32話:アルタロムの仕事
次の実習は俺とフロガとフェルの三人で班を組んでいた。
概要は騎士団と協力して最近エリュシオン付近で複数の村を襲っている野盗集団を壊滅させること。
勇者学園の一年九人全員が急遽参加させられた。三方向から包囲、拘束を目的としているらしい。
「盗賊を見つけたらとりあえず殴ればいいんだよな!」
「そんな物騒な。
俺たちは騎士団が取り逃した残党を捕獲するのが任務だからね。」
こいつはしっかり手網を掴んでおかないとまずいな。
下手に妨害したなんて話になったら処罰されかねない。
「義兄様、何か異常な音がしております。」
「どんな音だ?」
「叩かれる音や、泣き声……ですね。」
「……多分捕まった村の人達だろうな。」
奴隷商にでも売りつけるために連れ去ったんだろう。
もし、騎士団がいなければ野盗全員を生き埋めにでもしてやろうと思う。
(そうそう、今のフロガ君のように般若みたいな顔して……)
「フロガ?顔が怖いよ?」
「あ……?そうか。」
これは、ちゃんと見ておかないと本当に飛び出すな。
フロガは、何か奴隷に対して思うところがあるのだろうか。
「全体止まれ!」
小声で出された指示に俺たちは従い、茂みの中から野盗の物と思われるキャンプを発見した。
野盗共は薄気味悪い笑顔を浮かべながら奪ってきたであろう金の入った袋を見ていた。
「へへっ、いい感じに手に入ったな。」
「いやいや、こいつらを売り飛ばせばもっと金が手に入るぞ?」
野盗が指さした馬車の荷台からはガサガサと物音がしている。
そして、不愉快そうな顔をした一人が乗馬用の鞭を持って荷台に入っていった。
「おいフロガ。変な気を起こすんじゃないぞ?」
フロガは限界に見えた。
拳を握りこんで地面を強く踏みしめている。
止めていなければすぐに飛び出していただろうか。
「フロガ、俺たちは後ろに行こう。」
「……あぁ。」
俺がフロガを宥めようとした時、荷台の中から物凄い衝撃音が響いた。
その瞬間だろうか、何かが切れたかのようにフロガの顔は明るくなった。
「悪いなアルタロム。……俺、無理だわ。」
フロガはそう言い残してキャンプへ飛び出していった。
その行動で騎士団の人達はすごく驚いて、次の行動をどうするかとか言い始めた。
「よぉ!盗賊共!神妙にお縄につけぇ!」
フロガの声は森全体に響き渡ったと思う。
そして、フロガはキャンプにいた野盗に囲まれた。
数十人か、野盗は外に出てきているだけで物凄い数がいて到底フロガ一人で対処できるような数ではない。
「義兄様、私も行ってよろしいでしょうか。」
「良くないと言っても行くんだろ?殺すなよ。」
次いでフェルも飛び出して行った。
「あ?お前まで出て来ちまっていいのかよ!」
「もう関係ありません。あなたが先に飛び出したのですから。」
この状況でもまだあたふたしている騎士団は本当に国を守れるような集団なのだろうか。
「あの二人は勝手な行動をして……。
今すぐ撤退しよう、団長の指示を仰ぐんだ。」
(マジかぁ……)
レッサードラゴンの件から何となく思ってはいた。
どうやら、この騎士団は団長様がいないと何も出来ないようなポンコツ集団のようだ。
「逃げるくらいなら、僕も出ますね。」
「君まで何を勝手なことをする!?」
「だって僕は国を守る騎士になりたいんです。
多少のミスで敵を取り逃がすようなことは決してしたくないのです。」
馬鹿だな、俺は。
騎士団に喧嘩売って命令違反しようとしているなんて。
ここまでやったなら腹括ろう。どうせフロガを見送った時点で処罰されるんだ。
「フロガ!フェル!取り逃してたりしないだろうな!?」
「するわけねぇよ!」
俺が飛び出した時点で既に十人くらいが地面に横たわっていた。
さすがは戦闘力の高い二人だ、俺が出てくる必要なかったかもな。
(さて、俺は殺さない程度に。魔法に専念しないとな。)
「水を司る神よ 我の命に応じ 雄大なる力をお貸しください」
氷矢
とりあえず、馬に乗って逃げようとするやつには片っ端から氷の矢をぶっぱなすとする。
他の方向からも騎士団が突入してくる様子がない。
俺たち三人でどうにかしないといけないらしい。
とは言っても、数が多いだけで実力は大したものではない。
二、三人取り逃しかけたが、さすがに騎士団もそういった部分のカバーはしてくれた。
「くそっ!食らいやがれ!!」
盗賊の一人が死角から俺に向かってクロスボウを放った。
一瞬反応が遅れた。このままだと当たってしまうが、毒が塗られている訳でもなさそうだ。
当たっても急所に当たる軌道じゃない。
避けて他のやつに当たるよりこのまま受けた方がいいか。
「アル!危ねぇ!!」
"ドンッ"
フロガは庇うように俺を突き飛ばし、頭にクロスボウの矢を受けた。
ただ、フロガに当たった矢は弾かれて地面に虚しク金属の音を響かせるだけだった。
「痛ぇなぁ……。」
ホーンラビットの角でも貫けない皮膚のおかげで致命にはなっていないようだが、傷は着いたようで頭から血が垂れている。
本来ならば血の流れたフロガを一番に心配するのが自然だろう。
だが、今はちょっと違う。
「フェル!落ち着け!!」
フェルの手刀がクロスボウを放った男の顔と紙一重の位置で止まり、
フェルは全身を震わせて荒い息を吐いている。
「すー……はー……。」
震えるフェルは一つ深呼吸をすると、動くことの出来なかったクロスボウの男を蹴り倒してこちらに振り返ってきた。
「ご迷惑をおかけしました。」
「問題ないなら戦線に復帰しろ。
ただし、少しでも違和感を感じたら下がれ。」
俺たちの会話を何も理解していないフロガは首を傾げる。
そりゃ、こんなほぼ完璧超人なフェルが、まさか獣化をコントロール出来ないなんて想像できなくても当然だろう。
それからは何事もなく事が進み……
「これで、粗方片付いたかな?」
襲ってくる盗賊の数が減り、当たりを見渡すと大半の盗賊は倒れ戦闘不能になっていた。
今更になって騎士団は茂みから出てきて野盗を高速し始めた。
「アルタロム・ダレス、フェル・ダレス、フロガ
君たちは命令違反で拘束させてもらう。」
盗賊の拘束が終わるとこれだ。
何もしていなかったこいつらがよくも最後にそんなことが言えたものだ……。
いっそ、全員に地獄を見せてやろうか。
「はいはい、ちょっと待てよ。」
低く疲れが感じられる声が割って入った。
「団長!?どうしてもこんな所に!?」
「そりゃ、お前らが呼んだからだろ。」
アーサーか、さすがに無の勇者がいる場で下手なことは出来ない。
仕方がない、ここは一旦命令違反の罰を受け入れるしかないだろう。
「とりあえず、お前ら無罪な。
そこの銀髪の獣人と黒髪のモヤシはちょっとツラ貸せ。」
アーサーは俺たち三人を指さして無罪だと言った。
なのに俺とフェルを呼んで一体何の用だ。
(まさか、俺が魔王であるとバレたのか……?)
騎士団員からの反対を押し切り、俺たち三人は無罪放免。
俺とフェルは団長の部屋に案内された。
「いやぁ、こんな時間だってのに呼んじまって悪いな。」
近くでよく見ると、アーサーの顔色が悪い。
顔に薄い隈があるし、多少やつれている。
「あの、騎士団長殿が我々に一体どのようなご要件でしょうか?」
「ん? いや、知り合いのガキに挨拶しておきたくてよ?
それに、お前には個人的にレッサードラゴンの話を聞きたくてよ。」
知り合いというのはエルのことだろうな、それにレッサードラゴンについては話しただろう。
この男の考えはどうも読めない。




