23話:想定外
ホースが逃げ出したアースドレイクを追っている間、俺とイフは他のアースドレイクの死骸の解体をしていた。
「こういうのは苦手な人が多いのに、イフは平気なんだな。」
「私はこういうのには慣れているのです。」
カリスとは毛色が違うが、俺はイフとも共通点が多い。
いや、イフはテキパキと解体するのに対して俺はすごく遅い。イフの方が優秀なのだろう。
「アルタロムさん、ホースさんが戻ってくるの遅いのです。」
「そういえばそうだね。アースドレイク一匹にホースが時間をかけるとは思えないけど……」
"ドォォォォォン"
物凄く大きな音が森中に響き渡った。
地面は大きく揺れて、森がざわめいている。
地震という訳では無い。何かが爆発したような音と衝撃だ。
一体何が起こったのか、そんなことを考えている余裕は俺にはなかった。
「お前たち!すぐに逃げろ!」
ホースが森の奥から走ってきた。
焦っている様子で何かから逃げている。
「ホース!何が起こった!?」
ホースは俺の質問に答えることなく、イフにブレスレットを投げつけてきた。
「すぐに帰還しろ!」
どうしてそんなことをしたのか、直後俺たちは嫌でも理解した。
天空の雲を裂いてレッサードラゴンが現れた。
ドラゴンはドレイクの上位種だ。
たった一体で五分も経たずに街を焼け野原にできるような化け物。
劣等種とはいえこんな森にいるなんて考えもしていなかった。
「イフ!すぐにブレスレットをつけろ!
ホースは速くこっちに来い!」
ホースは逃げようとしない。俺たちにブレスレットを渡した後自分はレッサードラゴンに向かって行った。
「もういい!イフ!手を叩いてくれ!」
「え、でも……」
「いいから早く!」
早く転移しないとここにいる全員が殺される。
誰かが戻って騎士団に報告しないと街だってなくなる。
「……二人は騎士団に報告しておいてくれ。」
だから最善は、俺が残ることだった。
ホースをイフに投げ飛ばして二人が転移したのを見届けると、俺は木々の陰に隠れてレッサードラゴンの視界から外れた。
───そして今に至る───
(小説でいえば二十一話の冒頭ってところかな。
なんて、変なこと考えている場合じゃないわ。)
こんな状況になったんだ。
少しくらいリミッターを外しても罰は当たらんよね。
豪炎球
木の陰に隠れながら隙を見て
勝算はないでもない。というか、俺がやろうと思ったら小型のこのレッサードラゴンなら確信を持って勝てる。
"グォォォォ"
(うわっ!ブレスの準備してる!)
今回は仕方がないだろう、隠しておいて勝てる相手ではない。
フェルには怒られるだろうな。
次の瞬間、真っ赤な炎が俺を包んだ───
ように見えるだろう。
影の触手
影で出来た物凄く太い十本の触手が、レッサードラゴンの全身を拘束した。
どうやって無事に逃げたのかって?
ただ、炎のブレスで出来たドラゴンの死角に影移動で転移しただけだ。
影移動は影の中に飛び込んで、魔力を込めた影で作ったマーキングの位置にテレポートする魔法。
通ってきた道には俺の影のマーキングがしてあるからね、どこへだって転移できる。
「さて、ドラゴンさんや。
この影は簡単には引きちぎれないだろ。」
『操影』は王級の特殊魔法だ。
純血のドラゴンとか王級の化け物なら破壊できると思うが、このレッサードラゴンは小柄。時期的にも恐らくまだ巣立ったばかりだ。
魔力を練った影の触手は劣等種のひよっこに引きちぎられるほどやわな耐久はしていない。
当然レッサードラゴンは暴れ回るが、そんなことをすれば体力を消耗するだけ。
翼に触手を絡めて飛行能力を失わせて墜落させてお終い。
「正直、殺生はしんどいんだけどね。君たち野生の魔物はどうしても人間の害になる。
すまないが、この魔王"黒"が君の命を奪わせてもらう。」
首に回した触手を締め付けると、レッサードラゴンの首は地響きを起こして地面に落ちた。
(思っていたよりも呆気なかったな。)
もう少し成長していたり、劣等種ではなく属性持ちのドラゴンだったらもう少し苦戦をしていただろう。
地形の変化と、影の使用を最小限に抑えられた今回は幸運だったと考るべきだ。
そうなると次に問題なるのは、このドラゴンの処理だ。
物音を聞いて妖精族の人たちが集まってくるだろうし、見つかったら言い逃れなんてできない。
急いでどこかに隠さないといけない。
だが、こんな大きさの死骸を持ち運ぶなんてことはまず無理だ。
多少魔力は食うけど影移動でとりあえず屋敷に送るのがいいか。




