28話:魔王と王女
俺とクリムの二人は影の示した位置まで、迷宮の中を進んでいた。
ここにいる魔物はそこまで強くない。
学生が対処する迷宮としては苦戦するだろうが、王の魔法が使える状態であれば多少多くても蹴散らしながら進むことが出来る。
「あの、アルタロム様。
貴方は本当に魔王なのですか?」
「そうだよ、実際に魔法を見ただろ?」
「ですが、魔王は多くの魔人を従える王……貴方とは似ても似つかないです。」
まぁ、俺にとっては「魔人を従える?何それ美味しいの?」って感じで、威厳なんてなくて当然と言えるか。
「魔王と言っても俺は便宜上魔大陸の一部を統括しているというだけでほぼ不干渉だからね。
ただ、俺の領土は殺しも奴隷も、略奪も禁止しているから人間社会とそう変わらないと思うよ。」
魔王は領土の民に対して命令を下せる。
どういった原理かは知らないけど、法律を作ったりすれば領民は疑ったり不満を持つことなくそれに従ってくれるから、魔王が魔人を従えると言うのは間違ってはいない。
「あの、アルタロム様はどうしてこの街に来たのですか?」
「……父の目的を知るためかな。」
「アルタロム様のお父様ですか?」
父は俺が五つの時に失踪した。
その日から俺は父が使っていた 操影 の力を使えるようになったから、多分父は死んだんだろう。
"王の力は死んだ場合、殺した相手に移動する。"
俺は……この世界の父を殺したのかもしれない。
「お父さんはね、アルにその力をあげる方法を見つけたんだよ。」と、エルはそう言って否定していた。
父は何を目的としていたのか。
魔王でありながら勇者と結ばれ、奴隷を解放し続け、決して略奪をしようとしなかった。
そして、他の魔王から必死で人間社会を守ろうとしていた。
エルの故郷であることを含めても魔王が無償でそんなことをするとは思えない。
エルも、まだ俺たちに隠していることがある。
きっと父の本当の目的は守ってきていたこの人間の社会にいればわかる。
俺は少しでも父の考えを理解したい。
それ以上になにか理由がある訳でもない。
ただ、俺が知りたいというたったそれだけの話だ。
「アルタロム様?」
「ごめん、考え事をしていた。
なんの話しだったっけ?」
「いえ、なんでもありません。」
なんだろうか、彼女から「私は全部わかっていますよ」みたいなオーラが出てる。
(この子の自分勝手に解釈するところ、悪い癖だよなぁ……。)
「言っておくけど、俺の父も生前は魔王だったんだよ。」
「そうなのですか?
魔王はこの数百年変わっていないと聞いていたのですが。」
「まぁ、そうだね。
俺が父からこの能力を受け取ってから十年しか経ってないし。
黒は何もしないって言われているから知らなくても当然なんだろうね。」
父は魔王として表立ってこの国を助けたことは無い。
正にこの能力のように、影から支えてきていたようだ。
「アルタロム様?今更ではあるのですが、そのような話をしても良いのでしょうか?」
あ、しまった。
聞かれたから色々と言ってしまったが、人に話すような内容じゃない。
「……忘れてくれ。」
「ふふっ、やっぱり貴方は甘い人ですね。
本当に、魔王になんて見えません。」
女子高生に間抜けって言われている。
「そうだよ、どうせ俺は従者にも勝てないようなポンコツですよ。」
「ふふっ……、私の名はフィーアと申します。
"フィーア・エル・エリュシオン"
釣り合うとは思いませんが、これでおあいこですね。」
「え、急に何を言い出すの?
というか待って、フィーアって現国王の一人娘の名前じゃ?」
「はい。」
「はい。」と言ったな。
さっき国王のこと父って言っていたから予想はしていたが、王女様のようだ。
「アルタロム様、先程の話考え直してはいただけませんか?
きっと、この国を取り戻せたら貴方のお父様の目的とやらもわかるかも……」
「有り得ないよ。」
(やっべ、王女様のお誘い食い気味に断った感じになっちゃった。)
だけど、そんなこと実際有り得るとは思えない。
「……おほん。
たしかに、俺の父について知れるいい機会かもしれない。
だけど、君の言う奪還となれば騎士団との戦闘は避けられない。
国民一人を救うために自殺までしようとした君が、国民を死なせるようなことするんじゃないよ。」
「そう……ですか。」
この子の言っている方法じゃ、俺一人が味方に着いたところでまず勝てない。
騎士団長をしている男、無の勇者 アーサー 。俺は彼の相手で手一杯になるだろう。
そうすれば他の騎士団員にこの子は捕まって縛り首にされる。
血の流れない方法であれば協力はしたいが、現状じゃ絶対に無理だ。
だが、時間をかければケルスが精霊を使いこなして風の勇者に選ばれるだろう。そうなれば完全に勝機を失う。
「詰みかなぁ。」
「何がですか……?」
「あ、ごめん なんでもないよ。」
やばい口に出していた。
すごく不安そうにこっちを見ている……。
そりゃそうだよね、魔王に詰みって言われたらそりゃそんな顔にもなるわ。
どうにか、この子を俺の領地に連れていくことは出来ないものだろうか。
現状の戦力差なら絶対に勝つことなんてできない。戦力が集まるまで俺の領地で保護して置かないと無力のまま突っ込んで処刑されそうだ。
「はぁ、みんなの言う通り俺って甘いのかもしれないな。」
「それじゃあ、引き受けてくれるんですか?」
「それはダメ。」
クリムが頬を膨らませている。
普段は敬語だったりキッチリしてる姿を見てるから、こんな姿を見るとなんだか新鮮で面白い気分になるな。
「なんなんですかさっきから。
やらないと言っているのに期待させるような雰囲気を出して、冷やかしているんですか?」
「冷やかしてなんてないよ。」
振り回して申し訳ないとは思うが、現状ではこの子の言っていること自体が本当なのかどうかも分からない。
(まずはこの子の周りから調べてみるとしよう。)
俺とクリムはしばらく歩いて守護者のいる部屋のでかい扉の前に立っていた。
何をするにしても、まずはイフを救出することが先決だろう。
とりあえず、先のことを深く考えるのはやめる。
都合の悪いことは誤魔化せばいいのだから。




