第2話
「いや、これ死んでるんだよ。」
「え?」
「いや、でもこれ生きてるとも言うし。」
「え?」
事態が事態なのでサクライ・アキは『災害』に巻き込まれた被害者を
自身が所属する自衛隊病院へと運んだ。
緊急治療する医師が目の前で起きていることを信じられずに怪訝そうに言う。
「本来なら死亡している状態なんだが、なぜかこの被害者は生きている。」
サクライ・アキは医師の言っていることがわからなかった。
「本来とは別の何か、そう、何かのエネルギー体がこの人の身体に入り込んで
生命活動を維持してるって言うか、無理やり『生かされてる』って言うか。
本当によくわからん。」
サクライ・アキは医師の言っていることに思い当たる節がある。
あの時。
透明の『巨大ヒトガタ』が高速道路橋桁に倒れ込み、彼らを巻き込んでしまった。
その時。
透明の『巨大ヒトガタ』はそれを見て焦っているようであった。
そして。
透明の『巨大イカクラゲ』を強烈なビームで倒し、そこに立っていた透明の
『巨大ヒトガタ』の姿が見えなくなった次の瞬間。
彼が、この父親の意識が戻った。
確かに、その前に、この父親の状況を確認した。
その時は、確かに。
声がする。
「先生、こっちを。」
看護師が声をかける。
「ああ、わかった。」
そう言って医師は新たな他の患者の様子を見に行った。
何だ?
何が起こっている?
混乱するサクライ・アキ。
ふと我に帰る。
「子供は? 今どこ?」
子供も手当てをしたはずだ。
かすり傷程度だったので失念していた。
と言うか、父親の状況が尋常ではないので、そちらに意識を取られていた。
廊下に出るサクライ・アキ。
だが廊下や待合室にいない。
子供はどこへ行った?
犬は?
サクライ・アキは思い出した。
犬をさすがに病院内に連れてくるわけにはいかない。
犬は車に残していた。
サクライ・アキはあわてて駐車場へと向かう。
いた。
車の中で大事そうに子犬を抱えている。
ドアを開けるサクライ・アキ。
子供の素直で澄んだ瞳が飛び込んでくる。
「お父さんは? お父さんは大丈夫?」
サクライ・アキはすぐさま答えた。
「うん。大丈夫だよ。お父さんは生きてるよ。」
サクライ・アキの目に飛び込んでくる、破顔の笑顔の少年。
自分はこの懐かしい笑顔を忘れていた。
心の底から単純に喜ぶ、少年のその笑顔。
サクライ・アキは根本的に嘘を付いてはいなかったが、自分のその言葉に後ろめたさを感じていた。
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小さな線香花火みたいな小さな発光点が、建物づたいに移動している。
まるで人魂。
光の子のようだ。
その小さな発光点はやがて電柱から電線に辿り着き、そこにしばらく定着する。
電線の電気を吸い、徐々に力を蓄え、発光を増していく。
その衝撃でトランスが発火、あたりへの送電を止めその付近を停電させる。
発光点は何やら思考する表情を浮かべ、都市部に張り巡らされた電線を左右に見る。
発光点は感じた。
発光点は気がついた。
まるで電線を探って、その供給元を検索するが如く。
発光点はその供給元である巨大発電所の存在をサーチして確認した。
エネルギーが欲しい、そう思った発光点=逃亡者2号は供給元の発電所へと
電線伝いにエネルギーを吸収しながら移動していく。
逃亡者2号の発光点が走り去った後の電線は全て焦げ付いて停電を発生させていた。
サクライ・アキたちのいる自衛隊病院でも同様に停電が発生していた。
病院なので緊急発電装置が備え付けられてはいるが、それは完全ではない。
「何が起きてるの?」
自身が運転してきた広報車の中で安心そうに眠りについている少年と犬。
何がどうしたものか。
本部にどうやって連絡しようか。
そう思うもスマホはつながらず、広報車についている無線はなぜだか使用不能。
街のインフラは停電状態になり混乱にしているようであった。
混乱するサクライ・アキの元に、新たなる混乱が発生した。
「お父さん!」
少年が目を覚まし、広報車の窓から病院の建物方向を見ている。
「え?」
その声に驚いたサクライ・アキはさらに驚く光景を目の当たりにした。
死んだはずの、生きているはずのない、少年の父親が病院の建物を出て、
ゆっくりと外へとゆっくりと歩いている。
「どこへ行くんですか? その身体で。」
あわてて父親に声をかけるサクライ・アキ。
ゾンビか?
ゾンビのようでゾンビではない。
正気があるようでないような。
だがその視線はキリッと鋭く、前方を見つめている。
「私は行かなくてはいけない。」
「どこへ?」
サクライ・アキは生きているはずのない父親に向かって問いかけた。
「第2の逃亡者が活動を始めた。それは私にはわかる。
私はそれを止めなくてはいけない。」
サクライ・アキはおおよそ状況をわかっていると自分で信じていた。
自分の判断。
自分が見たこと。
彼女は自分の体験を疑うことはなかった。
「あなたは、あなたは何者なんですか?」
その問いを止めるものがあった。
「お父さん!」
少年が寝ていた広報車から起きて外に出ている。
両手には一緒にガレキに埋もれていた犬を抱えている。
元気に暴れる犬を両手で抱えて父親に走りよる少年。
「お父さん、大丈夫? ケガなかった?」
父親はその問いに表情を作るのに苦慮していたようだ。
「ほら、犬も元気だよ。うちで飼ってもいいよね。」
おおよその状況を把握したのか、していないのか、
父親は硬直し始めた頬の肉をなんとか動かして、微笑みを少年に投げかけた。
父親は顔をあげサクライ・アキを見つめ、口を開いた。
「連れて行ってくれ。第2の逃亡者の潜伏場所は、大方わかっている。」
そもそも自衛隊病院や他の施設も停電して混乱状態だ。
本部への連絡もできない。
だが、彼女は自分が体験したことを信じていた。
自分の目で見たことを信じるしかない。
サクライ・アキは広報車に親子と犬を乗せ、車を走らせた。
「やっぱりガソリン車よね。電気自動車だったら停電で使えなかったわ。」
サクライ・アキは自身が災害を体験したこともあり、物事は慎重に動いていた。
慎重に動いてはずであったのに、今、違反行為をしていることに気がついていた。
だが、理屈じゃない。
これは直感だ。
まずい。
何かが起きている。
サクライ・アキは自分の本能に従って行動していた。
「私は処刑執行人。この星に逃げてきた『3人』の逃亡者を追ってきた。
だが我々はこの星ではその身体が安定しない。
逃げた逃亡者たちは、それぞれの体質に合ったこの星の物質に
融合することで実体化する。
あの時の逃亡者1号体もそうだ。雨風の力を吸い取って実体化した。
そうすることで本来の力を発揮する。」
父親が生きていた。
自分の身を挺して庇ってくれた父親が生きていた。
そう安心して、サクライ・アキが運転する車の中で、少年は犬を抱き抱えて眠っている。
サクライ・アキは、あの時の透明な『巨大なヒトガタ』の姿を思い出していた。
「あなたは?」
その言葉に淡々と答える父親。
「私はその逆だ。本来の姿でこの星で活動することは不可能だ。
この『拠り所』の身体に入り込まないと、この星では安定しない。
本来の能力と姿で活動できる時間は、この星の時間でおよそ3分。
3分以内に片付けなくてはいけない。」
運転席のバックミラーで父親の表情を追うサクライ・アキ。
「それができなかったらどうなるの?」
「私はこの星の大気に、拡散してしまうかもしれない。」
どちらにしても。
今、安心して眠る少年に、実際の父親が本物ではないことを
告げるべきではない。
自身が災害の際に、家族を失った身としては、時間が必要だ。
どちらにしても。
この『父親』が言っていることが事実であれば、
とにかく災害のもとである『逃亡者』を何とかしなくてはいけない。
サクライ・アキは続ける。
「あの光、は何? 処刑光線か何か?」
父親が視線をずらすことなく一点の前を見つめて答える。
「そうだ。あれは逃亡者を処刑する光線兵器だ。だが何度も使えない。
使用するにはエネルギーチャージが必要だ。特にこの星では。」
特に、この星では。
サクライ・アキはその言葉に引っかかる。
『他の星』ではどうなのか?
『処刑執行人』と語っている本来の『巨大ヒトガタ』はいったいどんな世界から来たのか?
サクライ・アキは詳細が気になったが、それを問いただす時間はなかった。
「あそこだ。あの施設だ。」
父親が指差す先に、『逃亡者2号体』が逃げ込み、
エネルギーを充電しているであろう大型発電所が見えてくる。
大型発電所がバリバリ言っている。
ところどころ、過充電で煙が上がり発煙しているようだ。
広報車で滑り込むサクライ・アキたち。
すると大型発電所の施設からたくさんの人たちが出ている。
車を降り、バリバリ行っている大型発電所を見上げるサクライ・アキと父親。
走ってくる所員が告げる。
「おい、何やってんだ? 逃げろ! 爆発するぞ!」
「何が起こってるの?」
問いかけるサクライ・アキに他の所員たちが告げる。
「過充電で電気が1箇所に集まって過充電しまくっている!
どうやっても止められないんだ!」
「このままじゃ爆発する!」
過充電でバチバチと悲鳴をあげる大型発電所の施設を見つめる父親。
「早く逃げろ! どうなっても知らんぞ!」
気がつくと、発電所員はみな避難していて、遠くの方で消防車が集まってきている。
一歩一歩、歩を進める『父親』。
その先に過充電して煙を上げバチバチと発火する大型発電機。
過充電の放電でうっすらと何モノかの巨大化する姿が見える。
『父親』は間合いを取り立ち止まり、その場で凝視する。
機械的なサポート音声が聞こえてくる。
「逃亡者2号体と確認。」
『父親』の目から透視スコープが照射される。
大型発電機のエネルギーを吸収して巨大化する逃亡者2号体。
その姿は過充電の発光によって、その輪郭が見え隠れする。
まるで巨大トカゲのようだ。
機械的なサポート音声が続ける。
「逃亡者2号体、処刑実行するなら今です。」
『父親』が意を決する。
「わかった。」
振り向く『父親』。
広い発電所の一本道に車から降りたサクライ・アキと少年と犬がいる。
少年と犬に車の中で待っているように言っても無駄であった。
サクライ・アキの忠告を無視してついてきてしまった。
意を決した『父親』はサクライ・アキに告げる。
「今から処刑行動に移ります。自分がこの身体から出て、本体となります。
ですので、その間。」
サクライ・アキは何が起きるかわかっていた。
「わかったわ。その身体は私がちゃんと守る。」
サクライ・アキは振り返り少年に告げる。
「いい? ちょっと目を瞑っててくれる? お願い!」
少年はその言葉に従う様子はなかった。
だが、もうそんなことは言ってられない。
サポート音声が響く。
「処刑行動、実行。3分以内に完了してください。」
「わかった。」
そう言った次の瞬間、強烈な閃光が走り、『父親』の身体から、
まるで幽体離脱するかの如く、本来の姿である、
透明の『巨大ヒトガタ』が出現する。
魂が抜けた父親の身体は抜け殻である。
「あ!」
サクライ・アキは慌てて父親の身体を支える。
その状況を見た少年が驚いて声をかける。
「え? お父さん、どうしたの?」
サクライ・アキは息子である少年に声をかける。
「大丈夫。ちょっと疲れてるから、休んでいるだけ。」
自分で何を言っているのかわからなかった。
だが、少年が理解しようがしまいが関係ない。
今は目の前で展開される透明な『巨大ヒトガタ』と
透明の巨大な『逃亡者2号体』との戦いを傍観するしかなかった。
透明な『巨大ヒトガタ』と『逃亡者2号体』が距離をとって対峙する。
トカゲのような逃亡者2号体、頭部から伸びた二本の触手に『電気』を
集中させてバリバリと光がほとばしる。
「電撃攻撃のようです。攻撃に注意してください。」
『巨大ヒトガタ』のサポートがそう告げる。
次の瞬間、逃亡者2号体から電撃ビームが発射される。
間一髪の差で避ける巨大ヒトガタ。
電撃攻撃を受けた遠くの建物や地面が発火して燃え上がる。
「距離を取ったのち、肉弾戦が有効です。相手の力を弱らせる必要があります。」
サポーターはサポーターのようで、無理難題を押し付けてくる。
確かにそうだが。
だがどうする?
味方であるはずのサポーターがまた無理難題をふっかけてくる。
「活動限界、あと2分30秒。それ以内に処刑を実行してください。」
巨大ヒトガタはいくら任務とはいえ、サポーターの言う無理難題を
クリアしなくてはいけない。
自分も含めて処理すべき逃亡者はこの星にいけはいけない。
早く処理してこの星を去らなくてはならないのだ。
『!』
意を決した巨大ヒトガタは、ジャンプし逃亡者2号体に体当たりする。
頭部に伸びた電撃を放つ二本の触手を掴み、それを折ろうとする。
だが、電撃はそこからではなかった。
逃亡者2号体の身体全身から強烈な電撃を放ち、
接触している巨大ヒトガタが感電してダメージを受ける。
電撃の大元となるエネルギー源がすぐ近くにある大型発電所から供給されているので、
巨大ヒトガタはピンチである。
「危険です。距離をとって離れて、撃殺処刑光線ハイビームでの処理を推奨します。」
わかってる。
わかってはいる。
だが巨大ヒトガタは発電状態の逃亡者2号体に吸い付いてしまって身体が離れない。
まるで磁石に吸い付けられているようだ。
体力が吸い取られる。
力が出ない。
巨大ヒトガタのピンチである。
活動限界時間も進み、あと1分以内に処理しなくてはいけない。
その時であった。
「あ! どこへ行くんだ!」
少年が抱えていた犬が突然走り出し、
巨大ヒトガタを苦しめている逃亡者2号体に吠え始めた。
犬には見えるんだろうか?
少年が犬を追いかけて戦いの場へを行こうとしたので、サクライ・アキは
必死にそれを食い止める。
「待って! 行かないで!」
半透明状態の逃亡者2号体に向かって必死に吠える犬。
それに気を取られた逃亡者2号体は電撃を緩める。
その結果、吸い付けられていた巨大ヒトガタは離れることができた。
距離をとって立ち上がる巨大ヒトガタ。
「活動限界まであと20秒。撃殺処刑光線ハイビームの使用を推奨します。」
その言葉に合わせて、仁王立ちし、両腕をクロスする巨大ヒトガタ。
サポーターのカウントダウンが実行される。
「エネルギー収束状況、良好。ターゲットロック。」
巨大ヒトガタからまるでレーザーサイトのような細い一筋の光線が
ターゲットである逃亡者2号体をロックする。
電撃攻撃を仕掛けようとする逃亡者2号体と距離を取る『巨大ヒトガタ』。
先ほどの犬は男の子が走り寄り抱き寄せ、距離をとって離れていく。
カウントダウンが続く。
「セフティロック、解除します。トリガー安全装置解除。」
巨大ヒトガタの視線の隅に、父親の身体を支えるサクライ・アキに合流する少年と犬を目視確認する。
大丈夫だ。
問題ない。
標的の逃亡者2号体の『巨大トカゲ』の二本の触手がバチバチ言っている。
電気を溜めて、こちらに電撃攻撃を仕掛けようとしている。
だが!
こちらの撃殺処刑光線ハイビームの方が少しだけど早い。
エネルギー充填はマックスだ。
巨大ヒトガタはターゲットに向かってクロスしている両腕がビリビリと輝いている。
「5、4、3、2、1。エネルギー充填150%マックス。
撃殺処刑光線ハイビーム発射します。」
レーザーサイト状態でターゲットをロックした細い一筋の光線が
逃亡者2号体を追尾している。
空気中からエネルギーの粒子を集めるが如く、集まった光を巨大ヒトガタの
クロスした両腕に集中している。
次の瞬間、強烈な一筋の激しい光線が、ターゲットロックした細い一筋の
誘導線をなぞり、殲滅すべき逃亡者2号体を貫いていく。
今まさにハイビームが発射された。
「あの光は。」
サクライ・アキは初めてではなかった。
自身がこの言葉を放ったのを。
自身がこの光景を見たことを。
『巨大ヒトガタ』が放つ撃殺処刑光線ハイビームの輝きを、
サクライ・アキは輝く瞳で見つめていた。
そして強烈な輝きを見せるハイビームの一筋は標的である『巨大トカゲ』である『逃亡者2号体』のコアを貫き、そして殲滅させた。




