魔法騎士団の詰所
ここの所、私は初めに用意してもらった濃紺のワンピースばかり着ていたので、白いブラウスと黒いフレアスカートを身につけると気が引き締まる思いがした。
それにしても、今日は学園ではなく魔法騎士団の方へ行くわけで……緊張する。
ディアンにそう言ったら、少し笑った。
「分かるけどね。俺も初日は緊張したから、でも、気負わなくていいと思うよ。なんていうか、職業魔法使いの集団だから逆に楽なくらい」
「そりゃ、ディアンは魔法使いだし」
彼は目を瞬かせて、軽く首を傾いで顎に手をやった。
「そういうんじゃないんだよ。なんてのか、学園にいる人より他人に興味ないっていうか。リンが珍しいってだけで寄ってきたりはしない。いや、寄っては来ると思うし、それも好奇心なんだろうけど。ああ、上手いこと言えない」
ディアンは困ったように私を見て苦笑を浮かべた。
「まあ、行けば分かるよ」
そりゃね。行けば分かるだろうけど。
魔法騎士団の詰所というのは、お城からそう遠くない場所に建ってて、学園とは赴きが違った。
大きくはないけど、レンガ造りの重厚な建物で、歴史と風格を感じさる。
中に入るとすぐに広めのフロアーがあり、ソファーや椅子が思い思いに並べてあって、雑然としていた。
そこでは、魔法騎士の方々が待機していて、本を読んでいたり、飲み物を飲んでいたり、しまいにはソファーに転がって眠っている人もいる。
私がディアンに連れられてフロアーを通っても、チラッと目を上げるくらいで、別段の興味は無さそう。すぐに自分のしていた事に戻った。
なるほど。ディアンの言う通りだ。
これが学生とは異なるプロの魔法使いの方々かぁ。
それにしても、魔法騎士団の人数は少ないように思える。総勢でも十五人くらいだろうか。
ディアンに聞いたら、何でもないように答える。
「ああ、それはね。ガーディアンを持てる魔法使いが少ないから」
私だけではなく、そもそも、召喚魔法を成功させられる魔法使いは限られているのだそうだ。
ガーディアンがいないと、魔法騎士にはなれない。
シルビアさんは召喚魔法が卒業試験だと言ったけれど、それは魔法騎士を目指すという前提にたてば、なのだそうだ。
まあ、彼女は魔法騎士団の団長だしね。
「別に騎士にならなくても、学園は卒業できるよ。それぞれ、得意な魔法を使って就職するだけ。たいがいは医者や看護師になる。植物や動物の管理者として働く人も多いかな。マイケルも、医者になるって言ってたし」
「………なるほど」
まあ、私の場合、魔法はディアンが側にいる事が前提だから、一人で職業魔法使いには成れないんだよね。少し残念だけど。
フロアーを突っ切って、中央扉を開くと団長室になっている。要するにシルビアさんの部屋。
「おはよう、リン。ディアン」
三日ぶりのシルビアさんは、相変わらずの美貌で笑ってくれた。
すでに、リイドさんがソファーに座っていて、私達に微笑んでくれる。
「おはようございます」
「早速だけど、リン。紹介するよ。知っているだろうけれどね。彼は、リイド・アイアン。アイアン殿の弟さんで、魔法騎士団団長補佐長。まあ、顧問のようなものだ。今日は彼の話から始めよう。二人とも、座ってくれ」
シルビアさんがベルを鳴らすと、柔和なグレイさんがお茶を持って来てくれた。
リイドさんは、量の多いくせっ毛を掻き上げて、ライアンによく似た笑みを浮かべる。要するに甘い笑顔なんだけど。この笑みは少し心臓に悪いなぁ。
「リンさんが召喚された時、学園長も兄も前例がないと言ったそうだね。けれど、前例はあるんだ」
私は思わず身を乗り出していた。
「僕のライフワークは、各地の魔法使いに関する伝承を集めて歩くことなんだ。その中には、古い言い伝えや、民話の形で様々な情報が残されていたりする」
彼の話では、公式な文書ではないけれど、私と同じように召喚魔法で呼び出された人の話も残っているそうだ。
「古い話が多いからね。分からないことも沢山あるんだけど、君とは肌の色や、目や髪の色も異なっていたり、性別も違っていたりしたな」
私は大きく頷く。
日本人だけが呼び出されたわけではないんだね。
「この話は昨日、ディアンにもしたんだが………呼び出された人間が元の世界に帰された記録はない」
私が目を瞬かせると、ディアンが済まなさそうに目を伏せた。
息を大きく吸い込む。
そう。
覚悟はしてたものね。
私は大きく頷いた。
リイドさんは目で頷いて、微笑んでくれた。
「そして、伝承の中には一人で魔法を使い、ガーディアンを持った召喚者も出てくるんだ。だからね、君が召喚魔法を使えないと決めつける事はできないし、ディアンを介さずには魔法を使えないと決めることもできない」
私は、また目を瞬かせてしまった。
「ただ、出来なかった例もあるようだ。これは僕の見解だが、君がこの世界で暮らして、この世界と親和性を高めていくうちに、精霊達と独自にコンタクトが取れるようになるんじゃないかな。シルビアにも、急がないよう進言したよ」
リイドさんが私を静かな目で見つめた。
「君が魔法騎士になりたいかどうかも分からないしね」
私は、ただ黙り込んでいるしか出来なかった。
だって、そういう風な視点で考えた事はなかったから。
私はディアンのそばで魔法を使うんだとしか……。
リイドさんが指を立てた。
「もう一つ。ディアン、済まないが私の部屋に行って、机の上の本を取って来てくれないか?」
ディアンが頷いて部屋を出て行くと、リイドさんは私を見つめた。
「リン。魔法を使ってごらん? そうだな、光魔法がいいかな」
私は戸惑いながら、両手で空間を包んで古語を唱える。
眩しいライトを思いだしながら。
すると………。
私の手の中で光が生まれて、眩しく発光した。
本を持って戻ってきたディアンが、扉を開けたまま固まっている。
リイドさんが甘い笑顔で私を見つめてた。
「やっぱり、そうか。君はアイアン家の血筋に反応しているんだ。僕が側にいても魔法が使える」




