44話:寄り添い
イフはさっき、自動人形を四体までしか出ていない。
仮にあの魔道具で作り出せる自動人形の数に制限がなければ、そして少量の魔力消費で済むのであれば、紫の陣営は彼女一人で十分戦力が賄える。
いや、有り余るだろう。
これは、何としても紫と敵対はしたくないな。
なんて、こんな状況で考えるべきじゃない話だな。
……こうやって眠っているフェルの顔を見ると、昔のことを思い出す。
父が居なくなった日から、俺は父の代わりとして魔王の仕事を引き継いだ。
とは言っても、一体何をしているのか知りたくて始めたただの真似なのだがな。
父が何をしていたのか、俺が知っているのは奴隷を解放していたことだ。
だから、この力を自分の物にした後に非合法の奴隷を解放して回っていた。
父は一切の容赦はせずに奴隷商人を殺してしまっていたけれど、最初の頃は抵抗があった俺は殺しなんか出来なかったっけ。
今でも不要な殺しはしたくないし奴隷狩りなんか無くなればいいと思っている。
フェルが暴走したのはいつ頃だったか、俺がヘマをして殺されかけた時か。
すぐにフェルが助けてくれたけど、大怪我を負った俺を見て我を忘れて暴走した。
あの時初めてフェルが原始化したところを見て心底驚いたな。
金縛りになったのもあれが初めてだったか。
暴走したフェルは影の触手で少し拘束しただけで言うことを聞いてくれたな。
そうだ、あの時にララが屋敷に来たいと駄々を捏ねたんだ。
断る気力もなくてそのまま受け入れたら、それ以降フェルにベッタリだった。
ララはこいつの強さを知ったからこそ、フェルに懐いたんだろうな。
こいつは賢いからすぐに暴走しないように体に叩き込んでそれ以降暴走することは滅多に無くなったが、それでも暴走してしまうことは何度かあった。
予兆は決まって 黒炎 が溢れ始めたこと。
自分の意思である程度は使えるようになったようだけど、 神通力 と合わせて使いすぎると魔力の制御が聞かなくなってしまうみたいだった。
ロロもララも、ナナですら同じような現象は起こっていた。
こいつは皆よりも暴走する機会が少なかったから、本当に優秀なんだ。
でも、強いし優秀なこの子達を俺は受け入れられるだけの器がない。
不甲斐ない限りだ。
「んぅ……?」
フェルの瞼揺らいだ。
「目が覚めたか?」
「はい。あの、ここはどこですか?」
「医務室さ。あの後いつもみたいに寝ちゃったんだよ。」
記憶が混乱しているみたい。
今回はそこまで激しく暴れてはいなかったから意外だな。
「……っ!イフは!?」
慌てて辺りを見渡したことで隣のベッドでイフが寝ているのに気づいた。
イフの方は……今は綺麗な顔色をしている。落ち着いてきた証拠だな。
「もう少しで死なすところだったぞ?」
「面目が立たんな。」
言い放つようにして、フェルはぐったりと片手で顔を抑え体を丸めた。
「口調が戻ってるよ。」
「今は許してくれ。」
相当気を落としているな、こんな状態でこの後は戦えるのだろうか。
いや、無理だ。
フェルの試合は次が最後だ。今のフェルにフロガをぶつける訳には行かない、何がなんでも次の試合は俺が勝たないといけないな。
「フェル、お前はまだ休んでろ。
俺は先に戻ってフロガと戦ってくるよ。」
「待って。」
「どうした?」
言い詰まっているな、自己嫌悪から自分が発言してもいいのか悩んでいると言ったところか。
「言っていいよ。」
「お前とフロガの決闘は、どうしても見たい。」
フェルがこんなことを言うのは珍しいな。
魔王や王国に関係のなさそうなフロガと俺の戦闘だ、別にフェルが見る必要は無い。
それとも、まだ……
「お願い……。」
いや、違う。震えて、下手をすればまだ立って歩くことも出来ない状態でこんなことを言ってきている。
何が目的とか、そういう打算は一切無い。
フェルは……、この学園に来て変わったんだな。
「わかった、もう少し待とうか。」
そう告げるとフェルは脱力して掴んでいた俺の制服の裾を離した。
「フェルちゃん。」
「イフ……さん。起きたのですね。」
びっくりした……。
フェルに気を取られていたけど、イフが目を開けていた。
「さっきの口調でいいのです。」
「いいえ、こちらで。」
フェルは頑なに俺以外には敬語を貫いている。
必要以上にこの世界の人間に関わろうとしないためみたいだ。
「お加減はいかがですか?」
「今はもう苦しくないのです。あの、あの力は一体何なのです?」
正直、奴隷解放をしている理由を勘ぐられそうで外部の人間にはあんまり話したくない。
だが、ここでイフに話さないとなると信用が無くなるだろうな。
「……フェル、話してもいいか?」
「どうぞ。」
理由があるとはいえ本人の許可なく話すのは気が引ける。
「フェルは九尾の血を引いている。
さっき使った黒炎は九尾由来の能力だ。」
「九尾……それならあの力も納得なのです。」
これ以上は質問してくる雰囲気はないな。
イフは深く言及してくることがなくて助かる。
「黙っていて悪かったな。」
「仕方ないのです、奥の手っていうのは隠しておくものと私が言ったのです。」
その言葉はフェルにとっての慰めなのだろうか。
だけど、今のフェルにはそういう言葉は逆効果になるだろうな。
「奥の手なんて、あれはただの暴走です。そんな大層なものではないですよ。」
自嘲的に、吐き捨てるように言った。
こうなってはいけない。このままだと、悪意なく互いに傷つけ合うだけ……
「フェルちゃん?あれは貴女の力なのです。
あれは、フェルちゃんが私と本気で戦ってくれた証拠なのです。
だから、そんなに自分を責めないで欲しいの。」
では無いようだな。
イフはすごいや、あんなことがあっても怖がらずに寄り添ってくれる。
「……っ。」
「フェルちゃん、私悔しいの。
私も本気で戦ったの、でも負けちゃった。
だからいつかリベンジさせて欲しいのです。」
イフだってまだ辛いだろうに、ベッドを移動して泣いているフェルのことを抱きしめてくれた。
きっと、フェルが人を避けていたのは皆が周りから居なくなってしまうからだ。
フェルが暴走した時、周りの奴らは皆フェルを怖がっていた。
だからこそ、こうやって受け入れて傍に居てくれる人が居ることは何より嬉しいんだよな。




