初討伐
その後、リトゥーチャの討伐の為に森へ入り、洞窟を目指した。
魔物が活発に動くのは夜だという事もあり、移動はスムーズに進んだ。
洞窟に入る時、ディアンが私の肩を掴んで言った。
「離れるなよ、リン。俺のガーディアンが君も守るから」
そう言うと、ディアンの黒い瞳に砂金の光が踊り、背後に翼を広げた真っ白な鷲が見えた。
——なんて、綺麗な鳥だろう。
ハッとして、ルシアを見れば、彼女の背後に全てが緑のグラデーションに彩られた男性が浮かんでいる。人ではないと一目で分かる。深い、深い、エメラルドのような瞳、蔓のような長い髪が蠢いていた。
それが二人のガーディアンなんだと理解した。
ダインさんのガーディアンは地に立っていた。
とても大きな灰色の狼は、燃えるような金色の瞳で洞窟の奥を睨んでいる。
固そうな灰色の毛は鉱物で出来ているように見えた。
この時くらい、ここが異世界である事を強く感じた事はない。
洞窟の討伐は瞬く間に終わった。
もうね。
三人が凄すぎて……。
私は空いた口が塞がらなかったよ。
彼らは差し上げた手から、浄化魔法を次々に放って、襲って来るリトゥーチャを霧散させてた。
私もディアンの横で浄化魔法を放ったけど、大きさも威力も段違い。
彼らは魔法騎士なんだって実感した。三人とも、すごく格好良かった。
討伐が終わって村へ戻る時、私はふっと何かを感じて足を止めた。
たぶん、柏の木だと思う。
呼ばれた気がして木肌に手を当てると、暖かいモノが流れ込んで来た。
……え?
私が戸惑って柏の木を見上げていると。
「リトゥーチャが嫌だったみたいだね。お礼を言ってるんだよ」
私の隣に立って、ダインさんが微笑んだ。
「……そう、なんですか」
初めての感覚に私はボンヤリと柏を見上げる。
彼は私の手を取って軽く引っ張った。
「遅れると皆んなが煩いよ」
淡い茶の瞳が、また、包み込むように私を見つめた。
ちょっと惚けて見上げてしまったと思う。
思いがけず、見つめ合ってしまった。
私は急に恥ずかしい気がして目を逸らす。
「行こう」
彼はそのまま私の手を引いて、皆んなの背後まで引っ張ってゆく。
本当に、こっちの人はすぐ手を引っ張るなぁ。
ディアンがルシアを右手にぶら下げたまま、ふっと私達を見て咎めるように目を細めた。
ダインさんが私の手をパッと離してディアンに微笑みかける。
ディアンは何も言わずに前を向き直った。
ダインさんが面白そうに私を見た。
まるで、悪戯を見つかった子供のような表情をする。
うぅん。この人、よく分からない人だなぁ。
ただ、決して嫌な人ではない。
それだけは分かる。
☆
帰りの乗り合い馬車でディアンが聞く。
「初めての討伐は、どうだった?」
「……魔法騎士って凄いなって思った」
本当に正直な感想だよね。
「あとは、村の人が喜んでくれて良かったなって」
なんか、あの後、帰る時なんか村人総出な感じで送ってくれた。
あの酷い状態から回復した女性の父親は、リイドさんと私の手を掴んで涙まで浮かべてた。
「まあ、今回のは楽な方だしね」
そうなんだよね。アレで楽なんだよね。
私の脳裏にはリトゥーチャに襲われた人達が浮かんで消える。
村の人達は、日々、ああいう脅威と向き合って暮らしてるのか。
そう思うと、騎士って重要な仕事なんだって痛感する。
「そういえば、ディアンのガーディアン、すごく綺麗な鷲だったね」
私が微笑んで彼を見ると、少し照れたように瞬きした。
「風の幻獣だよ。アイアン家は風の精霊と縁が深いんだ。ルシアのも見えた?」
「見えたよ。不思議な感じだったけど、獣じゃないよね?」
「一応、幻獣だよ。土の精霊なんだ。ダインさんのもそう」
「え? あの灰色狼?」
彼は口元だけで笑って頷いた。
「ダインさんは魔法騎士の中でも指折りで強い騎士だよ。経験も長いしね。たぶん、シルビアさんがリンの為に彼をチームに入れたんだと思う」
私が首を傾げると、ディアンが察して話しを続けてくれる。
「あの人、ルシアと同じくらいから魔法騎士やってるんだって。十年くらい経験があるって言ってた」
「そうなんだ。そんな風に見えないよね。ねえ、魔法騎士って、そんなに若い時からやるものなの?」
彼は綺麗な顔に苦笑を浮かべた。
「まさか。ルシアとか、ダインさんは異例だよ。普通はもっと後。二十代でなる人が多いな。稀に三十代でなる人もいるけど、魔法騎士を長く続ける人は少ないし」
「じゃあ、ディアンも若い方なんじゃない」
「まあ、そうだけどね」
私はホウッと息をつく。
「皆んな、凄いな。私が居た世界では、二十歳が成人だったけど。でも、その歳に自分の職業を決められる人は多くなかった。二十代で幾つか職業を経験して、その中から決めるというか……決まってしまう。そんな感じが多かったよ」
ディアンが不思議そうに私を見る。
……あ、つい、元の世界の話しを。
「じゃあ、リンって未成年だったのか?」
「え? そうだけど?」
「ふぅん」
なんだろ、その含みのある目は……。
「なに?」
「いや。なんとなく、納得がいったなって」
「何によ」
彼はクスッと笑った。
「リンって、どっか幼いからさ」
ちょっと……。
ムッとする発言じゃない。
「あのね。確かに学生だったけど、私、ディアンより歳上だから」
「たかが二つ上なだけじゃん」
「たかが、じゃないわよ。私が歩き回って喋り出した頃、君はまだ生まれたばっかりだから」
「なにムキになってんの? そういう所が幼いよね」
ディアンは面白そうに私を見た。
「リンって、可愛い。なんか、放っておけない」
私はグッと言葉に詰まった。
……可愛いって。
軽く睨んで彼を見ると、ディアンは綺麗な顔で揶揄うように笑ってる。
「もう、年上は揶揄うもんじゃないんだよ?」
「揶揄ってない」
あの、魔法を使う時みたいな不思議な目をしてディアンは言った。
「揶揄ってないよ。リンは可愛い」
彼の不思議な目と見つめあって、私はビックリして目を逸らす。
顔が赤くなったのが自分で分かるじゃない。
ディアンは、そのまま黙って私を見つめてた。
私は困っちゃって、馬車を降りるまで外の景色を見てた。
……なんて答えればいいか分かんないし。
見つめられてると、居心地悪いし。
アイアン家につくと、玄関でディアンが私を見た。
「じゃ、また夕食で」
そう言って、自室に戻って行く。
私は深くため息をつく。
ディアンと別れてホッとするなんて。
なんだかな……。




