すいぞくかん
今日は中間テストの成績が返ってきた。
成績は下の上。付属の高校に上がれないということはなんとか回避できそうだが、自分より勉強できないやつは高校に上がれない、とどのつまり高校に上がれば僕はビリゾーン決定。
あーあ、テスト期間中に新作ゲーム買ってくるんじゃなかった。テスト期間は早く帰ってこれるのをいいことに、遊んでばかりいた自分を呪う。
はぁ…
帰ったらお父さんになに言われるんだろ…。
お母さんはまた心配そうな顔するのかな。
お兄ちゃんは…。
僕の足は自然と、いつもの乗り換え駅と違う駅で降り、沿岸を走る線へと乗り換えていた。
「うわぁーみてみてー、これさーシュモクザメでしょー?」
大きなアクリルの水槽の前で、僕の隣に立っている小さな男の子が、高い声を張り上げて興奮している。
「うん、あと、あれはエイだね。」
小さな男の子の逆隣、つまり僕の2つ隣で水槽を見ていた、彼より少し年上そうな男の子が、答える。
「お兄ちゃん、おさかなきれいだねぇ。」
幼い二人の男の子は手をつないで仲良く水槽を眺めていた。
(「お兄ちゃんきてきてー!あれなにー?」
「コウくんあぶない、はしるな。手つなご。」
小さな僕が走り回ってはしゃぐのを、お兄ちゃんが追いかけている。)
ふぅ…
一瞬、小さな僕とお兄ちゃんが見えた…。
懐かしいな…まだ声変わりする前のお兄ちゃんの声でコウくんって名前呼ばれるの。
僕は今、公立の水族館に来ている。悲しくなったり、辛いとき、時々ここに一人で遊びに来る。昔家族でよく来ていたから馴染み深いのもあるし、なんとなくただ、ここにいると落ち着くのもある。
僕は、サメやエイの水槽を後にして、ゆっくりと歩き出した。
半日で学校が終わった土曜日の午後。
水族館は当然、家族連れやデート客で賑わっている。
混んでいる水槽はすべて飛ばしながら、青い空間をずんずん歩いて行く。
こうしたからってなんにも変わんないさ。わかってるよ。でも今はこうしていたい。
奥のほうの人気のあまりない水槽の前のベンチに腰かけると、僕は音楽プレイヤーを鞄から出した。
選曲は、夢の中で一番最初にあの女の子に会った時にも聴いていた、大好きなガールズバンドの最新アルバム。
―今君が見ている目標が幻だったとしても、歩いて行こう
今の向こうの君のために―
…。
…目標なんて遠すぎて、見えないよ。
案の定、親にはこってりとしぼられた。
そりゃそうだ。頑張らなかった僕が悪いんだから。
部屋に帰ると、お兄ちゃんは先に二段ベッドの上の段に転がっていた。
「おまえもっと勉強しろよ。後で苦労するぞ。俺だっておまえみたいにゲームとかするけど、テストはちゃんと順位とってるだろ?」
お兄ちゃんにそう言われると、本当に悔しい。
僕は何も返事をせずに、ベッドに倒れ込んだ。まくらにぎゅっと顔を押し付ける。
泣きたかった。
でも、ここで泣いたらお兄ちゃんにばれるから泣かなかった。
そして、そのまま、寝た。




