第4話
激しい火山性振動が続く。
大小の地震が止めどもなく続く。
まさに、まもなく、いつでも、あの巨大な火山の火口から巨大噴火が起きそうな勢いだ。
サクライ・アキたちは広報車の中で作戦会議をしていた。
子供はいろいろ気苦労があって寝ている。
先ほどのピンチを救った犬は尻尾を振りながら少年の腕に抱かれている。
サクライ・アキは何もできなかった自分自身を悔やんでいた。
基地から念の為持ち出したバズーカ。
本当はそんなことして大問題なのだが、とてもそんなこと言っている場合ではない。
自分が対応できるのは、このバズーカぐらい。
だが、あの火龍となった逃亡者3号体に、これだけで対抗できるとは思えなかった。
車内では『父親形態』のまま、オペレーターと状況合わせを行なっている。
「現在、逃亡者3号体は火山脈の中に潜んで、
溶岩等火山エネルギーを溜め込んでいます。
先ほどとは比べ物にならないくらいに備蓄している模様です。
現在の状況を予測するに、この火山の本格的爆発まであと30分前後の予想です。
逃亡者3号体は火山爆発のエネルギーを吸収して可能な限り最大化して実体化する計画の模様です。」
サクライ・アキもその会議に参加する。
「噴火する前に、地中で、火山脈で対応はできないの?」
その問いにオペレーターは淡々と答える。
「火山脈は流動しています。仮に逃亡者3号体のコアの正確な位置を把握した
としても、あまりにも高熱のため火山脈内での移動および攻撃は不可能です。」
オペレーターとサクライ・アキの結論は一致する。
すなわち、火口から外へと本噴火して出現した状態でないと攻撃できない。
つまりは、火山の噴火を待つしかない。
だが、皮肉なことに、それはすぐ近くに迫っていた。
およそ30分以内に火山が本噴火し、そして逃亡者3号体が出現する。
火山脈でエネルギーをマックスに溜め込んだ状態で。
悩んでいる場合ではない。
決意は決まった。
とにかく、これ以上の災害を食い止めなくてはいけない。
とにかく、どんな進化体であろうと逃亡者3号体は殲滅しなくてはいけない。
全員の決意は決まっていた。
彼らは戦いやすい、状況が見やすい、山嶺の広くてなだらかな斜面へと移動した。
敵からは丸見えの場所。
だが、同時に自分たちも敵が見やすく対応しやすい。
もはや隠れている場合ではない。
サクライ・アキと父親は、車内で寝ている少年と犬を車ごと、
草木が生い茂る境界部分に残してきた。
万が一のことがある。
彼らだけでも生き残ってほしい。
父親は自身の任務のため。
彼女は自身の信念のため。
なだらかな山嶺の裾野をゆっくりと歩いていく。
サクライ・アキは手に持つバズーカ砲を確認する。
これで相手を倒せるとは思えない。
だが、何もせず手ブラでいることの方が屈辱であった。
激しい振動が起きる。
規則的な地震性振動とは違う。
何かが来る。
とてもデカイものが来る予感がする。
サポーターが現状を告げる。
「火山の火口に向かって大型で強力な溶岩エネルギーを検知。急上昇中です。」
巨大ヒトガタが憑依している父親と
バズーカ砲を手に持つサクライ・アキに緊張感が走る。
地面を揺るがす振動は収まるどころか、どんどんと激しくなっていく。
「溶岩エネルギー上昇中。その流れの中に逃亡者3号体を確認。コアも確認。
まもなく火口に到着……。」
突如としてモニターしていたサポーターの声が止まる。
それまでブレることなく、止まることなく、淡々と正確に状況を伝えていたサポーターの声が止まる。
「どうした? 何があった?」
父親の身体から離脱して本来の姿になる準備をしていた父親が少し焦った表情で問いただす。
少し遅れてサポーターの報告が入る。
「敵、逃亡者3号体、コースを変えました。こちらの位置を、我々の位置を確認した模様です。」
サクライ・アキにはわからなかった。
それがどういう意味を持つのか?
「敵もさるモノ引っ掻くモノ」である。
本来、出現するであろう山頂の火口から噴き出して出現するものと思いきや、それは違った。
サクライ・アキや父親がそこで待ち伏せることを察知した逃亡者3号体は山肌を
激しくぶち抜いて出現した。
火山噴火が山嶺のなだらかな傾斜部分で発生したことになる。
「ギャオオオオ!」
火山溶岩性爆発音と共に火龍が出現する。
その頭部は撃殺処刑光線=ハイビームの攻撃を受けて黒焦げのままであった。
しかし、驚きはそれだけではない。
「キキキキキ!」
別の場所から同じように山肌をぶち抜いて、2体目の火龍が出現した。
こちらは『新規』の登場で攻撃を受けていないので、キレイで光る肌をしている。
驚くサクライ・アキ。
「え? こっちにも?」
それを嘲笑うかのように、また別の場所から3対目の火龍が溶岩流を伴いながら山嶺に出現した。
「ケケケケケ!」
「ええ! 三匹も?」
なだらかな山肌に3箇所の穴をあけ、そこから溶岩で形成した三匹の火焔龍が雄叫びをあげている。
「やつはこの火山エネルギーを最大限に利用して拡張しているのか?」
『父親』の言葉に呼応するオペレーター。
「ともに3体とも、逃亡者3号体の本体コアはありません。三匹の火龍は逃亡者3号体の一部でしかありません。」
「早く処理しないと、この火龍があちらこちらに出現するってことか。」
『父親』とオペレーターの会話が続く。
「逃亡者3号体のコアの位置確認。コア本体は三匹の火焔龍と繋がっています。この地下の溶岩流に潜んでいます。」
「どうする? どうしたらいい?」
オペレーターはしばし計算熟慮の時間が必要であったのか、すこし時間をおきシミュレーションを終えて答えた。
「あなたが本来の姿になり、撃殺処刑光線ハイビームで
三匹を3連射しても意味がありません。
本体コアと繋がっているので、『掴んで』引っ張り出し、
本体コアを破壊する必要があります。」
『父親』は三匹の火龍を見つめながら問う。
「あの身体は溶岩でできているはずだ。自分はその暑さに耐えられるのか?」
素朴な疑問に、今度はすぐに答えるオペレーター。
「本来の姿になり、あなたの腕、両手、身体等で敵を掴んで接触して耐えられる
時間はおよそ2分30秒。
どのみち地上に本体コアを引っ張り出し距離を取り、撃殺処刑光線を
実行完了するまで、必要な時間はおよそ3分。」
『父親』が見つめる3体の火龍がまるで挑発するように3種類の咆哮を上げている。
「同じことか。」
自らを追う者の条件が不利とわかっているのか。
三匹の火龍は猫のようにゴロゴロと喉を鳴らしている。
それと同じように、夜の闇の空に、ゴロゴロと黒く暗い雨雲が生成されていく。
雲の中で雷鳴を光らせる雨雲は、火山噴火や逃亡者3号体の出現により気圧変化を
起こし、生み出され呼ばれてきたのかもしれない。
サクライ・アキは悩んでいた。
自分ができること。
それは手に持つバズーカ砲ぐらいだろう。
だが今は何もできない。
三匹の火龍のどれか一匹を攻撃したところで、そこに敵本体コアはない。
作戦状況を見て、適時に対応するしかない。
悔しい。
何もできずただ状況を見ているだけの自分が悔しい。
その時、悔しがるサクライ・アキを絶望の境地に陥れる事態が発生した。
一番右側に出現した第3の火龍がゴロゴロ言いながら狙いを定める。
「キキキキキ!」
鳴き声一息、息を吸い込み一気に口から巨大で強力な火炎流を右側の奥の草木が
残っている部分に吹き込む。
そこは。
その位置は。
強力な火炎流は一筋の光線となり、その付近を爆発させ大火災を発生させる。
「え?」
サクライ・アキは息が止まった。
サクライ・アキは思考が停止した。
そこには。
そこには確か。
少年と犬が乗っている広報車がある。
少年と犬が乗っている広報車が炎上して大火災に包まれている。
そんな!
なんで!
どうしてそこを狙うの?
そこにそれがあるって、知っててやったの?
ひどい!
ひどすぎる!
そのことがわかっているかのように、第3の火龍は口元に『口火』を残した状態で
サクライ・アキの方を見る。
そしてまるで挑発するかのように、ゴロゴロと喉を鳴らすのであった。
サクライ・アキの目から停めどもなく涙が溢れる。
大量の涙が頬を伝う。
だがその水滴は、彼女の涙だけではなかった。
空天高く、深夜の闇を覆う雷鳴伴う雨雲。
火山噴火の気圧変化と彼女の悲しみを象徴するが如く、大粒の雨が大量に降り注いだ。
ああ!
守れなかった!
また守れなかった!
あの時のように!
自分の家族を守れなかった時と同じように。
今また、守るべき対象を守ることができなかった。
その悔しさで心の底から叫んだ。
あたりの雑音を消すが如く、心の底から大声で叫び、それはあたりに共鳴した。
「好気です。降り注ぐ大量の雨で、火焔龍状態の逃亡者3号体の『体温』が
下がりました。物理的接触対抗活動時間伸びました。
活動可能時間3分間以内でも耐熱効果があります。」
オペレーターの冷静で淡々とした分析に、彼は怒りを感じていた。
「わかってる!」
彼はなぜだか怒りが込み上げてきた。
自分の任務は冷静に三体の逃亡者を処刑することであり、この星の生物が
どうなろうか、基本関係なかった。
自分が知り合った人たちがどのような運命を送ろうが、それは関係なかった。
彼の任務は『3体の逃亡者の抹殺』であり、『処刑完了後』直ちに帰還することであった。
だが彼は怒っていた。
だが彼は悲しみに包まれていた。
その気持ちがなんなのかわからない。
その感情がどういうものなのかわからない。
だが彼はやるべきことはわかっていた。
許さない。
あの逃亡者3号体を絶対に許さない。
彼は怒っていた。
彼の決意はこれまで以上のものであった。
「いくぞ! やつを倒す! 絶対に!」
彼の命に共鳴してオペレーターが呼応する。
「了解。行動開始です。活動可能時間は3分以内です。」
彼はオペレーターの声をかき消すように叫んだ。
「わかってる! そんなこと!」
次の瞬間、雷鳴を伴う雨雲から降り注ぐ大雨の中、
本来の姿である『巨大ヒトガタ』が具現化する。
本来透明の姿であるはずなのに、なぜか姿が見てとれた。
雨の水滴がその輪郭を表し、燃え盛る火山溶岩の赤い光が身体に
キラキラと反射している。
その赤く光る色は、まるで彼の今の感情を表現しているかのように。
抜け殻となった父親の身体は、不思議なことにその場に倒れることなく、
仁王立ちの状態で立ち続け、まるでこれから起こることを見だ定めようとしていた。
本来の姿である『巨大ヒトガタ』になった彼は攻撃対象を見定めた。
本来ならば、すでに火焔発射機能を失った一番左の一本目である黒焦げの火龍を
狙うべきが最良であった。
なぜなら、本体を引っ張り出すために、火龍を掴むだけで済んだ。
左の一本目からの火炎攻撃はない。
あとは熱に耐えるだけだ。
それに温度を冷やす大量の雨が幸いにも降ってきている。
それが最善策であることは知っていた。
だが、本来の姿である『巨大ヒトガタ』になった彼はその判断は取らなかった。
今自分が向かうべき敵はただ一つ。
今自分が対処すべき敵はただ一つ。
少年と犬が乗っていた広報車を無情にも火焔放射を浴びせて爆発された、一番右の三本目の火龍!
彼はジャンプ一発、憎しみと悔しさを込めて掴み掛かる。
本来の目的は冷静に淡々と処分すべき逃亡者を抹殺することであった。
だが、彼の気持ちは違った。
今の、彼の理性は吹っ飛んでいた。
三本目の火龍を両手で掴み掛かる。
熱い!
指が、皮膚が、触れている部分が焼ける。
何だ!
そんなことが何だ!
怒りを込めて彼は三本目の火龍の身体を地中から引っ張り出そうとする。
それに対抗すべく、三本目の火龍は彼目掛け口から火炎を放射しようとする。
だが彼は、ガシッと頭部を掴むと、真ん中の二本目の火龍の方向へと向ける。
助け舟を出そうと、二本目の火龍が彼ら目掛け口から火炎を放つ。
だが、二本目と三本目の火龍が口から放った火炎は中間地点でぶつかり合い相殺される。
「見事です!」
オペレーターが彼の判断を誉めて讃えるが、今はそんな気分になれない。
一番左の、発射機能を失った火龍が悔しそうに咆哮してる。
ざまをみろ!
彼は力一杯三本目の火龍を地面から引っ張り出そうとした。
全部本体コアと繋がっている。
地面の外へと引っ張り出せば、地中に隠れている本体コアが地上に出てくるはずだ。
そうして本体コアを破壊すれば!
彼は力一杯三本目の火龍を引っ張り引き摺り出そうとする。
さすがにその力に耐えられず、繋がっている本体コアが岩石を飛ばし、
溶岩を爆発させるように、真の姿を地上に表した。
巨大ヒトガタは手を離し、地上に露出した本体コアに攻撃すべく、距離をとって身構える。
地上に表した真の敵の姿。
それは、まさに。
まさにそれは、三つ首龍の姿であった。
一つの胴体。
そこから伸びる三本の首。
その首の先に3つの火龍の頭。
三つ首龍のそれぞれの頭は、口から異なる鳴き声をあげて、巨大ヒトガタとなった彼を挑発していた。
「見えました。本体コアです。」
オペレーターがその位置を指摘する。
ちょうど三つ首龍の胸の部分だ。
そこに破壊消去すべく逃亡者3号体の本体コアがある。
「!」
彼はすぐさま撃殺処刑光線ハイビームを放つ準備体制に入る。
しかし!
敵はすでに彼の攻撃パターンを認知していた。
ズドーン!
ズガーン!
溶岩流で形成された、火焔三つ首龍の二本足が轟音を立てて大地を踏み締める。
地面を踏むたびに、溶岩火炎が飛び散っていく。
その重量級の身体から予想される速度よりも早く、まるで蛇が地面を這うように素早い。
大地を激しく揺らしながら猛突進してくる火焔三つ首龍。
撃殺処刑光線ハイビームの準備をしていた彼は戦闘ポーズを構えて待ち構える。
サポーターが告げる。
「物理的接触は控えて、距離をとってください。肉弾戦は危険です。」
そんなことはわかってる!
巨大ヒトガタとなった彼はそう思ったが、敵の火焔三つ首龍は猛スピードでこちらに向かってくる。
逃げない!
避けない!
身体全身でぶちあたって対応してやる。
巨大ヒトガタは火焔三つ首龍と取っ組み合いを始めた。
殴る、蹴る!
パンチ、キック!
怒りを込めて、憎しみを込めて、巨大ヒトガタは火焔三つ首龍に物理攻撃を加える。
だが、敵もさるモノである。
気がつけば巨大ヒトガタは、まるで蛇のように、蜘蛛の手のように伸びた三本の
火龍の長い首によってが絡みつかれていた。
動けない!
身体の自由が効かない!
おまけに自分が締め上げた火龍の『首』が火焔流を巨大ヒトガタに浴びせている。
火焔攻撃ができない黒焦げの一本目の火龍はケタケタと笑い声をあげている。
「危険です。早く脱出してください。逃亡者3号体の本体コアの位置は判明しています。」
サポーターが危機的状況を告げる。
わかってる!
だが動けない。
他に何か方法はないのか?
おまけに火焔三つ首龍は身体自身に電撃を走らせて巨大ヒトガタを攻撃する。
まるで雷の直撃を受けたかのような衝撃が巨大ヒトガタの身体全身を走る。
サポーターが警告を続ける。
「限界です。これ以上は無理です。活動限界まであと30秒。
早く脱出して距離をとり、撃殺処刑光線ハイビームを発射してください。」
苦しむ『彼』をただ見ているわけにはいかない。
そう思ったサクライ・アキは降り注ぐ雨の中、バズーカ砲を構えていた。
見える。
敵の姿が。
彼の姿が。
ここからはっきりとよく見える。
だが、火焔三つ首龍の本体コアは二本の火龍と巨大ヒトガタに隠されてよく見えない。
一発だ。
バズーカ砲の弾は一発しかない。
しかも破壊すべきターゲットはよく見えない。
無駄に発射しても仕方ない。
それに間違って『彼』に攻撃してしまうかもしれない。
まずい。
このままではまずい。
何とかしなくては。
だが、バズーカ砲を構えじっとターゲットを狙うサクライ・アキに、他の方法が見つからなかった。
「活動限界が近づいています。早く脱出してください。このままではあなたの
身体が空中離散してしまいます。」
オペレーターが告げる。
だが、火焔攻撃と電撃攻撃を繰り返し受けている『彼』はどうしようもなかった。
だめなのか?
巨大ヒトガタは思った。
また何もできずに見てるだけ?
サクライ・アキは悔やんだ。
何か、何か方法はないのか?
絡みつく火龍の首を解く方法はないのか?
その時、助けが来た。
「ワンワン!」
犬の声が響く。
思わずその方向を見るサクライ・アキと三本目の火龍。
犬だ!
捨て犬だ!
無事だったんだ!
火龍の火炎攻撃で広報車と一緒に爆発はしていなかったんだ。
という事は!
サクライ・アキの心の中に、一つの希望の光が輝いた。
「わーい、わーい! こっちだぞー!」
少年が山の裾野を声を出して挑発する。
思わずその方向を見るサクライ・アキと二本目の火龍。
やっぱり!
少年と犬は火龍の火炎攻撃を受ける前に広報車から抜け出していたんだ。
大人の指示を守らなかった彼らであるが、怒る気がしない。
逆に嬉しくて誉めてあげたくなるような気持ちでいっぱいだ。
犬と少年の挑発が気になってその方向を見る二本目と三本目の火龍。
以前何度もそうであったが、彼らは、敵の逃亡者は小さくてかわいいものに興味があるのか。
巨大ヒトガタを拘束するモノは、一本目の黒焦げの火龍のみとなった。
敵の本体コアへの攻撃を邪魔する障害は取り払われていく。
サクライ・アキは嬉しさでいっぱいになった。
サクライ・アキの瞳は希望で湧いていた。
鬼気迫る最大のピンチではあったが、今、彼女の目には希望で満ち溢れ輝いていた。
「目」と「目」が通じ合う。
まさにそんな状況であった。
見つめ合う『彼』と『サクライ・アキ』の瞳。
お互いが同時に頷く。
頷いたように見えた。
細かい事はいい。
とにかく今は自分自身を信じて、実行あるのみ。
「いっけー!」
サクライ・アキは露出してはっきりと見える逃亡者3号体の胸にあるコア本体に
向けてバズーカ砲を発射する。
弾丸は降り注ぐ雨風をはじのけて前へ、前へと進む。
「今です。」
サポーターが指示を出す。
わかってる!
巨大ヒトガタの彼は自身を縛る一本だけの黒焦げ火龍の顔をパンチ一発、その場を脱出する。
「撃殺処刑光線ハイビーム、いつでも発射できます。」
オペレーターが指示を言い終わる前に、巨大ヒトガタは、彼はそれを実行していた。
暗闇の中走る、二筋の光跡。
ひとつはサクライ・アキが放ったバズーカ砲。
ひとつは倒れ込みながらも巨大ヒトガタである彼が発射した撃殺処刑光線ハイビーム。
2つの光跡はやがて混じりあって強く輝く一本の光となり、
火焔三つ首龍と化した逃亡者3号体のコアをぶち抜いて、そして破壊させる。
「敵逃亡者3号体、殲滅完了。これにて本ミッションは完全終了しました。
それにしても、ナイスコラボでした。今まで見たことのないぐらいに、実にすばらしい。」
彼はずっとこのサポーターの分析指示に不満を持っていた。
任務終了したら契約解除しようかと思っていた。
だが今は、そうは思わなかった。
降り注ぐ雨が弱っていく。
諸悪の根源である逃亡者3号体が絶命したからだろうか。
火山性地震は収まり、雨は止み、はるか空の先から朝日が差し込み、
なだらかな山嶺の輪郭をきれいに浮かび上がらせている。
びしょ濡れになりながらも、バズーカ砲を持って立ち尽くすサクライ・アキ。
息も乱れ肩で息をするほどの状態であったが、達成感に満ち溢れていた。
「わんわん!」
「お姉さん!」
少年と犬が自分の元へと走ってくる。
良かった。
大丈夫だった。
今回は災害から彼らを守ることができた。
今回だけは自分の大切なものを守ることができたんだ。
嬉しさのあまり、サクライ・アキは膝をつき、走りこみ飛び込んでくる少年と犬を力一杯抱きしめた。
「三人で力を合わせた結果ね。」
そういって、『父親』の身体に戻り、こちらを見る『彼』に声をかける。
「うー、わん!」
犬はその言葉に不服そうに鳴き声をあげる。
「そうね。三人と一匹ね。ごめんね。よくやったわ。」
「帰るの?」
「ああ、私は帰る。任務は完了したので。」
ただならぬ雰囲気は子供にも伝わるのだろうか。
犬を大切に抱える少年が目で父に訴える。
「お父さん、どこかいっちゃうの?」
サクライ・アキは見守ることしかできなかった。
第3者である自分が他人家族の問題に介入することを躊躇していた。
「ああ。お父さんは、仕事があるんだ。私はいかなくてはいけない。」
淡々と話す父親の言葉に、少年は破顔しながら訴えた。
「どうして? 僕が犬を飼いたいからって言ったから?」
今にも泣きそうになる少年。
答える言葉が浮かばない父親。
さすがに第3者ではあるがサクライ・アキは口を挟むしかなかった。
「何とかならないんですか? それじゃ、この子は一人になってしまうわ。」
自分が、自分がこの子と犬を引き取る。
とはさすがに軽口では言えなかった。
確かに自分が災害で家族を、弟を失ったとは言え、気安く言えることではなかった。
少年の顔が涙いっぱいに溢れている。
その震える手で犬を精一杯抱きしめている。
しばらく少年の顔を見つめていた『父親』、いっぱく置いて優しく少年に語りかける。
「ちゃんと責任を持ってその犬を育てるか?」
父親の問いに元気にすぐさま答える少年。
「うん! 約束する!」
その表情を見た父親、顔を上げてサクライ・アキの顔を見て口を開く。
「この身体、しばらくお借りします。また戻ってきた時に必要なので。」
サクライ・アキは、その言葉の意味を信じることにした。
「わかりました。それまで私が責任を持って、この子を、この子とこの犬の面倒を見ます。」
「すまない。」
父親は顔を下げ、再度少年の顔を見る。
「お父さん、ちょっと仕事で行ってくるから。いつになるかわからないけど、
辛抱して待っててくれるか?」
父親は父親の表情をして優しく微笑みかけていた。
「うん、待つよ! お父さんと交わした約束もちゃんと守るよ!」
そう必死に語りかける少年と犬の頭を撫でた父親は面をあげる。
「ちょっと行ってきます。」
爽やかな笑顔の父親。
まるで『人間』のような表情であった。
「行ってらっしゃい。待ってます。」
サクライ・アキはそう答えるのが精一杯であった。
朝日が差し込み、明るくなっていくなだらかな山嶺の裾野。
一歩一歩、歩いて立ち去っていく父親。
少年は立ち去る父親の背中に、精一杯父と交わした約束の言葉を口にして、
心より叫んだ。
「朝起きたら、ちゃんと顔洗うよ! 食べたら歯磨くよ!
毎日お風呂入るよ! 宿題もちゃんとやるよ!」
なだらかな山嶺の輪郭の中、小さくなった父親が後ろ姿で右手を上げる。
「この犬だって、ちゃんと責任持って育てるよ!」
小さくなった後ろ姿であったが、父親が小さく頷いているのがわかる。
「お父さん、待っているからね!」
気がつくと、なだらかな山嶺の裾野から父親の姿がいつの間にか消えていた。
どこへいったんだ?
不安に襲われる少年。
サクライ・アキが両手で少年の肩をやさしく掴み、声をかける。
「見てごらん、あれがお父さんだよ。」
夜明けの明星の横をひた走る力強い一筋の光跡。
それを見つめる二人の瞳は輝いていた。
完




