82話:始まりの階層
既にケイブスライムには気づかれた。多分すぐに警戒されて硬化されるな。
さっきまでぷよぷよと音を立てていたのに、ガンガンと岩同士がぶつかるような音になったし。
……なんか、存在を忘れて固くなってしまった饅頭が集まっているように見える。
影の触手
硬化したとは言えど影で壊せないほどの硬さではないな。
倒せることが分かったら後は簡単だ。
全部同じように触手で叩きつけて討伐完了。
「お、終わったか?」
「終わったよ。」
さっきから俺の背中に隠れてそんなにスライムが怖かったのか?
「それじゃあ、他のヤツが出てくる前に早く行こうぜ。」
いつもの比にならないくらい周りを警戒してる……。
なんかここまで怯えてるのを見ると不憫になってきた。
「それにしても、アルタロムのそのうねうねした魔法便利だよな。
その魔法があれば襲ってくる魔物も全部ぶっ倒せそうだ!」
「そうかもね、でもこれから遭遇する魔物とは戦わないよ?」
「え……。」
なんて顔しているんだよ。
「ここから先はどこまで続いているのか分からない。
できる限り魔力と体力を温存しないといけないだろ?」
現状この迷宮の開拓された階層は五層までだ。
その後にどこまで続いているのか、どんな魔物がいるのかなんて検討もつかない。
長期戦になることも含めて、控えている白との戦闘を考えれば魔力の消費は抑えておきたい。
「……わかった。それなら、今からお前は動かないでいいよ。」
「それって一体どう言う……」
背中から冷気。
この感覚砂漠でもあったな。
俺の後ろにいるなにかにシャカの剣が当たったんだ。
「この数に囲まれたら逃げられないだろ?」
コボルトの群れか。十……いや、二十体はいるな。
確かにこの数は逃げられない。魔力の消費を抑えて戦うにはどれから倒すか。
「おいら一人で倒すからアルタロムは待ってろ。」
「何言ってるんだよ。もしかして俺がさっき言ったことを間に受けて……」
あれ、シャカが消えた?
「これ返して。」
背後だと!?
さっき自分で投げた剣を回収しに来たのか?
だとしても、一瞬であの距離を……なんて速さだよ。
それに、俺が振り返るまでに三匹も斬り捨ててる。
「五……六……。」
なにか呟いてる?
コボルトを倒した数か。
戦闘中なのに、完全に死ぬのを確認してから数えている。物凄い洞察力だ。
だけど、考えているせいかシャカの笑顔が無くなっている。
真顔で戦っているシャカの姿を見ていると、なぜだか嫌な気分になるな。
「ふぅ……、終わったぞ。」
「あぁ、すごいな。」
必要最低限の動きで魔物の殲滅。さすがはS級の冒険者と言うべきなんだろう。
コボルトの鉄の武装も真っ二つになってる。
グリズリー達と同じように断面が凍っているのは魔剣の能力か。
いや、今はそんなことよりも別のことを聞いておきたい。
「シャカはなんで、実力を隠していたんだ?」
「……ははっ。」
気まずそうに頭を掻きむしってから目を逸らして愛想笑い。
そんな仕草をするってことは、図星ってことだろうな。
あんまり深入りして嫌がられるのは避けたかったけど、この状況で疑心暗鬼になりたくはない。
信用したいと思うから、この子が敵である可能性を消しておきたい。
「……引かれたくなかったんだよ。」
「え?」
「歩きながら話すよ。ほら、早くしないと魔物が集まってくるぞ?」
俺の服の袖を掴んで引っ張ってくる手には敵意はない。
さっきの言葉も嘘をついている感じはなかった。
”引かれたくない”って一体なんで。
「できるなら、早く話してくれないか。」
「気が短ぇなぁ、わかったわかった。
あれは半年前の俺が初めてパーティーを組んだ時だ。」
俺以外にこんな子とパーティーを組める奴がいたんだ。
というか、パーティーを組んでいたならもっと冒険者の常識とかを知っていてもおかしくないんじゃ……?
「そん時組んだヤツらはな、俺の戦闘を見てからよそよそしくなったんだよ。
その後、ドラゴンの巣に迷い込んだ時には囮として使われた。」
「ドラゴン……よく生きていたな。」
「うん、勝ったけど大変だったよ。」
初めてシャカの階級の理由を聞いた時は嘘だと思った。
今だって信じられない。
だけど、不思議とこの話を疑うことが出来ない。
「ドラゴンの死骸を持ち帰ったら、おいらを置いて行ったヤツらが仲間ヅラで「資金の分配だ」とか言って勝手に全部売ろうとしやがった。」
なんて言うやつらだ。
と言いたいが、こんな話はよく聞く。
冒険者は卑怯でもなんでも最後は手に入れた者勝ち。
規則なんて穴を突かれてしまって、あってないようなものだ。
「そん時に助けてくれた奴がいたけどな、結局牙以外の死骸は全部持ってかれちゃったよ。」
「全部って……」
牙がないとしてもドラゴン一頭の死骸なんて売れば一人くらい一生遊んで暮らせるくらいの金額になる。
その組んだパーティーが何人いたのかは分からないけど、今頃は冒険者を辞めているだろうな。
「まぁ、こんなことがあったからな。
それからパーティーを組もうとは思えなかったし、疎まれないように弱いフリしてた。」
それにしてはギルド登録初日から先輩冒険者に酒ぶっかけて圧勝してたけどな。
「でも、じゃあなんで俺とは強引にパーティーを組んだんだ?」
「なんでだろうな、直感だよ。
お前なら組んでも大丈夫だと思った。」
直感か……。
なんだか舐められているような気がしないでもないが。
「おい、分かれ道だぞ。どっちに進む?」
「え、分かれ道?」
六つの方向に分かれている道は……
「一番左だ。そこを進めば次の階層に行ける。」
「え、もう!?」
一階層はあまりに広いから地図があっても二日か三日かかることもあるらしいが、どうやら俺たちは運が良かったようだ。
まだ二時間も経っていない。
「次の階層にはもっと強い魔物がいるが、休憩しなくても平気か?」
「もちろん!さっさと進んじまおうぜ!」
本当にピンピンしている。さっきあれだけ動いているように見えてもだ。
この子の実力は底が見えないし、さっき言っていたドラゴン討伐の話も気になる。
まだまだこの子について聞き出す必要があるか……。
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