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第3話

小さな炎の玉が走り抜ける。

山間部を駆け抜けたまるで人魂のような小さな炎の玉は、

通った後を炎で焦がしていく。

まるで山林火災の前兆のように。

だが火力が小さいので、地面にあった草を焦がす程度であった。


巨大な山嶺の森林を駆け抜ける光の玉。

山奥の村落の人たちは、その目撃情報で恐れ慄く。

「人魂が走っている。」

「予期せぬ事の前兆だ。」

「きっと龍神様が目を覚ますんじゃ。」


そうでなくても、山奥の村落では情報が疎い。

まして、逃亡者2号体が引き起こしたブラックアウト状態で

新しい情報が入りにくい。

村人たちが目撃し、恐れた人魂のような光の玉。

それは休火山状態にある山の火口へと直走っていく。

まるで火山の噴火エネルギーの脈をなぞるように。


全国的の災害はまだ続いている。

通信障害や発電施設など『目に見えない』インフラが崩壊状態だ。

自身が所属する自衛隊基地に戻ったサクライ・アキは悩んでいた。

自分の直属部隊である災害対策本部も混乱している。

全国的に起きた災害により、多くの国民が基地へと避難している。

サクライ・アキの上司や同僚が今どこにいて何をしているのか不明だ。

テレビもネットも使えない。

便利なインフラが破壊されるとこうなるのか。


サクライ・アキは悩んでいた。

どうする?

この後?

生ける屍である『父親』の身体に戻った『巨大ヒトガタ』はサクライ・アキに告げる。

「行かなくては。逃亡者3号体が活動を続けている。この星の火山帯から

エネルギーを集めて強靭な身体を実体化させている。」

広報車の中で控えている父親がそう告げる。


サクライ・アキは驚いて問う。

「そんなことがわかるの? それに逃亡者とか言うあんな化け物、まだいるの?」

父親は淡々と答える。

「わかる。逃亡者3号体は最後の標的、最後で凶悪な逃亡者だ。

私は早く、やつの処刑実行を行わなけれなならない。

そうしなければ、この星の災害は終わることがない。」

サクライ・アキは声が出なかった。

「連れて行ってくれ。私をその場所へ。」


どうする?

これから起こるであろうことは、自身が体験してきた。

この『父親』が言うことは本当であろう。

自分は何をすべきか?

自分はどうすべきか?

サクライ・アキは自身が体験した災害の出来事が脳裏を走る。

失った家族の笑顔が走る。

父、母、そして弟。

サクライ・アキは、『父親』の横で犬を抱きスヤスヤ眠る少年の表情を見つめる。


どうする?

この子を連れていくか?

それともここに、自衛隊基地に置いていくか?

何も危険とわかっている場所へ連れていく必要はない。

だが基地は混乱している。

ここに置いてきて、後になって父親を探しに基地の外に出たら元も子もない。

それに『巨大透明トカゲ』の逃亡者2号体の時、犬の鳴き声に反応した。

犬は敵の存在に気が付きやすいのかもしれない。

子供や犬を利用するのは気が引ける。

だが今は、そんなことは言ってられない。


サクライ・アキは決心した。

「わかったわ。ちょっと待ってて。」

サクライ・アキは基地に戻り、当座の水や食料、ガソリン、

そして武器となるバズーカを自分たちが乗る広報車に詰め込んだ。

本当はちょっとまずい行為なのだが、そんなこと言ってられない。


————————————————————-


地震だ。

車に乗っていても道路の揺れを感じる。

これが自衛隊仕様の車だからまだ良かった。

無骨だ。

馬力もある。

ひょっとすると今自分は、業務上横領なのか?

サクライ・アキはそうも思ったが細かいことは気にしないことにした。

自身が走る道路は地震の影響であちこちにひび割れがある。

高速道路や自動車専用道路も一部結構渋滞が発生している。


「こっちだ。」

サクライ・アキは父親の指示の元、道を走る。

「あの山だ。」

一般道路を進む。

ここから先は舗装しているかどうかはわからない。

仮に舗装してあったとしても、道路状況がどうなっているか不明だ。


少年は後ろの座席で嬉しそうに犬を抱き抱えている。

少年本人は今起きている事態を把握しているわけではない。

だが楽しそうだ。

少年の目から見れば、自分の父親と一緒の郊外への旅行。

まして助けたかった捨て犬と一緒であれば尚更であろう。

サクライ・アキはバックミラーに映る少年の姿に視線を送ったりもする。

このくらいの年齢か?

このくらいの年齢になっていたのか?

彼女は自分自身が災害で失った家族のことを思い出していた。

父。

母。

弟。

あの災害がなかったら、こんな風に家族で旅行に行っていたのかもしれない。


これから自分たちがいく方向を見る。

山だ。

本来は休火山であったはずなのに、ここ数日活火山の兆候を見せている。

今起きている地震もあの火山が原因なのだろう。

黙々と噴煙を上げる火山。

付近の地面や建物には噴煙が散り積もっている。

良く見ると、噴火した細かい火山物質が黒い雪のように宙を舞う。

ワイパーを高速で動かすも、正面が見づらくなってきている。

あの火山のどこかに、彼の言う『逃亡者3号体』が潜んでいるのだろう。

その不安を嘲笑うかのように、火山は黒い噴煙をモクモクと上げている。


舗装もされていないゴツゴツした山道を走る広報車。

ゴツい四輪駆動のSUV系の車両で助かった。

舗装された街中だけを走るわけもなく、ましてや広報車だ。

足を運んで災害地域への広報や後援も重要な任務だ。

今まさに広報車としてあるべきことをしているのかもしれない。

サクライ・アキは、そう思うことにした。


「火山が噴火しそうです。みなさん、早く避難を。」

本部と連絡が取れない。

通信網及び発電設備等インフラが機能せず、近くに避難所があるかどうかは不明だ。

だが目の前で災害が起きている。

これから『超級』の災害が起きる『兆候』はある。

とにかく『巨大ヒトガタ』である『父親』の言う『逃亡者3号体』が火山のエネルギーを

吸収利用しているのであれば、付近の住民を避難させるのは当然のことだ。

広報車で山嶺の村落部に入り、スピーカーで避難警告を行っていた

サクライ・アキたちに予想外のことが起きた。


「おまいら、龍神様の生贄になるだ。」

不意を突かれたサクライ・アキたちは車を囲まれ、降ろされ、木々に縛られてしまった。

あまりの突然なこと。

あまりに大勢の村民の行為に三人ともなす術もなく、それぞれの木々に縛られてしまった。

犬は生贄の対象外のようで、捕獲される前にどこかへ逃げおおせた。


「あなたたち、何やってるの? 何やってるかわかってるの?」

サクライ・アキは必死に村人に問いかける。

きつく縛られて縄が肌に食い込んでいる。

村長であろうやさぐれた老人が前に出て三人に告げる。

「おまいら、龍神様の生贄になるだ。」

「何言ってるの! 今のこの時代に!」

サクライ・アキの問いに村長は答える。

「おらが村はずっとずっと龍神様を崇拝してきた。これまでも、そしてこれからも。」


無茶苦茶だ。

さすがにサクライ・アキはブチ切れて周りの村長や村人に叫んで訴える。

「何やってるの? こんな時に! あなたたちバカなの?」

その問いに村長は見事な返答を返してきた。

「今まさに龍神様がお出ましになる時なのじゃ。だからこそ、生贄は必要なのじゃ。」


あかん。

いかん。

話にならん。

武器は身につけていない。

身につけていたとしても、縄でキツく縛られ身動きが取れない。

少年は木に縛られて、恐怖のあまり泣きじゃくっている。

『父親』は、そもそもその身体が弱っていることもあり、ほぼ無抵抗の状態で縛られている。


本部に連絡できない。

仮に連絡手段があったとしても、今はインフラが破壊されていて『外部』とは連絡ができない。

どうする?

どうしよう?

そう焦るサクライ・アキの不安を煽るかのように、火山由来であろう大きな地震が何度も何度も起きている。


陽が沈む。

暗くなった夜空。

暗くなった周り。

だが明るい。

本来はインフラが停止して真っ暗になるはずだが、それはない。

火山の溶岩の光が火口から雲へと照らしている。


結構キレイだ。

なんて呑気にしている場合ではない。

サクライ・アキも、父親も、少年も生贄として木に縛られている。

常に起こる火山性地震が頻繁に起きている。

これは火山が噴火して溶岩が流れ出す兆候だ。

こんなことしてる場合ではない。

早く避難しなくては。


にも関わらず、村民の彼らは村長を中心に祈っている。

「恐ろしや、恐ろしや。龍神様。この者たちを生贄として捧げます。

お怒りをおしずめください。」

村人が膝をついて祈り歌い出す。

「恐ろしや。恐ろしや。」

「お出ましにならずにお引き取りくださいませ。」


だが村人の願いは無駄であった。

これまで以上に激しい地震が起きると、轟音を立てて火山が噴火する。

まるで『龍神』が昇るがごとく。

爆裂する火山噴火の中に、確かに『龍神』の姿が確認される。

激しい火山噴火爆発音に混じって『龍神』の鳴き声が重なって響く。

「おおっ! お出ましだ!」

「龍神様だっ!」


その光景はサクライ・アキたちにも目視することができた。

「あ、本当だわ。私にもはっきりと見える。」

木に縛られたサクライ・アキの言葉に父親が答える。

「まずいな。この火山エネルギーをかなりしっかりと貯めて実体化形成している。」

父親の身体に憑依している『巨大ヒトガタ』のサポーターの警告音が響く。

「逃亡者3号体と確認。すみやかに処刑実行してください。」


龍神の形をした溶岩が、激しいくドロドロと山嶺を流れてこんで来る。

「恐ろしや、恐ろしや。」

「生贄でお怒りをお納めくださいませ。」

村人たちが龍神の形をした火山流の最先端へと歩を進める。

ゴロゴロと喉を鳴らし、頭を上げる龍神の逃亡者3号体。

村長が口を開く。

「龍神様よ! 生贄をお食べになって山へとお戻りください!」

その言葉に反応したのか、逃亡者3号体である龍神は、喉をうならし、

首を伸ばし、激しく咆哮する。

「ギャオオオーン!」

次の瞬間、眼前にまで迫る村長はじめ村人を、口から吐き出した溶岩の火炎で一気に黒焦げにする。


火山の溶岩のエネルギーを取り込んで、火龍の龍神として実体化した逃亡者3号体。

木に縛られている三人を見つけ、次の破壊目標と確認し、

喉をゴロゴロと雷のような音を立てる。

サクライ・アキが口を開く。

「ああ! なんてこと。このままじゃまずいわ! 縄の縛りがきつくて解けない!」

必死に焦るサクライ・アキの横で、静かにじっと眼前を見る父親、口を開く。

「大丈夫だ。問題ない。」

驚くサクライ・アキ。

「大丈夫って! でも、どうやって縛られている状況からあれに対抗するのよ?」

ちょっとサクライ・アキの声がうわずっていた。

「私はこの父親の身体を借りているだけだ。別に縛られていても、本来の姿を具現化できる。」

「あ、確かに。お化けの幽体離脱みたいな物?」

父親の横の木で泣きじゃくる子供の様子を見る。

「今ここで私がこの体から抜け出して実体化しても、地面に倒れることはない。」

「あ、確かに。」

父親は顔をサクライ・アキの顔を見て口を開く。

「戦ってくる。」

サクライ・アキ、縛られているのにも関わらず笑顔を浮かべる。

「行ってきて。こちらは自分で何とかするから。」


木に縛られた父親の身体から抜け出して、本来の姿を見せる巨大ヒトガタ。

それを見てサクライ・アキ。

「私は自分で何とかするわ。自衛隊員を舐めるなよ~!」

そう言って自分を縛っている縄を必死に解こうとするが微動だにしない。

「ああ~ん! きつくて無理ぽ!」


火龍と化した逃亡者3号体と対峙する巨大ヒトガタ。

「逃亡者3号体と確認。しかし本体であるコア部の位置は未確認。」

サポーターのメッセージを聞きダッシュする巨大ヒトガタ。

その姿は半透明であるのにも関わらず、走るたびに激しく地面を揺らし、物理的重量の重さを示している。


火龍と化した逃亡者3号体に体当たりする巨大ヒトガタ。

だが。

「物理直接接触、危険です。火山の溶岩を身体の構成体にしているので接触は危険です。」

サポーターの指摘通り、巨大ヒトガタの両手や接触した身体の一部が焦げている。

半透明体であるのにも関わらず、接触した部分が黒ずんで白煙をあげている。

ジャンプして脇にそれる巨大ヒトガタ。

「撃殺処刑光線の準備にはいります。エネルギー充填80%。」

オペレーターの指示とシンクロするように、巨大ヒトガタは撃殺処刑光線ハイビームの発射態勢のポーズに入る。


だが、敵の火龍と化した逃亡者3号体はそれが何を意味するか知っていた。

「グフフ。」

そう聞こえた。

それが不気味な笑い声だとすぐにわかった。

敵の火龍と化した逃亡者3号体は口元にじわじわと炎を溜めて、

顔を木に縛られている三人の方向へと向ける。

それがなにを意味するか巨大ヒトガタはすぐにわかった。

撃殺処刑光線の発射準備を一時中止して身を翻し、三人の盾となるべくその前にジャンプする。


絶妙なタイミングで木に縛られた三人の盾もなる巨大ヒトガタ。

火山溶岩をエネルギー源として逃亡者3号体の口から吐き出される火炎流は尽きることがない。

果てしなく火炎流が盾となった巨大ヒトガタの身体に浴びせ続けられる。


だが熱い。

この星のマグマを利用して構成された逃亡者3号体が口から放つ溶岩の火炎は

巨大ヒトガタの身体を蝕んでいく。

「危険です。ここで撃殺処刑光線を発射しても火炎流の力に相殺され意味がありません。

早くその場から離れてください。

すみやかに別の場所へ移って撃殺処刑光線の発射を推奨します。」


だが、できない。

彼はその場所を動くことができない。

そうしなければ、木に縛られている三人が犠牲となってしまう。

オペレーターが警告する。

「なぜ自分の身を挺してこの星の住人を庇う必要がありますか?

戦いに犠牲はつきものです。」


その状況を理解し、必死に木に縛られた縄を解こうとするサクライ・アキ。

だがだめであった。

「きつい! きついってば! 全然解けない!」


必死に盾となって耐える巨大ヒトガタ。

熱い。

まずい。

このままでは!

盾になり暑さに耐える巨大ヒトガタに助けが入った。


「ワンワン!」

それは犬であった。

村人に捕まることなく、村人が相手もせず逃げ押せていた、捨て犬であった。

犬が火炎流を放つ実体化した逃亡者3号体に向けて激しく吠える。

すると。

「?」

まるで見たこともないかわいい小動物に目を奪われるように、

火焔を吐くのを止めて犬のいる方向を見る。

逃亡者たちはこの犬に、小さくてかわいい小動物に興味があるのか?

『透明トカゲ』であった逃亡者2号体の時もそうであった。


「敵の攻撃が停止しました。撃殺処刑光線を発射するなら今です。」

オペレーターの指示に従い、身体の一部が焼けこげた『巨大ヒトガタ』は

撃殺処刑光線の発射体制に入る。

「カウントダウン再実行。エネルギー充填150%。」

オペレーターの指示に合わせ、巨大ヒトガタは目の前の目標である火龍形態の

逃亡者3号体に撃殺処刑光線=ハイビームを放つ。

強烈な撃殺処刑光線のハイビームが振り向いた火龍となった逃亡者3号体の

頭部を見事に貫き、その活動を停止させる。

『巨大ヒトガタ』が本来の形態を維持できるタイムリミットはわずか数秒であった。

約2分55秒、残り5秒で撃殺処刑光線=ハイビームを放ち、ターゲットで

ある火龍形態の逃亡者3号体の頭部を沈黙させることに成功させた。


だが、しかし。

「作戦は失敗です。火焔流を放つ逃亡者3号体の頭部は破壊しましたが、本体はまだ無事です。」

オペレーターの分析は正しかった。

頭部を黒焦げにされ破壊されてしまったが、首から下は無傷であった。

頭部の機能を失った火龍の逃亡者3号体の蛇のようなボディは溶けるように

山肌を流れる溶岩に溶け込んで逃げていった。

作戦は失敗だった。


サクライ・アキは悔やんでいた。

自身は自衛官であった。

このくらいのピンチ、切り抜けないようでどうする?

自身が失った家族。

自身が体験した悔しさ、悲しさ。

それを未然に防ぐことが彼女の目標であった。

だが彼女は何もできなかった。

自身の身体にきつく木に縛られた縄を解くことができなかった。

それくらいのこと、なぜできない。

それくらいのこと、なぜ対応できない。

悔しむ彼女の気持ちを少しだけ慰めてくれたのは、

火龍の気を逸らしピンチを救ってくれた犬が彼女のことを心配して駆け寄ってくれたことだけだった。

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