未来から過去へ 2
前話からの続きです。
「お前はちょっと欠席が多いな。まだ1年生の10月なのに5回も欠席してる。」
「はぁ…。」
ここ最近、そういう自覚はある。朝、頭がよく痛くなる、熱を測るといつもそれなりの熱が出てて学校に行けるほどの元気がでない。…夢の中までそんな気にしてることでてこないでよ…。
いや、これは私の夢の中ってよりはあの男の子の夢の中に入っちゃったんだから、そんな配慮ないよな…。
私はきっとひどく落ち込んだ顔をしていたのであろう。
「…学校…大丈夫?無理してないか…?」
うつむいてしまった私に彼は優しく話かける。あの男の子が、彼の影の中に見える…。
つらい。つらい
どうしてこんなに辛い気持ちが胸の中に閉じこまってるのかな。
中学入ってからずっと、私をいじめる人の存在?そりゃさんざんなことたくさんされたからな、辛いがな。
でも、別に他人に何されたって辛いけど我慢できる。多分本当に苦しいのは、孤独と見えない未来。霧の中のように先は見えず、誰の気配も感じない。過去からも、未来からも切り離された世界が現在。分かってる。心にとって一番安全な夢の中に逃げて、ずっと自分と向き合った来たつもりだったけど、それすら逃避なんだね。
視界がグニャリとにじんで歪み出した。
でも、一度泣き出してしまうと、もう詰まってしまう言葉なんてなかった。本当は歳下だと思われるあの男の子の前で泣いてしまうのは不本意ではあるけど…。今の私は、この前の夢のあの男の子みたいに、さびしくて、悔しい顔してるんだろうな。…あの男の子のことを、もっと聞いてみたいな。
「つらいです。…せんせ…いは、どう…ひっく…だったですか?わたしぐらいのとき…。」
へ?彼は驚いて目を丸くしたが、私が冗談で言ったわけではないことをすぐに悟ったらしい。なにしてたかなぁー…と一瞬とぼけたあと、ぼそぼそと話始めた。
「僕は小さな時からいつも兄を追いかけていた。兄は2つ上だったが、兄が早生まれなこともあり小さいときは年子な感じだった。」
私は黙ってきいていたが、彼がなぜ自分の話ではなく兄の話から始めたかは少し違和感があった…程なくしてその理由は分かったが。
「兄は本当によくできる子だった。成績優秀で優しく、運動も人並み以上だった…そして、甘えるのも上手だった。…つまり要は、すごく親に注目された。もちろん僕のことも親はすごく可愛がってくれたが、僕はいつもなんとなく不満だった。そして無意識に、いつの間にか、兄が僕の目標だった。」
彼の目は青い窓の外をみていた。夢の中の午前10時の空は、澄んで、晴れていた。
遠くから体育館のホイッスルの音が聞こえて、その音を背景に座る彼は見かけはちがえど、中学生の、あの男の子そのものだった。
私はなんとなく、お兄さんの話から、あの人の姿を窓の外に描いていた。わたしの知っている頃のあの人もそんな感じだったから。
「中学生になった僕は、兄が入った中学と同じか、いや、より難しいかの東京の私立中高一貫に入った。僕はやっと兄に追い付いた、いや、勝ったと有頂天になった。都内でもそれなりに有名なその学校は、いわゆる優等生の集まりだった。学校は楽しかったが、着々と実績を残して行く兄に対して僕はというと…散々なものだった。うまくなるのはゲームばかり。担任からは目をつけられ、親からも成績が出るたびに叱責を受けた。」
いつか夢に見たあの男の子の顔を思い出す。悔しそうな顔。きっとこんなことを思い詰めていたんだね。
「もう投げやりになっちゃって、勉強も部活もほったらかしにするからますます事態は悪循環。そのくせ変に真面目だから罪悪感に苛まさせて、気分は最悪。」
先生、てへぺろって感じの顔をしてるけど、それも本当は空元気でしょ?
今、この夢をみているあの男の子は、そんなにきっと元気じゃない。
「それで…そこからどうやって先生になったのですか?」
それが、気になる。その話にはきっと彼が今の悔しさや葛藤から抜け出すヒントがあるはずだから。
先生は、ふふっと笑った。曇り空の中に差す光みたいな笑い方。幸せそう。
「それはね…」
キーンコーンカーンコーン♪
その時、授業終了のチャイムが鳴ってしまった。この締め切った狭い資料室にも天井にスピーカーがあるせいで、すごくうるさい。思わず、私と先生は、耳をふさいだ。
コーンカーンキーンコーン♪
ばしーん!
痛ったぁ!
叩かれてじわんじわんする痛みに、頭上をにらみつけると、担任のおじさん数学先生が出席簿片手に、私を怖い目で見降ろしていた。お兄さん先生…否、あの男の子ではない…。
”寺井、いつまで寝てるんだ。HR始めるぞ。”
…どうやら私は学校で居眠りをしていたらしい…。
未来から過去へ、は2で完結です。
もちろん、物語自体は次話に続きます!




