34話:問題
アーサーに釘を刺されたその日は眠れなかった。
色々なことが重なりすぎていて頭の整理が追いつかなかったんだろうな。
翌日、勇者学園の一年生"グリン・ザガン"が自室で亡くなった状態で発見された。
「全員犯人が見つかるまで部屋から出ることを禁ずる。」
その日の早朝、急遽共有部屋に集められて先生からはそう言われた。
ザガンの胸には大きな外傷があり、他殺であると断定された。
「お言葉ですが、ザガンは自室で死んでいたのですよね。部屋にいたとしても危険なのではないですか?」
カリスが先生の指示に疑問を呈した。
カリス以外にも同じような疑問や不安を持っていた生徒は多くいるようで、みんな一様に顔を暗くしている。
「鍵の術式を書き換える。
その間私以外に貴様らの部屋に入れる者はいなくなる。」
(なんの問題解決にもなっていないんですが……?)
先生は皆の不安を解消せぬままどこかに行ってしまった。
「逃げたな。」
「いや、逃げたんじゃないさきっと……。」
フロガはこう言っているが、本当に逃げたような気がする。
今まで安全性が保証されていた学園の寮がいきなり破られたと言われれば対応に遅れが出て当然だろう。
とはいえ、実際学園の寮は俺にも破るのは難しい。
もしできるとするなら、「王級空間魔法の使える何者か」だろう。
そんなことが出来て、やって得する人物は俺の知っている限り一人しかいない。
「動き出しましたね。」
「あぁ、最悪のタイミングだ。」
今回の事件は俺たちを狙っての行動だ。
あいつは俺……というか 黒 に対して強い敵意を示しているから嫌がらせのつもりなんだろうか。
最悪アーサーを使って俺を殺そうとしてきてる。
そんなのまっぴらだ。
あいつが敵城に突っ込んでくるとも思えないから誰かにやらせたはずだ。
さっさと実行犯を捕まえてアーサーに差し出してやる。
全員が部屋に戻った後、動き出すことにした。
だけど、今は先生が術式を書き換えている最中の可能性がある。
鍵を使って入ることは出来ないだろう。
(ということで、テッテレー 空間転移魔法 !(某猫型ロボット風))
説明しよう!空間転移魔術とは指定された座標に移動できる魔法なのだ!
とかいうおふざけは置いておいて。
影移動より魔力消費は多いし使い勝手は悪いが、座標さえわかればマーキングしてない場所にも行けるし移動の痕跡もない。
鍵の術式を書き換えているらしいし、空間自体に干渉して、入った痕跡が残ったりしないんだと思いたい。
できたとしても、最悪犯人差し出してアーサーに口止めしてもらおう。
さて、座標はどうやって調べたもんか。
「アルタロム様、グリン・ザガンの部屋の座標を特定しました。」
「さすがはメイド長。何も言わずとも調べてくれるなんてね。」
フェルちゃんには本当感謝ですわ。
こんなバッチリなタイミングで水晶で知らせてくれるんだから。
「それじゃあ時間もないし、早速行ってくるな。」
「行ってらっしゃいませ。」
「大いなる空間の神々よ 永遠に広がる力を我にお貸しください 全てを解き放ち空間を歪めよ」
空間転移
やっぱり隔絶された空間に干渉するには上級の魔法が必要だったな。
部屋に転移すると、誰かが先に部屋の中を調べていた。
「やぁ、やっぱり君は来ているよね。」
声をかけると、彼女は驚いたように黒い髪をなびかせて振り向いた。
「もう来たの?」
「さすがに、魔王が動いたとなれば君も動くよね。」
「隠していたのに、アルタロムさんは気づいていたの。」
先に部屋にいたのは予想通りイフだ。
「この部屋を調べるならどうぞなの。
私はすぐにこの部屋を出るの。」
「いや、調べる前に君と話がしたいな。」
「私はしたくないの。」
手厳しい。さすがに敵にそんなフレンドリーって訳にはいかないよな。
「まぁ、そう言わずにお茶の一杯でもどうかな?」
隔絶空間
「あんまり殺気立つなよ、俺は君と戦うつもりは無い。」
「……。」
回答なし……ね。
当然か、敵の可能性のあるやつにそんなことを言われても信用出来ないわな。
「わかったの、お話……しようなのです。」
殺気が消えた。
一応敵意がないってことは信用してくれたのかな。
「無詠唱で魔法を使った後の魔力が残り少ないアルタロムさんは私を殺せないのです。」
「な、なんのことかなぁ?」
バレている……。さっきの上級の転移魔法と無詠唱の結界魔法でほとんど魔力が空だ。
空間魔法は苦手なんだよなぁ……。
「でも、私は貴方に勝てないのです。」
「よくわかっているようで。」
さっきの口ぶりからも……さすがに俺が魔王だということは気づかれているよな。
「じゃあ、いくつか聞きたいことがある。
一つ、君は誰の使徒だ?」
とは言っても一択なんだけどな。
「魔王 紫 様なのです。」
想像通り、というかそれしかない。
あいつ以外は人間社会にはほぼ不干渉だし、可能性のあるもう一人は潜入じゃなくて戦争を吹っ掛けるだろうしな。
「二つ、いつから俺の正体に気がついていた?」
「レッサードラゴンの時なの。
貴方がレッサードラゴンを倒したのか半信半疑だったから触って確認してたの。」
レッサードラゴンと戦ったあと異様にイフの接触が多かった理由も想像通りだな。
俺もイフが触ってくる度に異様な魔力を感じていた。
「三つ、どうして俺の詠唱破棄を知っていた?」
「それは遺跡で見たの。」
起きてたのかよ。
まぁ、そのタイミングしかないだろうとは思っていたが。
「四つ、紫達はこの国と敵対しているのか?」
「してないの。」
していない、まぁそうだろうな。
俺たちとは大概理由は違うだろうが、この国の内情を調べてこいとでも命令を受けたんだろう。
「わかったありがとう、もういいよ。」
イフの回答次第だが、 紫 とのコネクションを手に入れられたのは大きいな。
さすがに俺一人であの化け物を相手するのはキツかったところだ。
"あいつら"ならその辺の話を聞いてくれるだろうな。
「あの、今度は私から質問してもいいの?」
「別に構わないよ。」
身構えているように見えるが俺変なこと言ったかな。
「本当にいいの?質問した途端攻撃とかしないの?」
「しないよ!?
そんなことしたら俺が 紫 に殺される。」
俺は一体なんだと思われているのだろうか。
さすがにそんな野蛮人ではない……と思いたいな。
「じゃあ、ザガンさんを殺したのはアルタロムさんではないの?」
「違う。イフでもないだろ?
こんなことをするのはあいつくらいしかいない。」
「……その、心当たりがあるなら教えて欲しいの。」
どうしてそんなことを俺に言うのだろうか。
紫に報告すればすぐに誰がやったなんてわかるはずだ。
それをせずに俺に聞く理由……。
「あるが、どうして俺に聞く?」
シンプルに聞いた方が早いだろう。
イフの言っていることは全て間違っていないはずだが、今の質問にはどこか引っかかる。
答えに詰まるようなら……
「その、紫様は大雑把な方なの。
だから、今回の件も具体的な回答が返って来ていないの。」
想像できた。
あいつはそんなやつだわ。あんなのに振り回されているイフが一気に可哀想に見えてきたな。
「わかった、飽くまで俺の憶測だがそれでもいいか?」
「何も無いよりいいの。」
イフも、今回の事件が他の魔王の仕業だということは勘づいているようだ。
俺に疑いをかけたのもそういう理由だろう。
「魔王 白 だろうな。
王級の空間魔法を使える魔王は例外を除いてあいつ以外いないよ。」
「魔王 白……。わかったの、ありがとうなの。」
なにか思うところがあるようだな。
と言っても、この名前を聞いて思うところの無い生物なんてこの世界にはいないと思うけど。
「次の質問をしてもいいの?」
「いちいち聞かなくてもいいよ。」
さすがに魔王相手だと慎重にならざるを得ないみたいだな。
多分俺でもこうなる。
「アルタロムさんは 紫 様の敵なの?」
当然の疑問だろうな。
この質問が一番に来なかったのは単に忘れていたか、油断していたからか。
どっちにしろ今はそう警戒されている訳ではなさそうだな。
「敵対しているつもりは無いよ。これからもするつもりは無い。」
「それならいいの。でももし、あの方が貴方を殺せというのなら、私は……貴方と戦うの。」
「それでいいさ。」
むしろ、最初に攻撃して来なかったのは指示がないイフ自身の判断だったってことだ。
正直戦いになると考えていたからすごく助かった。
それに、イフに会って頼みたいこともあったから。
「イフ、紫に伝えて欲しいことがあるんだ。」
「……聞くの。伝えるかは内容次第なの。」
「俺と、手を組まないか?」
「なっ、本気なの?」
「本気さ。」
そう、本気だ。この国に来る前から思っていたことだ。
白や赤とは話なんかできないし、敵対するとなれば俺一人の力では遠く及ばない。
「わかったの、聞いてはみるの。」
「助かるよ。」
これで一歩前進と言ったところだろうか。
次はこの部屋にいたザガンを殺したやつをとっ捕まえるために、この部屋にどういった手掛かりがあるか調べるとするか。
「良い結果を待っているよ。」
「あの方に期待はしない方がいいの。」
紫 は部下からボロクソに言われているな。
俺の差し出した手にイフは返そうと手を伸ばしてくれた。
「バン!」
銃声を真似た声が響いたあと、魔力の塊が結界をぶち破りイフの血を空中に散らした。




