罠・SOS
今回はさらっとしたもう一つの信実を書きました。
「これで一段落?」
「そうかも?」
僕はアリスに聞かれて素直に答えた。
近くには、今回の実行犯が青色の結晶に拘束されている。
「鏡。俺のいない合間に、街の権限を習得したそうだな。その意味を理解しているのか?」
「はい」
街の権利習得。
説明は受けた。
権利者になると、その街に紐づけられている人全員に影響を及ぼす決定を実行できる。
このサーバー自体はまだ承認していないが、本来なら権利者になればサーバーに停止命令を実行可能だ。
「権利者が死んだ場合はどうなるかも?」
「それは簡単にしか。亡くなった場合は、その人に手を掛けた人に街の全権を譲渡される事くらいしか」
「それだけか。アリス頼む」
あれ? まだ何か大きなことが?
「全権、いわゆる街の管理権の譲渡と言われているけど、それは悪まで反感を呼ばない為。正確には、街の権利及びユーザーの権限の強制執行権の譲渡、と言う項目になるわ」
え?
ユーザーの権限?
「それって、例えば、ほかの所に登録とかもできるんだよね?」
「できるなら、何で今も奴隷都市が存在してると思うの?」
「それは」
言葉に詰まった。
奴隷都市と言うのは何となく聞いたことがある。
この世界に初めて来た人を、連れ去ったり、だまして連れていき強制的に働せたりしている場所だ。
非人道的な事も行っているって聞いたことが。
「でも、ほかの都市に関しては何もできないんじゃない? だって、さっきの言い方だと、簡単には移動できないって事だよね? それに、サーバーとの連携したユーザーに影響を与えるのであって、連れ去った人は違う街の人なんだから」
「はぁ」
アリスは困った顔でため息をついた。
「確かに、他の街への強制移動は【プレイヤー】では無理よ。だけど、そのプレイヤーを管理して、ユーザーとして上位権利を持つ人は、街の登録自体を書き換えることが出来るの。それは、今回の様に、このメインサーバーから行うことが出来て、この人みたいに別の街から来たのかを識別してるから影響は起こらない。でも、これが別サーバーから情報の移転として申請された場合は、ユーザーとして扱われていた人は、簡単にその街のユーザーにさせられるの」
それって、つまり、街の権利者が居ればどこでも他人の所属を書き換えられるという事にならない?
それと少し難しいけど、つまり、ユーザー本人が移籍してきたって認識させれば、外部からでも書き換えが可能で、それを行えるのは権利者が居る所という事?
「でも、それが不可能な場合があるわ。それが、登録場所の管理者不在時。本来は管理者が居る場合は守られると考えるでしょうが、管理者がいる事によって、そこの人々はまとめてユーザーになる訳。それが世界に登録されるのよ。で守る方法は二つ。一つ、権利者に全権をゆだねている場合。二つ、そのサーバーの管理者が七光鉱石であり、成人している事」
「じゃあ、後半の全権て」
そう。
この街の住人は、今守られていない。
それは、ユーザーとして、権利者が管理する対象になったと言う事だそうだ。
守るためには全権譲渡。
この全権譲渡って言うのは多分生き死にも関わっていき、しかも普通に生活するという事も含まれる。
「じゃあ、奴隷都市が失くらないのって」
「そうよ。今回みたいなので精神的に壊して、非ユーザーを自分の意志で移動させるか、他の権利者にばれない様に強制移行を権利者権限で移した後、全権譲渡をしているから」
「その権利に関して、全権譲渡以外にあるの?」
「ある。それは俺たちの様な七光鉱石者やパートナー、あと権利者による個別放棄。この個別放棄に関してだけ言えば非ユーザーと同じ効力を得る。代わりに街の保護下から外れるため、所属だけが残ると言うリスクがある。だが、メリットもあり、それが意志によって移動が可能になることだ」
じゃあ、僕一人の判断がこの街の人全てに。
「はは。君たちに迷惑をかけたから、僕から一ついいかい?」
拘束されている誰だか忘れた人に声を掛けられた。
「西岡さん何?」
アリスが冷たく言い放つ。
「君たちの調査の内容は大体把握した。その中で言うんだけど、まだまだ知らないことがあるようだから」
「だから、それは何」
ちょっと不機嫌な感じで問いかけてる。
そこまで言わなくても。
「僕が知っているのは、街は最後まで街なんだ。彼も言っていたんだ。この世界のシステムは、街と言う概念と、国と言う概念があると。さっきから話している内容は、国まで行かなかったときの話だ。国のシステムに関して僕は知らない。だけど、街と言う概念は、しっているんだ」
「それは話せる事か?」
「こうなったら、死ぬかもしれないからね。家族に会いたかった。それだけが心残りだけど、娘の今後、こんなひどい事をしたのが父親だって、重荷を背負わせたくない。都合がいい事を言ってるけどね。最後は、きちんとしたいんだ。そこの人のように」
「話してくれるなら、家族に合わせよう」
「ほんとか!?」
「約束する」
西岡さんは沈黙して、嗚咽がそこに響いた。
その言葉がどれだけ、彼の心を助けたのだろうか。
すると、頭の中に近づいてくる反応があった。
大きいのは大人だろう。
小さいのは?
「すまない。じゃあ話し……」
そこで止まった。
「っが!? なんだ? これ」
西岡さんの身体が急に黒くなっていく。
「っち!」
蒼い粒子が舞ったが、直ぐに黒く染まる。
「たすけ、て」
黒い粒子が全身を包み込み終わると、声が聞こえてきた。
「やぁやぁ、君たちは初めまして。そして紅玉の継承者は久ぶり。俺を覚えてるだろ?」
そのどす黒く気に障る、冷たい話し方。
「お前は!」
初めてここに来た時に、研究者を殺した!
「ご名答。そこにいる青のやつはまだ覚醒してないとは予想外。残念! まぁ、こっちとしてはラッキーなんだけどな」
「何を言って」
ヨシュアさんの方を見ると、焦っている感じだった。
そして、アリスさんの方をみると顔が白くなってる。
どうして?
僕には何も感じない。
怒りは確かにあるが、何故かそれ以外感じないんだ。
「君たちは、あのプログラムが、このゴミを止めればいいと考えてたようだが、残念! 俺が、俺自身がプログラムでした! じゃあ行こう!」
その途端、先よりも激しい感覚が全身を襲った。
感覚が、消えて。
「お父さん!」
子供の声?
何でここに?
後ろを見ると、あの時助けた子供と、隣には女性が倒れていた。
この子が西岡さんの。
「だめだ、来ちゃ」
「おとうさん!」
動け。このままじゃまた。
「欲望にのまれてしまえ」
「う、ああああああああ」
叫んだ。
腕をふって、右手に刀のようなものを作り出す。
そして、黒い粒子に切りかかる。
「無駄無駄、今の君には無理だよ。ああ、悲しい悲しい、力がないのが悲しい。人をなぶるのが楽しすぎて、無力なごみを見てるだけで脳がはちきれそうだな!!!」
黒い粒子が僕の身体を薙ぎ払う。
吹き飛ばされて、見えない壁にぶつかる。
「覚醒してないゴミと、リンクしてないメス。ああ、ああ、愉快! 愉快じゃねーか! あの目障りなラピスのゴミの相方が居れば勝てたのにな!」
「あら、それって私の事かしら?」
この声何処かで?
「な?!」
「ごきげんよう? 負の位置に行った、見にくい人間」
身体を起こすとそこには、あの洞窟で出会った女の子が。
「リリィちゃん?」
「こんにちは、由紀! でも今の私は半分なの」
そのまま歩いてきて、僕を抱える。
「ごめんね、お姉ちゃん。詳しい事は話すけど、今はただ」
顔が近づいてきて、次の瞬間、柔らかい感触が口に。
その後、口の中に柔らかいものが入ってきて、胸の辺りに優しく触る手の感触。
「んん」
「はぁはぁ、ご馳走様。やっぱりお姉ちゃん、胸大きいね」
「な!?」
顔が赤くなっていくのを感じて飛び上がった。
あれ? 身体がかるい?
「もう大丈夫ね。私はこれしかできない。でも、必ず助けに来て。私たちを」
そして消えるリリィちゃん。
「痛いよ!」
その声を聴いた時に、現状を知った。
「鏡! これを使え! 今の君には必要なはずだ!」
床を滑って、碧い宝石が付いた剣が来る。
この剣は!
あの内戦の時に送還した。
「ありがとうございます!」
この剣の使い方は分からないが、今の僕には、この剣の別の性能を引き出せると無意識に理解している。
「エル。僕の断罪の覚醒って」
『それでいい。その剣で思いのままに』
「ありがとう」
剣を取り、刃をなぞる。
「まずい」
その動作で、危険を察知した黒い粒子は、僕に攻撃をしようと触手を飛ばしてくる。
心の中で、彼の事、子供の事を考えた。
悪意に呑まれながら、それでも最後は子供の事を考えてた。
なら僕は。
一本目の触手を薙ぎ払う。
紅い粒子が弾けた。
「リアクト」
ヨシュアさんの剣から紅い粒子が舞う。
宝石は、赤と青の渦が巻き、淡く光っている。
「返してもらうよ」
走り出す。
黒い粒子が向かってくる。
右に躱す。
走る。
左手に粒子を集めて、触手を弾く。
更に踏み込む。
「馬鹿が!」
死角から何かが迫っているのを感じるが不思議と不安がなかった。
赤と、黄色、オレンジの粒子が横を通過した。
「だから! 女なめるんじゃねーよ!」
ありがとう。
「スキル、緋炎、一の太刀」
剣を振り上げる。
紅い粒子が一気に膨張して、刀身にまとわりつく。
「断罪!」
振り下ろす。
黒い粒子と紅い粒子が交差し、そして。
白く染まった。
♢ ♢ ♢
どれ位の時間が経ったのだろうか?
意識ははっきりしているけど、どうもぼんやりとしている。
「目が覚めた?」
その声は、雄二さんの妹の声。
「いいの。多分、力の全てを出しちゃったから、セーフティが働いただけだから」
子供の声なのに、何かしっかりしている印象を受ける話し方だ。
最近の女の子は成長が早いって言うけど、実感したのは初めてだ。
「えへへ。私の覚醒時の能力で強制的に感覚を遮断したから、私のも入っちゃった。ごめんね?」
僕はうなずこうとしたけど、うまく動かない。
「許してくれるんだね。ありがとう」
心で思った事が、伝わるみたいだ。
「あの時、後で話すねって言ったから。まさか意識が飛んで、この空間、ええっと、共鳴空間? 分からないけど、この空間で会うなんて、考えてなかったの」
この空間って、エメラルドの少女と会ったあの空間と同じ?
「うーん、七光鉱石のとは違うかな。彼女たちのは、システムの外って聞いたし。ここは、本来は七光鉱石とそのパートナーが共鳴するとかなんとか?」
よくわからないんだね。
「うん」
じゃあ、七光鉱石とそのパートナーとの繋がりは、意識的につながるようなモノで、七光鉱石同士だと、意識だけじゃなく身体ごと共鳴するって感じなのかな?
「解んないけど、由紀お姉ちゃんのパートナーさんなら知ってると思う。と、話している場合じゃなかった! ここもそんなに長く要れないの。私と由紀お姉ちゃんはパートナーじゃないから、イレギュラーでいるみたいだから。だから、出来れば反応なしで聞いといてほしいの」
了解。
「ありがとう」
今から話されるのは、たぶんこれから起こることに対して、とても重要な事だと感じた。
「七光鉱石は覚醒すると、守護者みたいなものが付くの。由紀お姉ちゃんは多分もう声も聞こえてると思う。その守護者みたいな、ちょっと分かりにくくなるから、守護者にするけど、それは正位置の覚醒を遂げた所有者しか見えないの」
守護者。
エルの事だよね。
彼女は確か、デルとの戦いで輪郭を見せて、そして内乱の時に姿をしっかりと見た。
その後から、特殊な効果を持つ攻撃を出せるようになったけど、それも自分の意志じゃない。条件に該当した時しか無理だった。
「その守護者は各々が特別な権限を持っていて、この世界の初めの七人って言われてる。その七人は世界の秩序を守りながら、人との関りを強く望んだんだって。そしてそのパートナーになる人は逆位置の覚醒を起こすの。正位置は全員天使とか、転生者って言われてるけど、逆位置は贖罪や悪魔って言われてる」
それって確か。
「この世界で、正位置で覚醒しているのは、二人だけ。そして、その覚醒は同時に反対の力も抱擁する事になってるの。そして、オニキスの人は黒い部分を飲み込んだ。サファイアの人は白い方を受け入れた。結果的に双方が影響しあって大きくなっていった。それが、七光鉱石の人に影響を与えたの。由紀お姉ちゃんは怒りや憎しみをそのまま発現させてしまった。パートナーが居なかったから」
え? それって。
僕の中にはクリス博士との戦いで、黒い感情が芽生えたはずだった。
そもそも、僕自身現実世界での悲しみや自覚は無かったけど、憎しみも確かにあった訳だから、それが、この世界が原因でと言われても納得は出来ない。
「由紀お姉ちゃんの怒りは、勇敢と表裏一体な感情なの。それは簡単に暴走をするみたい。そんな中で、パートナーが居ればそれを肩代わりすることが出来る。私は雄二お兄ちゃんのパートナーで覚醒してる。こんな歳だけど覚醒時にびっくりした。色欲の覚醒だったから。パートナーの覚醒は、この世界のプレイヤー全員に影響を与える事が可能なの」
色欲? それって宗教だと大罪の一つだよね?
「七光鉱石の覚醒は、正位置、逆位置含めてシステムに作用するの。そして私たちはプレイヤーに作用する。正位置の覚醒の場合は、私たちは逆位置の力を支配でき、逆位置の場合は正位置の力を支配できる。そして、ここだけ覚えといてね。私達七光鉱石のパートナーになる人は、現実世界で七光鉱石の力になれる、隣でいるべき存在がなることが出来るの。どんなに顔を知らなくても、この世界で会えれば、本人たちは望まなくても勝手に、本来はあり得ない因子を覚醒させられる。私が現実世界で、悪魔の感覚を発現させたように」
リリィちゃん?
「そして、今は奴隷都市のプログラムに拘束されてる。だから、助けて。由紀お姉ちゃん。お兄ちゃんも覚醒しかけてたけど、拘束されちゃった。だからお願い」
だんだんと声が聞き取りにくくなってきて、最後の言葉だけ何言ってたのか聞こえなかった。
そして、僕の意識は真っ暗になった。
のんびり書いてますが、楽しんでもらえたら嬉しいです。
長々書くよりもざっと。
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