55話:忠誠と恩義
喫茶店を出てフロガと私は街を散策していた。
アルタロムとお土産を買いに出ていたが、具体的に何を買うのかは決まっていないからか色々なものに目移りしてしまう。
「お前、アルが居ねぇと落ち着いてんのな。」
「え?そうかな。」
そんなつもりは無かった。
いや、確かに着せ替え人形が居ない分想像しているだけで体を動かしてないか。
「俺と買い物してるのはつまんねぇか?」
「楽しいよ。」
「即答されるとなんか怪しく聞こえんな。」
食い下がられると面倒くさい。
フロガにも女々しいところがあるんだな。
「……アルは今頃何してんだろうな?」
「さぁ、今頃フライパンが頭にあたって気絶しているかもしれないね。」
「ははっ!そんなことあるわけねぇだろ!」
いきなり話を逸らしてきたと思ったが、場を和ませることは出来たか。
「聞いてもいいか?
お前とアルは本当の兄妹じゃないだろ。なのになんでずっとお前はアルの傍にいるんだ? 」
「……私は学園に入るためにアルタロム様のお母様に養子にしていただきました。
でも、私は元々アルタロム様の従者なんです。」
アルタロムが魔王であることを除けば、有り得なくは無い話だ。
特にエルは勇者だ。優秀な従者が居れば養子にとる可能性は十分にあるだろう。
「従者ね……。てことはお前はアルの言うことならなんでも聞くってことか?」
「いいえ、命令の内容によっては私には拒否権が与えられています。
私が嫌だと思えば命令を断れますし、私が間違っていると思えば謀反すら罪に問われません。」
「じゃあ、なんでお前はあんなに従順なんだ?」
フロガは何を言いたいのだろうか。
従者である私のことをどう思っているんだろう。
答えるのが怖い。考えれば考えるほど嫌な想像をしてしまう。
だけど、この質問には答えないといけない。フロガはきっと私の嫌がることはしないから。
「アルタロムは、私が苦しい時にそっとはしなかった。それどころか怒鳴りつけてきた。」
「……はぁ?それだと忠誠どころか恨みそうなもんだけどな。」
「そうだね、怒鳴りつけられた時に私もそう思ったよ。」
私もあの時は自己中心的なやつだと思ったんだ。
だけど、彼奴の人生を知ればそんなことは考えられかった。
「フロガは、その時にアルタロム様がなんて言ったと思う?」
「仕事が出来てねぇとか?」
「アルタロム様がそんなことを言うわけないよ。」
「そうだろうなぁ。」
そう、彼奴は言わないどころか、従者の仕事を肩代わりしてやるような馬鹿者だ。
「私の父が死んだことで食事も喉に通らなくなった時、アルタロム様は無理やり私の口にパンを詰め込んで
”それじゃあ死んでしまったお前の父が浮かばれない。”とか、”文句があるなら飯を食って、風呂に入ってから直接言いに来い。”
って言ったの。」
「何やってんだよあいつ。」
そう。私も本当に馬鹿なことをしていると思う。
フロガが全く同じ反応をしたことが可笑しくて、クスクスと笑ってしまう。
「すぐに奥様に連れて行かれてしまったけれど、後から考えると自分のやってる事も馬鹿らしくなってしまった。」
それに、彼奴の前世を思い出すと、あの時の私と重なるような気がして気に食わなかったから。
「私はそのあとアルタロム様の言う通りに動いた。
ご飯を食べて、体を洗って、アルタロム様に正面から文句言ってやったよ。」
「お前って意外と強かだよな。」
「そうかな?」
伊達に数百年も知識を蓄え続けていわけではない。この年齢の娘にしては強い方だとは思っている。
「やっぱ、お前はアルのことをよく見てんだな。」
「そりゃ従者だから。」
「でも、もっと周りのことも見てくれよ。」
「え……?」
ずっとフロガが何を考えているのか分からなかったが、まさかフロガは妬いているのか?
さっきからアルタロムの話ばかりするし、自信のなさそうな顔をしている。
いや、フロガに限ってそれは無いな。都合のいい想像だなこれは。
「確かに、義兄様のことだけじゃなくてもっと貴方のことも見ないとね。」
「あぁ。って、別に俺だけじゃなくて他の奴にも気を配ってくれよ。」
「うん。」
嫉妬なんてただの妄想でしかない。フロガは嫉妬するよりも先に自分から行動していそうだ。
「……ねぇ、フロガの好きなものって何?」
「あ?強ぇやつかな。」
フロガは一貫して戦闘好きだ。
今は私と戦っても勝てないが、いずれ私なんか手も足も出なくなる。
そうしたらフロガは私から興味をなくしてしまうのかな。
「そうだよね、ありがとう。」
私は強くなりたい。
今のこの人の傍にいられるくらいに強くなりたい。
「……気づけよ。」
「え、何か言った?」
「なんも言ってねぇよ。」
気のせいだったのかな。
いや、フロガはなにか隠し事があるときに頭を搔く癖がある。
一体何を隠しているんだろうか。
「……フロガ。」
「どうした?」
「フロガはナイフを新調しないの?」
いや、人の隠していることを無理に聞き出す必要なんてない。
私やアルタロムだって、皆に絶対に話せない秘密を隠しているのだから。




