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愛が重すぎてすぐフラれる超絶美少女ですが、転校生にとってはちょうどいいそうです  作者: あとりえむ


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3/8

第3話

 翌朝。


 教室に入ったミザールは、いつもより多くの視線が自分に集まっていることに気づいた。


 ひそひそ。


 ひそひそ。


 聞こえてくる声に、なんとなく嫌な予感がする。


「ねえ、ミザール」


 席につくなり、友人が身を乗り出してきた。


「昨日の話、本当なの?」


「昨日の話?」


「アルコルと付き合うことになったって話」


「あ……」


 ミザールは頬を赤くした。


 もう広まっているらしい。


「うん……本当」


 小さく頷く。


 すると、周囲から一斉に声が上がった。


「やっぱり!」

「ミザール、また彼氏できたんだ」

「転校初日でって、すごくない?」


 悪意のある言葉ではない。


 いつものことだった。


 ミザールは昔から、恋に落ちるのが早い。


 好きだと思えば、その人のことをもっと知りたくなる。

 嬉しいことがあれば、一緒に喜びたくなる。

 困っていれば、助けてあげたくなる。


 好きになった人には、たくさんのものをあげたくなる。


 ──そして。


 それが、いつも重すぎた。


 最初はみんな喜んでくれる。


 けれど、時間が経つと。


『ちょっと重いよ』


『そんなに構わなくてもいいから』


『もう少し、普通にしてほしい』


 最後には。


『君の愛は、重すぎる』


 そう言われて、終わる。


 だから昨日も、同じだと思っていた。


 また失恋して。


 また自分の重さを嫌になって。


 もう誰も好きにならないと決めた。


 ──なのに。


 ミザールは、そっと隣を見る。


 アルコルは席に座ったまま、窓の外を眺めていた。


 昨日と同じ、静かな横顔。


 感情が薄くて。


 何を考えているのか分からなくて。


 けれど、彼は自分を拒まなかった。


『その重さが必要だから』


 昨日の言葉を思い出す。


 胸の奥が、ほんの少しだけ温かくなった。


 恋人になった。


 そう言われても、まだ実感はない。


 アルコルのことだって、ほとんど知らない。


 だから、これを恋と呼んでいいのかも分からない。


 ただ──。


 もう少し、この人のそばにいてみたい。


 そんな気持ちが、自分の中にあることだけは分かっていた。


「ミザール」


「え?」


 名前を呼ばれて顔を上げる。


 アルコルがこちらを見ていた。


「手、つないでいい?」


「……うん」


 ミザールは少しだけ驚いた。


 それから、そっと手を差し出す。


 アルコルの手が重なる。


 指先が触れた瞬間。


 昨日と同じように、彼の身体がわずかに沈んだ。


「……大丈夫」


 アルコルが言う。


「うん」


 手をつないでいる。


 それだけなのに、ミザールは少しだけ緊張していた。


 恋人だからだろうか。


 それとも──。


 自分の重さを、この人だけは嫌がらないからだろうか。


 答えは、まだ分からない。


 でも。


 この手をつないでいる時間は、嫌ではなかった。



 ◇ ◇ ◇



 昼休み。


 二人は手をつないだまま、食堂へ向かっていた。


 アルコルが浮かないようにするためだ。


 少なくとも、最初はそのためだった。


「アルコル」


「何?」


「ずっと手をつないでるけど、大丈夫?」


「うん」


「手、疲れない?」


「疲れないよ」


「本当に?」


「本当に」


 迷いのない返事だった。


 ミザールは、少しだけ目を伏せる。


 以前の恋人たちなら。


 最初は喜んでくれても、いつの間にか距離を置かれるようになった。


 近づきすぎるから。


 気にかけすぎるから。


 好きになりすぎるから。


 だから、自分から少し離れなければいけない。


 そう思うようになっていた。


 けれど。


 アルコルは、離れろとは言わない。


 むしろ、自分から手を差し出してくる。


 それが、なんだか不思議だった。


 食堂に入り、空いているベンチを見つける。


「ここにしよう」


「うん」


 ミザールが腰を下ろした。


 その瞬間。


 ぎしっ。


「……」


 嫌な音がした。


 ミザールが固まる。


 次の瞬間。


 ばきっ。


「…………」


 ベンチの脚が、大きく曲がった。


「ご、ごめんなさい!」


 ミザールは慌てて立ち上がった。


 顔が熱くなる。


「また……」


 小さく呟く。


 また壊してしまった。


 学校の備品だ。


 直せる。


 修復魔法を使えば元に戻せる。


 それでも、胸の奥がざわついた。


 まただ。


 また、自分のせいで何かが壊れた。


「ごめん……」


 もう一度謝ろうとした、そのとき。


「壊れるなら、また直せばいい」


 アルコルが言った。


「……え?」


「直せるんでしょう?」


「うん……」


「じゃあ、大丈夫だと思う」


 あまりにも自然な声だった。


 責める様子もない。


 困った顔もしない。


 本当に、問題だと思っていない。


「でも……」


 ミザールはベンチを見る。


「私、こういうの、よく壊すから」


「そうなんだね」


「……嫌じゃない?」


「何が?」


「私が重いこと」


 聞いてから、ミザールは後悔した。


 こんなことを聞く必要なんてない。


 答えなんて分かっている。


 どうせ──。


 けれど。


「嫌じゃないよ」


 アルコルは、すぐに答えた。


「……本当に?」


「うん」


「椅子とか、壊すよ?」


「知ってる」


「床だって割るし……」


「それも知ってる」


「……迷惑じゃない?」


 今度は、少しだけ声が震えた。


 アルコルはミザールを見つめる。


 そして、静かに言った。


「僕は、君がそばにいると地面にいられるから」


「……」


「だから、君が重いことは、僕には困ることじゃないよ」


 胸の奥が、きゅっと締まった。


 困ることじゃない。


 その言葉が、思っていた以上に嬉しかった。


 今まで、自分の重さは。


 誰かを困らせるものだった。


 誰かを傷つけるものだった。


 だから、好きになればなるほど、怖くなった。


 もっと好きになったら。


 もっと重くなったら。


 また、嫌われる。


 そう思っていた。


 なのに。


 目の前の彼は。


 自分の重さを、ただ「そういうもの」として受け入れている。


「……そっか」


 ミザールは、小さく笑った。


「じゃあ……よかった」


「うん」


 アルコルも頷いた。


 それ以上、特別な言葉はなかった。


 けれどミザールにとっては、それで十分だった。



 ◇ ◇ ◇



 放課後。


 二人は並んで校舎の外を歩いていた。


 今日も手はつないだままだ。


 アルコルにとっては、地面にいるため。


 ミザールにとっては──。


 もう、それだけではない気がしていた。


 けれど、まだその理由を考えるのはやめた。


 ふと。


 アルコルが足を止める。


「……アルコル?」


 ミザールが振り返る。


 アルコルは空を見上げていた。


 しばらく、何も言わない。


「どうしたの?」


「……青い」


「え?」


 ミザールも空を見る。


 いつもと変わらない空だった。


「空が?」


「うん」


 アルコルは、じっと見上げている。


「昨日より、青い」


 ミザールは首を傾げた。


「昨日も青かったよ?」


「そうなんだろうね」


「……?」


 アルコルは、それ以上説明しなかった。


 ただ、空を見ている。


 昨日まで。


 彼の世界には、色がなかった。


 空も。


 木々も。


 校舎も。


 全部、薄い色をした景色だった。


 けれど今は。


 ほんの少しだけ。


 空が青い。


 ミザールの手を握っている。


 そのことを意識した瞬間、また少しだけ色が濃くなった気がした。


「……不思議」


 アルコルが呟く。


「何が?」


「君といると」


 そこで言葉を止める。


 アルコル自身も、うまく説明できなかった。


 ただ。


 昨日より今日。


 今日より、その前より。


 世界が少しずつ違って見える。


 そして、その変化が嫌ではなかった。


「……帰ろうか」


 アルコルが言う。


「うん」


 二人は再び歩き出した。


 手をつないだまま。


 ミザールは隣を歩くアルコルを見上げる。


 恋人。


 その言葉には、まだ少しだけ慣れない。


 けれど。


 昨日より、今日のほうが。


 この人の隣にいることを、自然に感じられる。


 そんな自分に気づいて。


 ミザールは、ほんの少しだけ笑った。


 ──今は、これでいい。


 まだ名前のつかない気持ちを抱えたまま。


 二人は並んで、夕暮れの校舎を歩いていった。

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