デザートはプリン
その夜の夕食にはリイドさんも一緒だった。
ほんと、なんなの、アイアン家の美形率の高さ。
イケメンが四人も揃うと壮観だよね。
年齢もお好み次第だもんね。これで全員独身とか、あり得ない。
もう、目がチカチカしてくる。
ララさんも張り切ったらしくて、夕食はとても豪華だ。
詰め物をされたチキン、ハーブがふんだんに使われたサラダ。
コンソメ味のスープ。煮こごりのような前菜に、色目も綺麗なフルーツ。
ううん。
見てるだけでお腹が一杯になってくるなぁ。
アイアンさんがリイドさんに話しかけてる。
「で、お前、今度はどのくらい居られるんだ?」
「さあ。僕にもハッキリとは」
「戻る前はどこにいたんだ?」
「西の方です」
「体の調子は良さそうだが」
「そうですね」
なんだろう。
この、思春期の息子と親父みたいに一方通行な会話。
ディアンが叔父さんに言う。
「すぐ魔法騎士団に戻るの? 本小屋に寄っていかない?」
「そうだね。久しぶりだし、少し寄って行こうかな」
嬉しそうに笑うディアン。それだけで少し場が和むわね。
ライアンは我関せずと食事を続けてるし。
ここの家族関係っていうのも、不思議なものがあるな。
まあ、私だって家に居た頃は、ほとんど話さなかったと思うし。
家族って言ったって、共通の話題が多いわけじゃないけど。
仲が悪いわけじゃなさそうなのに、微妙に距離がある感じがする。
まあ、男性同士だからって、あるのかもしれないけど。
アイアンさんが、私を見て目を瞬く。
「リン。あんまり食が進まないのかい?」
「え、いえ。ご馳走なんで、見てるだけでお腹が膨れてきたと言いますか」
ディアンが笑う。
「大丈夫だよ父さん。今日のデザートはプティングだって、ララが言ってた。リンは、ほっといても食べるよ」
私の表情が変わったんだろうな。
アイアンさんが頰を緩める。
「リンはプティングが好きなのかい?」
ディアンが面白そうに私を見た。
「バケツで食べたいくらい好きなんだってさ」
「……ディアン」
私が横目でディアンを睨むと。
無言で食事をしてたライアンが喉の奥でククッと笑う。
アイアンさんが嬉しそうに私を見た。
ああ、また。娘を愛でる視線になってる。
「そう。デザートのために控えてるんならいいんだ。好きだっていうなら、たくさん食べなさい」
「……ありがとうございます」
食事の最後にプティングが出されると、男四人が私をじっと見てた。
「あの……食べ難いんですけど?」
「いいから食べなよ、リン。好物なんでしょ」
ディアンに言われて、居心地悪くスープンですくって口に入れる。
入れた途端にふんわり香るプリンの匂い。
滑らかな舌触り。
広がる優しい甘さと、卵とミルクのこく。
うっ。美味しい。
ララさん凄い。
学食のよりバニラ感が強いみたい。
食感も固すぎず、柔らかすぎず。
この、下に隠れてるカラメルソースも絶妙に甘苦で。
ああ、いくらでも食べられそう。
思わず視線を忘れてパクパク食べてると、ライアンが吹き出して笑った。
ディアンが満足そうに私を見てる。
アイアンさんが緩い目をして、自分のプティングを私に差し出した。
「これも食べなさい」
「え、あの」
ライアンも笑いながら自分のプティングを差し出す。
「これも食えよ」
「え? そ、そんなには」
リイドさんが静かな声で……。
「僕のも食べないか?」
「は、はい?」
なんか、私。愛玩動物みたいになってない?
ペットにおやつをやりすぎちゃダメなんだけどなあ。
でも、完食した。
お陰でお腹はプリン腹よ。もう、満腹だわ。
食事が終わると、リイドさんはディアンに声をかける。
「兄さんと少し話があるから、その後で小屋へ行くよ」
ディアンが嬉しそうに頷く。
本当に叔父さんが好きなんだな。
アイアンさんとリイドさんが連れ立って食堂を出て行く。
ライアンも立ち上がって食堂を出たので、私も立ち上がって出て行こうとしたら、ディアンが腕を掴んだ。
「リンも小屋へ来ないか? 叔父さんの話は面白いよ?」
私は微笑んで首を振る。
「久しぶりなんでしょう? 独り占めするといいよ」
彼はふっと目線を下げて私の手を離す。
「本当に怒ってるわけじゃないんだよな?」
なんで、そんなに不安そうにするのよ。
私は思わず手を伸ばして彼の髪をクシャクシャと掻き混ぜた。
「怒ってないって言ってるじゃない? 大丈夫」
ディアンはホウッと息をつく。
「ならいいんだ。おやすみ」
彼は少し残念そうに笑って食堂を出て言った。
食卓を片付けにララさんが入ってくる。
「あら、まだいらしたんですか?」
「ララさん。プティング、すごく美味しかった!」
彼女は嬉しそうに笑って私を抱きしめた。
「あのプティングは私の自慢なんですよ。美味しかったなら良かったわ」
食堂を出ると、扉の横でライアンが腕を組んで壁にもたれてた。
甘い目でチラッと私を見た。
私も扉を閉めてライアンを横目で見上げる。
……この人、まだ私が落ち込んでるかと思って、心配してるんだよね。
腕を伸ばしてライアンの頰を引っ張った。
彼は少しギョッとしたように、自分の頰を抑えて私を見る。
「ほんとだ。ライアンの頰はあんまり伸びないね」
私がそう言って笑ったら、彼も喉の奥で小さく笑った。
それから息をついて、私がディアンにしたように、手を伸ばして髪を掻き回す。
「無理はすんなよ」
彼は踵を返して自室へ歩き出す。
「おやすみ、ライアン」
私の声に足を止めて振り返ると、とても甘く笑った。
「おやすみ」
なんだろうな。
胸がまた騒つく。
私は自分の胸に手を当てて見る。
緊張してるのかもしれない。
大丈夫。明日はシルビアさんだって、いてくれるんだから。
そう自分に言い聞かせた。




