私は苦笑を浮かべるしかない。
「仕事の話しを家でする事は、殆どないです」
「なるほどね」
私が彼のくれたブレスレットを腕にはめながら。
「お守りだって聞いてますけど。これ、不思議なブレスレットですよね。投げると閃光を放つなんて」
そう言うと。
少し微笑んで教えてくれた。
「魔法付与してあるんだよ。魔法使いの中には、そういう仕事が得意な人もいる」
「へえ。そういう仕事もあるんですね?」
彼は面白そうな笑みを浮かべた。
「興味があるなら、工房に連れてってあげようか?」
「え? 本当ですか? い、行きたいです」
ダインさんが表情を崩して眉を下げた。
口を押さえて面白そうに笑う。
……え? ここ、笑うとこ?
「君は表情がクルクル変わるんだね。うん。今度、予定の合う日に一緒に行こう。じゃ、また」
そう行って私の腕をポンッと叩いて、詰所の中に入って行った。
やっぱり、よく分からない人だな。
「あの人、魔法騎士か?」
急に声を掛けられて振り返ったら、ミリアンが苦い顔して立ってた。
この人、なんで不機嫌なの?
「えっと、ミリアン。訓練の帰りですか?」
「そう。で、あの人は魔法騎士?」
「そうですけど」
彼は眉間に皺を寄せて私を睨んだ。
なに、ミリアン怖い。
「リンさんは、誰にでも愛想が良すぎだと思うんだよね」
「……は?」
「ニコニコして、ハードルが低いっていうかさ」
「え。普通、挨拶は笑顔でしますよね?」
「だからって、体に触らせるのってどうなんだ?」
「え? 触るって、腕を叩いて行っただけですけど?」
ミリアンは更にムッとした顔になる。
「俺からは逃げるでしょ」
「いや、だって、髪に触ろうとするのと違うし」
そこに走りこんで来たルシアが、兄の足を思い切り踏んづけた。
「痛って、何すんだ、ルシア!」
「リンさんが困ってる。何してるんですか、ミリアン」
彼女は私に抱きついて庇うように兄を睨んだ。
ミリアンがハッとしたように私を見る。
「……い、いや。なんていうか」
「男の嫉妬は見苦しい」
ルシアが歯に絹着せない感じで言い放つと、ミリアンはグッと詰まって妹を見て目を瞬かせた。
「けどね、ミリアンの言う事、分かるよ」
彼に助け舟を出したのはディアンだった。
たぶん、ルシアと一緒に戻って来たんだろう。
「リンは、もう少し警戒心を持った方がいいよね」
「……はい?」
なんで、ディアンにまで冷たい目で見られなきゃいけないの?
ミリアンが腕を組んで大きく頷いてるし。
ルシアが二人を睨んで言った。
「もう一回、言おうか? 男の嫉妬は見苦しい」
二人がグッと詰まってルシアを見る。
「ハードルが低いのも、愛想がいいのも、リンさんの良いとこだよ。冷たいリンさんがいいなら、そういう事を言ってもいいけどね。自分にだけ愛想良くしてろなんて、我が儘もいいところ。リンさんは、このままで良いのよ!」
ああ。なんて、なんて、可愛いい。
「ルシアちゃん。ありがと」
私は思わず彼女をギュッと抱きしめて、その頭に自分の顔を埋めた。
ルシアちゃんは蕩ける笑顔で声を出して笑った。
「くすぐったい、リンさん」
「うう、ルシアちゃん、好き!」
ディアンとミリアンは苦い顔のまま、私達を見てた。




