45話:再戦
フェルとイフが回復するのにはあまり時間がかからなかった。
まだこれから試合があるのにあまり待たせる訳にもいかないからなぁ、もう少し休ませておきたいが行くしかないだろう。
「二人とも、そろそろ訓練場に戻ろうか。」
日が完全に落ちている。二人が休んでいたのは二時間と言ったところか。
こんなに待たせたのであれば怒られるかなぁ。いや、怒られない。そう思うことにしよう。
「お待たせしました……。」
「アルタロムか、二人はもう大丈夫なのか?」
さすがカリス、寛大だぁ。
先生はちょっと不機嫌そう。カリスと交代したらどうだろう。
「ご、ご迷惑をおかけしました。」
とはいえ、さすがのカリスも含めて全員フェルが入ってきてから態度がよそよそしくなった。
「……っ。」
「フェルちゃん 隠れちゃダメなの。
皆ちゃんとわかってくれるの。」
イフにはすっかり心を開いたらしい。
フェルが自分よりも一回り小さいはずのイフの背中に身を丸くして隠れた。
「あれ、そういえばフロガは?姿が見えないんだけど。」
「あぁ、あの者なら先程食堂に向かった。」
あいつ、試験が止まったからって飯食いに行ったのね。
試合前なのに食べて大丈夫なのか?まぁ、こっちからすればなんだっていいんだけどな。
「ただいまぁ!」
噂をすれば帰ってきたな。さてと、フロガの反応は……?
「お、フェル!イフ!戻ってきたのか!」
「ひっ……。」
撫でられそうになっただけでフェルが怯えた。怒りじゃなく怯えというのは、やっぱり今は人が恐いのだろうな。
「フロガ、いきなり女の子を撫でようとしたらダメだろ?」
「あ、そっか。悪ぃなフェル。」
「あっ……。」
フロガは、怯えている様子なんかないな。
カリスも抵抗はあるようだが忌避しているようには見えない。
どうやら、ここにいる皆はフェルが思っている程人を嫌うということはしないらしい。
「よし、フロガ始めようか。」
「あ?あ、そっか!ようやく戦れるってことか!」
「早く済ませよう。」
先生も貧乏ゆすりして待っている、これ以上待たせたら本当にヤジが飛んできそうだ。
「フェル、行ってくんな。
次、一緒に戦ろう。」
そういうのは勝ってから言って欲しいな。
俺は、本気でフロガに勝ちに行くつもりだ。
「もういいのか?」
「はい。よろしくお願いします。」
先生は明らかにフェルに対して距離を置いている。
先生と生徒の距離感なんてこんなもんだとは思っていたが、あまりいい印象は持てないな。
「それでは試験を再開する。
両者準備は出来ているな。」
「俺はいいぜ!!」
フロがには悪いと思が、一撃で決めさせてもらおうか。
「それでは始め!」
フロガは掛け声と同時に距離を詰めてくるよな。
だから、そこを狙って腕を切る。殴る腕がなければ戦えまい。
「っ……!?」
さすがに後ろに引いたな、少し殺気を出しすぎたか。
「ア、アル?お前今何しようとした?」
「腕を切ろうとした。怪我をしたら戦えなくなるだろ?」
「いや、そうかもだけど……おっかねぇなお前。」
戦闘不能にするにはダメージを与えることが一番手っ取り早いんだけど、一撃で戦闘不能にするほどの致命的なダメージは感覚で避けられる。
やっぱり場外しかないかなぁ。
「アル、あんま楽しくねぇだろ。」
「そりゃ、楽しむことよりも勝つことに集中しているからね。」
「勝つだけが戦いじゃねぇだろ?一緒に楽しもうぜ?」
楽しむ余裕なんてない。
俺は勝たないといけないんだよ。
「なんでそんなに勝ちにこだわるんだよ。」
「試験だぞ?勝つことを目的にして何が悪い?」
「いや、もっと別のことを感じるな……って、うぉ!?急に剣投げつけてくんなよ!危ねぇだろ!!」
避けられた。 刺さったら動けなくなって勝ちだったのに。
「お前、治るからって何してもいいわけじゃねぇんだからな?」
「腕をぐちゃぐちゃにしていた君に言われたくはない。」
そういえば、カリスにも言われたっけ。
さすがにやりすぎなのかなぁ。もっと危険なことはないように抑えるか?
「わかったよ、ちょうど剣が場外に吹っ飛んじゃったんだ。拳でやり合おうか。」
「あ?お前そんな腕っぷし強かったか?」
「まぁ、君と真っ向から戦ったら勝てないだろうね。」
だから、 身体強化 を使わせてもらうね。
「まぁ、お前がそれでいいならいいんだけどよ?」
フロガはずっと本気だよな。
身体強化 をした状態でも気を捻出した攻撃をモロに食らったら負ける。
だから、まともに受けるつもりは無い。
「さぁ、いくぜ!!」
宣言しなければいいものを。と言っても、こういう馬鹿正直なところは好きなんだけどね。
でもまぁ、フロガの攻撃の型は最近よく見ていたんだよ。
「……っ!ってうわぁ!?」
先の動きが分かれば攻撃される前に攻撃をすることは簡単。さらにそのまま転ばせれば動きを止めることも出来る。
「なんの!おらぁ!!」
転ばされたまま体を捻って飛び上がってきやがった。
危ない、やぶれかぶれが当たるところだった。
「どうした!?腹ががら空きだぜ!?」
「空けてるんだよわざとな。」
とか言って殺気出しとけば勝手に警戒して下がってくれる。
ただ体勢崩してただけなんだけどね。
「嘘……ついたな。」
「嘘も戦略の内さ。」
仕切り直しと言ったところか。
さっきの攻撃はあんまりフロガには効いていない。
やっぱり軽い攻撃をし続けてもフロガの体力はあまり減らないか。
となれば、ひたすら攻撃を誘って体力を消耗させた方がいいかな。
フロガは最初と同じように突っ込んでくるけど、今度は直前で避ける。
こんなことはそう何回も続かない。すぐに対応して攻撃を繰り出してくるだろうな。
「さっきから同じ動きばっかだなぁ!」
と言っても、攻撃をするタイミングは何となくわかってるからそのタイミングで別の方に動けばいい。
「……アルタロムの動きはまるで闘牛士みたいだな。」
「確かに。アルタロム様はフロガさんと一緒にいることが多かったですからね、何をするのかわかってしまうんでしょう。」
観覧席でカリスとクリムが何か言っているようだが、今はフロガの方だ。
……そろそろか。
「あぁ!鬱陶しいなぁ!!」
怒り始めると視界は一気に狭くなる。
だから、こういった攻撃は読めないよね?
「……っ!? 危ねぇ!?」
「これも避けるのかよ。肩狙ったのに残念だな。」
剣には予め俺の手に引き寄せられて戻ってくるように空間魔法を仕込んでいた。
剣と俺の一直線上にフロガを立たせたんだがな、恐るべきフロガの勘。
「はぁはぁ。お前なぁ、ここで剣を使ってくるのかよ。」
「疲れるまで待ってたの。決め技のつもりだったからね。」
フロガは息切れを起こしている。決めるならそろそろだろうか。
「さて、ここからが本当の第二ラウンドだ。」




