27話:影の王
なんで俺は高校生くらいの女の子に土下座されているんだろう。
「あのさ、そんなことされても俺に貸せる力なんてないし頭を上げておくれよ。」
無反応ですね。
声をかけようと、肩を揺らそうとも全く聞く耳を持たずに土下座したまま。
(まぁそうですよね、人の話聞かずにいきなり土下座してくるような子だもんね。)
「我々の目的は、この国の奪還でございます。」
急に語り出したよこの子。
話受けなきゃいけない空気にしようとしてないか。
「って、"奪還"?
一体何から取り返そうって言うんだ?」
「現国王……いえ、現国王を操っている何者かからでございます。」
国王が操られていると言ったな。
それが本当なら大問題だ。騎士団が動かないはずがない。
「仮にそうだとして、どうして君がそんなことを知っている?」
「そうですね……それは見せた方が早いでしょう。」
クリムは布を取りだして髪を拭き始めた。
すると、クリムの金色の髪の下に鮮やかな水色の髪が現れた。
「水色……なるほどね、確かにその色は王族の色だ。」
「はい。」
具体的に何を使っているかなんてわからないが、特殊な染料で髪の毛の色を変えていたのだろう。
元の色に戻すにはあの布が必要という感じか。
「それで、なんで王族の方が身分を隠してこんなところに来ているんですか?
お国を取り戻したいと言うのなら貴女が騎士団に報告すれば騎士団は動くはずでしょ?」
「……いいえ、今の私に騎士団を動かせるほどの権力はありません。」
できるならばやっているだろうな。
それが出来ないということは、証拠が揃っていないか騎士団もグルか。
「父……国王を操っている何者かと、賢老は繋がっております。
そうでなければ本来結界に守られている父が簡単に操られるなどとは考えられません!」
興奮気味に頭を上げ訴えてきた。
(賢老……確かこの国の御意見番みたいな立ち位置にいる七人の賢者だっけ。)
確かに、エルから聞いていたこの国の国王の印象とエリュシオンの街の印象が微妙に違っていた。
なんだか胡散臭い話だとは思って聞いていたが、この国のお偉いさん方も絡んでるとなれば少しは信憑性が出てくる。
「我々はまだ力がありません。
どうかお願いします!我々に力を貸してください!」
また頭を下げた。今度は顔面を地面に擦り付けて。
女の子がそんなことをしたら顔に傷がついてしまうだろうに、それだけ必死なんだろう。
だけど、俺にはどうしようもできない。
「すまないが、本当に俺にはキミが求める様な力は無い。」
「……わかりました。」
考えていなかったが、話を聞いたから殺しますなんて言わないだろうな。
面倒事は勘弁して欲しい。
「では、イフさんを見つけてすぐに帰るとしましょうか。」
「え、いいのか?」
「これだけお話してもお力添えはいただけないのでしょう?」
そりゃそうなんだけど、ここまであっさりと引き下がられるとこっちも調子が狂う。
「とは言っても、イフを見つけるのは難しいだろうな。」
「では早くこの迷宮を攻略しましょう。
そうすれば彼女も迷宮の外にテレポートするはずです。」
「俺たち二人でこの迷宮を?
それは無理だよ。」
「貴方なら一人でもできるでしょう?」
「だから、そんな力は無いって言ってるだろう。」
(人の話を聞かないなぁこいつも……。)
とは言っても、確かに俺ならこの迷宮の攻略は可能だ。
だけど、国からはレッサードラゴンの遭遇者というだけで危険視されている現状でそんなことをしたら疑いの目はますます強くなる。
「変なことを言っていないで、早く落ちてきた穴を見つけるよ。
そこまで行けたら魔法で飛び上がって脱出できるはずだ。」
「そしたら、イフさんはどうなってしまいますか?」
「……多分助からないだろうな。」なんてことを言えばこの女は間違いなく「助けてくれ」と言うはずだ。
俺にそんな義理はない。
可哀想だとは思うが、この学園に来て迷宮に入った時点で命の危険が付き纏うのは覚悟してきているはずだ。
「騎士団が来ればきっと助かる。
だから俺たちは急いで帰還しなきゃいけないんだ。」
「嘘、ですよね。
我々にはブレスレットがない。空間魔法で転移するのにも時間がかかってしまいます。
それから騎士団が来たとしても間に合うわけがありません。」
さすがに王族、簡単に誤魔化せるような相手ではない。
だとしてもどうすればいいのだ。
学生にできる限界なんてそのくらいしかない。
「万が一にもイフと合流出来る可能性だってあるんだ、出口を探すのが最善だろう?」
「いいえ、助けられる命を見捨てて逃げることは最善ではありません。」
見捨てるという言い方……いや、事実だ。
俺はイフを見捨てようとしている。
「私がいるから、貴方は力を使おうとしないのですか?」
あんまり変な気を起こさないで欲しい、どうせ「私は隠れていますので彼女を見つけてください。」とでも言うんだろう。
確かに俺には彼女を探し出せる能力はあるが、あったとしても隠れた程度でそんな能力使うわけが無いだろう。
「私が居なくなれば……助かる。」
(え、なんで短剣を持って……?)
「おい、それを一体どうする気だ。」
俺の予想は完璧に的中し、彼女は迷いなく自身の首に短剣を突き刺そうとした。
「……っ!」
影の触手
俺の影が触手のように伸びて、彼女の短剣を弾き飛ばした。
「はぁ、はぁ……っ!」
震えて動けなくなるくらいならこんなことをしないでくれ。
咄嗟のことで影を使ったが、終わった後に拘束や催眠の魔法を使えばよかったと後悔してる。
「何してんだよ。」
「貴方一人であれば彼女を助けられると……」
確定している情報なんて一切ないのに躊躇いなく自分の首を刺せるだろうか。
自分の信じたものは疑わない。明らかに異常者だ。
「それに、貴方はこういった場合には力を使ってくださると信じておりました。」
「やかましい。
俺が力を使わなかったらどうしていたんだよ。」
「その時は私が死んで貴方が彼女を助けてくださるでしょう?」
「いや、俺が一人で帰る可能性があっただろ。」
なにが「あっ」だ。本気で考えていなかったのだろうか。
(本当に……馬鹿なんだなこの女。)
「まぁ、この力を使っちゃった以上君を野放しにしておく訳にはいかないんだよね。」
影の狼
俺の影の一部を切り取って狼の形にした。
影の狼はクリムの影に入り込み、俺の命令の待機状態になった。
「いいか?
君がもし誰かに俺達のことを言ったり伝えたりすれば、君の影の中にいる狼が飛び出して君の首を噛みちぎる。
それが"魔王"に力を使わせた君への代償だ。」
「貴方が魔王ですか……?
わかりました、誰にも伝えません。」
あんまり怯えている様子はないな、さすがにこれがハッタリではないことは理解しているみたいだけど。
「ま、まぁいいや。
兎に角、イフのことを探せばいいんだろう?」
影の狸
狸を模した姿の細かく分裂させた影を大量に作り出し、迷宮の至る所に放った。
「あの影がイフを見つけたら動き出す。
もし手遅れだったとしても文句を言うなよ。」
「はい。」
狸は個々で意識共有が行われている。決して仲間同士で鉢合わせることはなく、広範囲の探索には打ってつけだろう。
ただし、狸の個々の戦闘能力は高くない。
強力な魔物が居ないことを祈るしかないだろうな。
「居た。」
イフを発見した。
狸は対象を発見するとその場に溶けて俺の影をその場に残す。
三匹以上の狸が俺の影を残した場所には影移動が可能になるが……、最初に溶けた一匹以降なにかに破壊され続けている。
「なにか強い魔物が居るな。
同じ場所に留まっているということは守護者か。」
イフの居る場所までは他の場所から向かうことは出来ない。
つまり、イフと合流するには守護者を撃破する必要があるということみたいだ。
「少なくてもイフは生きている。けど、イフを助けるためにはどっちにしろ守護者を倒す必要がありそうだ。」
「行きましょう!」
そうなるだろうとは思っていた。
どうせここまで来たなら最後までやってやる。
(何か、良い言い訳を考えておかないとな。)
俺とクリムの二人はイフの救出のために歩き始めた。
この女と一緒にいると先の事が不安になって来るが、今はイフの救出が最優先か。




