7話 夕焼けの余韻
騙された。
……いや。
騙されたんじゃない。
俺の勘違いだ。
何やってるんだ、俺。
……すごく恥ずかしい。
「山田さんの情報は正しかったです。」
「山田さん?あぁ、なんか楽しそうに話してたね。」
あ、そういうこと。
やっぱり俺の勘違いじゃん。
田中の野郎。
業務用加湿器でベッタベタにしてやる。
「そういえば、アラト君。」
不意にキクエがいう。
「ん?」
「さっき。」
キクエが俺を見る。
「"俺から言わせてくれ"とは、何の話だったんですか?」
覚えてますよね。
知ってました。
あなた、そういう記憶力異様にいいですもんね。
「いや、その。」
しどろもどろ。
「田中から変な噂を聞いててさ。」
「噂、ですか?」
「17時15分ちょうどに、ベートーベンの肖像画の前で告白すると、絶対に結ばれる……みたいな。」
「…………え。」
「だから、その。」
自分の顔が熱くなるのがわかる。
「俺、勘違いしちゃって。」
頭をかく。
「いやぁ、そんなわけないよな。」
「はは。」
笑ってごまかす。
キクエがついてきてないのに気付く。
振り返る。
キクエはその場で立ち止まっていた。
「……キクエ?」
夕日に照らされた顔は。
真っ赤だった。
「ど、どうした?」
「…………。」
「具合悪い?」
「っ。」
小さく息を呑むと。
キクエは俺の顔を見ないで、小走りで歩き出した。
「ちょ、キクエ?」
返事はない。
「おい、待てって!」
慌てて追い掛ける。
「危ないぞ!」
春の夕暮れ。
二人の影は長く伸びる。
どこか楽しそうに。
その様子を少し離れた塀の上から、黒猫がじっと眺めていた。
「にゃあ。」
小さく鳴いて。
大きな欠伸をする。
何事もなかったように。




