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回復魔法

 魔法騎士団につくと、ルシアが私に飛びついて来た。

「おはよう、リンさん」

「おはよ、ルシア」


 彼女は私を離してディアンに抱きつく。

「ディアン。おはよう」

「ああ、おはよう。えっと、ルシア。離してくんない?」

「嫌!」


 私は美少年と美少女の邂逅を微笑ましい目で愛でた。


「おはよう。リンさん」

 ダインさんが、座ってたソファーから立ち上がって来た。

 今日も暖かい微笑みですね。


「おはようございます」

「今日はよろしく」


 そこにシルビアさんが現れて、魔法騎士の皆さんに声を掛ける。

「おはよう、諸君。本日は晴天だ。討伐日和だな。各自、指示に従って怪我のないよう出発してくれ」


 魔法騎士の皆さんは、思い思いに立ち上がって外へ出て行く。

 なんていうか、皆さん、大変にクールでいらっしゃる。


 奥にある一番右側の扉からリイドさんが出て来ると、シルビアさんが私達の所へやって来た。


「おはよう、リン」

「おはようございます」

「今日は初討伐なわけだが……」


 シルビアさんがガバッと私を抱きしめる。

 ええと、こちらの女性の愛情表現なんでしょうか?

 過激だよねぇ。


 なんか、いい匂いしますし。

 銀髪サラサラですし。


「一緒に行けなくて、ごめんね。というか、行きたかったよ」

「えっと。シルビアさんも、お仕事がおありでしょうから」

「けど、見たかったんだよ。リンの勇姿を」


 私は苦笑してしまった。

「いえ、たぶん、勇姿にはならないんじゃないかなあ」


 きっと、右往左往してしまうんだろう。

 とにかく、チームの足を引っ張らないことが肝要だよね。


 彼女はディアンとリイドさんを見る。

「頼んだよ、君たち」

 二人は苦笑を浮かべて頷いた。


「ダイン。この子はアイアン家の人間がいないと魔法が使えない。気にかけてやって欲しい」

 ダインさんは穏やかに笑って頷く。


「ルシアも、今日はリンにディアンを貸してね」

 彼女は天使みたいに微笑む。

「リンさんになら、特別に貸してあげます」


 ディアンが非常に苦い顔をする。

「俺は物じゃないけどね。貸し借りするって酷くない?」


 ルシアはディアンの右腕にぶら下がったまま、不思議な笑みを浮かべた。

「いろんな子から守ってあげたの、私ですからね」


 ディアンは本当に苦い顔で彼女を見る。

 いいじゃない。

 こんだけの美少女に懐かれて。


「ディアン、そういう顔してるとマイケルに首絞められるよ?」

 私がそう言ったら、もっと苦い顔をした。


 「みんな、気をつけて行っておいで」


 シルビアさんに見送られ、私達は魔法騎士団が用意した馬車に乗り込んだ。


             ☆


 目的地になっている洞窟は、そこまで遠くはないそうだ。今日は日帰りで終われるとリイドさんが言った。

 と、いうことは、日帰りではない討伐もあるって事だよね。


 二時間くらい馬車に乗っていたんだろうか。

 民家がポツポツと減って、林に囲まれた道をひたすら走る。

 景色を眺めていると、また、ポツポツと民家が増えて、広い草地に牛が放牧されているのを見た。


 ダインさんが。

「この北の森に近い村はね、乳牛で生計を立てる人が多いんだよ」

 そう教えてくれた。

「そうなんですか。それはリトゥーチャなんか困りますね」


 魔性をおびた蝙蝠は集団で人や家畜を襲うって習った。

 牙に毒を持っていて、何度も噛まれると動けなくなってしまう。

 そこを襲って吸血する。

 リトゥーチャの集団に襲われてしまえば、干からびるまで血を吸われるそうだ。


 村につくと、村長だという年配の男性が私達を案内してくれた。

「まず、見て頂きたい者達を集めてあります」


 ずいぶんと疲れた顔をしているな。

 村長という立場からくる、彼の心労がうかがえるようだ。


 小屋の扉が開かれると、ルシアが小さく声を上げた。

 集められた村人の数が多い。

 グッタリと横になって動けない人、壁にもたれて項垂れてる人、まだ苦しそうに呻いてる人もいる。


「王都に伝達を送ったすぐ後のことです。リトゥーチャの群れに襲われました」


 リイドさんが眉を顰めて村長を見る。

「村が……ですか」

 村長は悲痛な面持ちで頷く。

 

 「とにかく、まずは治療しないと。みんな、回復魔法を」


 私達は手分けして一人づつ回復魔法をかけてゆく。

 リイドさんとダインさんは重症な人から、ディアンと私、ルシアは噛まれて時間が経っていない、毒が回り始めた人達に、それぞれ回復魔法を使う。


 一人では何もできない私だけど、ディアンのそばでなら回復魔法が使える。

 血の気を失って虚ろな目をした男性の腕を取る。彼はゆっくり目だけを動かして私を見た。

 顔にも、首にも、腕にも、彼は噛み跡だらけだった。


 私は胸が詰まるような気がした。

 どんなに怖かくて、どんなにか苦しかったろう。


「今、回復魔法をかけますね」


 私は古語を唱えて回復魔法を放つ。白い光が彼の身を包み、黒い煙になった毒素を排出させる。ゆっくりと、彼の噛み跡が消えていく。肌に血の気が戻る頃には、瞳に光が戻ってくる。


 まだ若い、ライアンと変わらないくらいの男性は、ふうっと息をついて私の手を取った。


「ありがとう。とても楽になった」

 私は微笑んで頷くしかできない。


 彼の隣に横たえていた、年配の女性の手を取る。

 よく似ているから、男性のお母さんなのかもしれない。


 彼女の方が重症のようだ。虚ろな目は開かれたままで反応がない。

 私は祈るような気持ちで彼女の腕を取る。


 古語を唱えて魔法を放つ。

 ああ、少し時間がかかってる。

 でも……大丈夫。

 彼女の瞳にも光が戻ってくる。


 その時だった、女性を抱きかかえた男性が、小屋へ飛び込んで来た。

「娘を見てくれ。居なくなって、探してたんだ。さっき……やっと…」


 たぶん、やっと見つけた。そう言いたかったんだろう。

 男性はそのまま泣き崩れてしまった。


 彼に抱かれた若い女性は、真っ青な顔になっていて、虚ろな瞳は暗く、ピクリとも動かない。

 グッタリした様子から、呼吸すらしているのか怪しい。

 噛み跡の数が多すぎる。

 どれだけの血液を失ったんだろう。


 私達は彼女を見つめて、動けなくなってしまった。

 これは……回復魔法でなんとかなるのだろうか?

 すでに——。


 その時、リイドさんが私を呼んだ。

「リン。僕の両肩に手を当ててくれ」

 私は急いで彼の側に行き、屈んで女性の手を取るリイドさんの肩に手を置いた。


 彼が小さく古語を唱え出す。

 リイドさんの手から淡い黄緑の光が広がってゆく。


 私は両手から電気的な刺激が這い上って来るのを感じた。

 全身を痺れが走り抜けると、逆流するように私の体からリイドさんに何かが流れ込んで行くのを感じた。


 リイドさんの手を中心にした黄緑の光の上に真っ白な光が生まれた。白い光は次第に大きくなって小屋全体を包んでゆくのが分かった。


 私は流れ込んでゆく自分のエネルギーを感じて、頭の奥で目眩を起こす。


 「すごい」

 ダインさんが呟くのが聞こえた。


 私は立って居られなくなって、その場に座り込んだ。

 ディアンが駆け寄ってきて、私の肩を掴んで支えてくれる。

「リン!」


 私は大きく呼吸をして、ディアンに微笑む。

「大丈夫だよ。それより……」


 リイドさんの手の下で、運ばれてきた女性が瞬きしてるのが見えた。

 完全にではないけど、肌の色も戻ってる。

 ああ、良かった。


 ルシアが私に抱きついた。

「リンさん。すごいです。全員の回復が終わりました」

「え?」

 私が周りを見回すと、村の人達が目を瞬きながら起き上がり始めてた。


「本当だ。すごい。リイドさん、何をしたんですか?」

 私が驚いて前に座っている彼に聞くと、リイドさんは苦笑を浮かべて私を振り返り、首を振った。


「僕じゃない。僕は回復魔法を使っただけだ。それを、押し広げたのは君だよ」

 彼の目にも驚愕の色が滲んでた。



 





 













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