11話 パワースポット
「はい。」
「……なにこれ。」
「破魔矢です。」
ゴールデンウィーク2日目。
キクエから、立派な矢を渡された。
「いや、それは見ればわかる。」
「御利益があります。」
「それもなんとなくわかる。」
そうじゃない。
「なんで?」
「サクラさんからもらいました。」
「それをなんで俺に渡すの?」
「アラト君には必要です。」
「なぜ?」
キクエは満足そうに頷いている。
仕方なく受け取る。
また増えた。
俺の部屋を思い浮かべる。
机。ベッド。本棚。
そして、御利益グッズ。
いつの間にか一大勢力になりつつある。
神社でもらったお守り。
どこかのお寺のお札。
小さな招き猫。
よくわからない石。
そして、安産祈願。
捨てるに捨てられない。
だから全部取ってある。
そのうち俺の部屋、パワースポットになるんじゃないだろうか。
「どこ行く?」
「どこでも。」
キクエと歩いていた。
昔から休みの日はだいたいこんな感じだ。
目的地なんてなくてもいい。
適当に歩いて。
気になる店があったら入って。
キクエが何かを見つけたら寄り道する。
大体そんな感じ。
「アラト君。」
「ん?」
「アイス食べませんか?」
「いいね。」
そんな話をしていると。
ガラガラ。
家の引き戸が開いた。
「あら。」
「ん?」
「新人ちゃんじゃない。」
鈴木の婆さん。
「婆ちゃん。」
「菊枝ちゃんも。」
「こんにちは。」
キクエが頭を下げる。
鈴木の婆さん。
小さい頃から知っている。
俺とキクエが小学生の頃。
この家にはよく遊びに来ていた。
ふと庭の隅、古い犬小屋を見る。
鈴木の婆さんが飼っていた犬。
茶色と白の雑種、ポチ。
俺たちが来ると、いつも尻尾を振っていた。
ボールを投げたり。
追いかけ回したり。
逆に追いかけ回されたり。
俺の靴を咥えて逃げたこともある。
「返せ!」
走る俺。
逃げるポチ。
それを見ながらキクエが笑っていた。
懐かしい。
でもポチはもういない。
俺が小学生の頃に死んだ。
「二人とも大きくなったねぇ。」
「そりゃ高校生だし。」
「ほんとにねぇ。」
婆ちゃんが笑う。
その手には、小さな器があった。
ドッグフード。
婆ちゃんは庭へ降りると古い犬小屋の前にしゃがんで、器を置いた。
「……。」
キクエと俺はそれを見ている。
「婆ちゃん。」
「ん?」
「それ。」
婆ちゃんが俺の視線に気付いた。
「ああ。」
犬小屋を見る。
少しだけ、懐かしそうな顔。
「ポチが死んだの、この時期だからねぇ。」
「……ああ。」
そうだった。
いつかのゴールデンウィーク。
遊びに来た俺たちを迎えてくれたポチが、次に来た時には、いなくなっていた。
「お供えだよ。」
婆ちゃんはそう言って笑った。
「久しぶり上がっていくかい?アイスくらいならあるよ。」
「うん。」
「お邪魔します。」
婆ちゃんが嬉しそうに家へ戻っていく。俺も玄関へ向かおうとして。
「……。」
キクエが来ない。
「キクエ?」
庭の古い犬小屋。
その前に置かれたドッグフード。
キクエはそこをじっと見ていた。
「どうした?」
「……。」
「キクエ?」
少しして。
「……いえ。」
キクエがこちらを向く。
「なんでもありません。」
「?」
「行きましょう。」
「おう。」
二人で家へ入る。
その時キクエがもう一度だけ犬小屋を振り返った。




