26話:都合の悪いことは惚けられない。
遺跡の中に入ると、魔力が満ちていた。
この濃さなら攻略は難しくは無さそうだ。
警戒はしておくが、二人に指示を出して迷宮の攻略を開始してもいいだろう。
「確実に迷宮になっているけど、遺跡の中に魔物がいないね。」
「そうなのです、なんだか暗くて不気味なのです。」
ここまで魔物が出てこないのは明らかに不自然だ、なにか気づいていないことがありそう。
「この先に明かりが見えませんか?」
「明かり?」
廊下の先を見ると確かに赤やオレンジ色の明かりがゆらゆらとしているように見える。
明かりのある場所まで着くと、そこは少し開けた部屋があった。
「おかしいな、道がここで途絶えてる。これじゃあ本当にただの遺跡だ。」
「隠し扉か何かがあるかもなのです!」
隠し扉か、確かにその可能性はありそうだな。
「手分けして探そうか、何かあったらすぐに俺の傍に寄ること。」
「はいなのです!」
間違いなくここで終わりなんてことは無い。
なんだか嫌な予感がする。
「きゃぁ!?」
「クリムさん!?」
クリムの悲鳴に慌てて視線を向けると、視線の先ではもう既にクリムの姿は消えていた。
(クリムが消えた?どうして。)
クリムが調べていたのは部屋の角、足元は苔が生えている。
(まさかあの苔……)
次の瞬間、部屋の床は崩れ、俺とイフはバラバラになって落とされてしまった。
次に目が覚めた時、辺りは真っ暗闇で相当深くまで落とされたようだった。
魔力密度が濃い……明らかに学生が三人で攻略するような難易度ではない。
多分遺跡は迷宮にはなっていなかった。
もし正確に言い直すならば、遺跡の下に迷宮が生成され、迷宮の魔力が漏れ出ていたということなのだろう。
「こんなところに二人を放置できないな。
炎の神よ 我の命に応じ力をお貸しください」
火球
手のひらに火球を出現させるとある程度周りが明るくなった。
魔力を安定させておくのはすごく苦手だから長い時間は炎を出現させてはおけないだろうが見えないよりはマシだ。
「やだ!来ないで!」
クリムの声が辺周辺に響き渡った。
距離はここからあまり離れていない。
走ると思ったよりもすぐにクリムのことを発見したが、なにかに襲われている。
火球を発射し、クリムに襲いかかっている魔物に命中させた。
(変な方向に行かなくてよかった……。)
「大丈夫?クリムさん。」
「アルタロム……さん?」
クリムは俺に気づくとホッとしたようで、肩を下ろした。
「炎の神よ 我の命に応じ力をお貸しください。」
火球
再度明かりをつけると、クリムは足を怪我していた。
落ちた時にどこかに引っかけたか、それともさっきの魔物に襲われたからか。
少なくても暗闇で逃げれないのはさぞ恐ろしかっただろうな。
「上で何が起こったんですか?」
「あの部屋、突然床が崩れて三人とも下層に落ちちゃったみたいだよ。
ここは魔力が濃いし、多分ここはまだ発見されていない迷宮だ。」
「イフさんは?」
「まだ合流できてはいないよ。」
この子は、状況の飲み込みと判断能力が高いみたいだな。
自分の怪我よりも状況把握を優先して俺に質問してきた。
「それよりも、傷口をよく見せてくれ。」
「あ、はい。治していただけませんか?」
治してくれないか?とは、謙虚な子だ。
治癒は誰かにしてもらわないと治せない。
こういった状況になれば「治してくれ」とか、人によっては「治せ」と命令してくるのに。
「生命の神よ 我の命に応じ力をお貸しください。」
治癒
治癒をかけると、クリムの足の傷はすぐに回復した。
よかった、あんまり深い傷ではなかったようだ。
「流石ですね、生命魔法を使いこなしているとは。」
「そうでも無いよ。魔法の精度はフェルの方が上だ。」
「謙遜をなさらないでください。
レッサードラゴンを倒せるような人がそんなことを。」
「いや、あいつはこんな魔法じゃビクとも……今なんて言った?」
カマをかけられたみたいだが、急なことで惚け損なった。
これは、やばいかもしれない。
「二人きりになれるタイミングを伺ってはおりましたが、まさかこうも都合よく二人きりになれるとは。」
あ、やばい。この子危険な香りがしてきた。
「アルタロムさん……あなたは一体何者ですか?」
今後も勇者学園にいるために殺す訳にもいかないし、とりあえず誤魔化せるところまで誤魔化そうか。
「俺はアルタロムだよ。ダレス家の長男。」
「惚けないでください。
レッサードラゴンの死骸はもう既に発見されているのですから。」
絶対にそんなことはありえない。
今俺の屋敷にあるからだ。俺の屋敷は今は俺以外に入ることが出来ない。
この子ブラフを張ってきた。それも結構な賭けだ。
一体何が目的で言ってきているんだろう。
「君さ、変な事を言わない方がいいよ。
もし俺があんなのを倒せる人なら、二人きりでそんな話を振ったら殺されちゃうよ。」
俺が何を言おうがこの子は疑いの目を変えたりしない。
これ以上の言い訳は無意味だろうか。
「そうですか、ならばフェルさんに直接聞くとしましょうか。」
「フェルに聞いても同じ返答だよ。」
「いえ。
拷問すれば惚ける余裕も消えるでしょう?」
フェルが捕まるわけが無い。
あいつは決闘なら俺よりも強いし、俺よりも容赦がない。
だけど、その言葉は禁句だよ。
「お前……脅す相手を間違えるんじゃないぞ?」
軽く殺気を放っただけで怯んだ。
やっぱり命を賭けるつもりなんてない。軽率にそんなことを言っても俺が手を出さないと思っていたようだ。
舐められたものだ。
「先に言う。フェルは簡単に捕まるようなやつじゃない。
仮に、お前がフェルを捕まえられるような集団と手を組んでいたとしたなら。
今から拷問を受けるのはお前だ。」
これだけ脅せば、自分の愚行を理解するだろう。
「……はい。わかっています。
彼女を捕まえるなんてできませんし、レッサードラゴンの死骸を見つけたことも嘘です。」
(全部バラした……?)
急に手の平を返すように正直に話してきた。
更に目的が分からなくなった。
「よくわかりました。
あなたは素晴らしい方です。
アルタロム様、どうか我々に力を貸していただけませんか?」
その上、勝手に一人で納得して急に土下座までしてきた。
(一体なんなんだこいつは……?)




