6話 運命
放課後。
廊下を並んで歩く。
「アラト君。」
「ん?」
「急ぎましょう。」
「え、あ、うん。」
キクエはいつも通り。
俺だけがおかしい。
落ち着け。
むしろ今さらだ。
階段を上る。
誰もいない校舎。
夕日が廊下を赤く染めていた。
音楽室の扉が見える。
中に入る。
右側の壁沿い。
ベートーベンの肖像画。
こ、ここか。
時計を見る。
17時10分。
あと5分。
心臓がやたらとうるさい。
「アラト君。」
「な、なに。」
「少し待ちましょう。」
「……。」
やっぱり、キクエも俺のことを。
時計の針が動く。
17時14分。
静かだ。
吹奏楽部も今日は練習がないらしい。
校舎には風の音しかない。
17時15分。
キクエが俺を見る。
「実は。」
「……いや、キクエ。俺から言わせてくれ。」
「静かに、聞こえませんか?」
「……は?」
キクエはベートーベンを素通りした。
真っ直ぐ楽器庫へ向かう。
「え?」
「アラト君?」
「いや、その……。」
キクエは指を差した。
「楽器庫です。」
「…………。」
ん?
なんか?
思ってたのとちがう?
あぁ、これは。
この感じは。
いつものやつ、か。
◇
楽器庫の扉には鍵が掛かっていた。
「開きません。」
「そりゃそうだろ。」
「ですが。」
キクエは耳を澄ませる。
「聞こえます。」
「なにが?」
「ピアノです。」
「……え?」
俺には何も聞こえない。
静かだった。
その時。
――ポーン。
小さな音。
「……。」
「え?」
今。
鳴った?
「聞こえましたか。」
「い、いや。」
「気のせいかも。」
キクエはゆっくり頷く。
「もう一度。」
二人で息を潜める。
静寂。
夕日。
誰もいない校舎。
――ポーン。
今度ははっきり聞こえた。
「うわ。」
俺は思わず声を漏らす。
「やっぱり。」
キクエが小さく笑う。
「鳴っています。」
「でも鍵閉まってるぞ。」
「はい。」
「中に誰かいる?」
「分かりません。」
ガチャ。
キクエがドアノブを回す。
当然開かない。
その瞬間。
ポーン。
ポロン。
ポロン……。
さっきより近い。
まるで扉の向こうで誰かが弾いている。
「……。」
「……。」
キクエはそっと扉に手を当てた。
「冷たいです。」
「やめろって。」
「開けますか?」
「開けない。」
「残念です。」
ガタン。
扉が揺れた。
二人とも固まる。
ガタン。
もう一度。
今度は内側から。
コン。
コン。
コン。
誰かが叩いている。
ガチャガチャガチャ。
ドアノブが回る。
勝手に。
「…………。」
「…………。」
キクエが俺を見る。
俺もキクエを見る。
「帰ろう。」
「賛成です。」
俺たちは全力で音楽室を飛び出した。
廊下を駆け抜ける。
後ろは振り返らない。
振り返ったら。
何かがいる気がしたから。




