24話:ホースの決断
※このお話はホースの視点です。
気がつけば俺と黒髪の女は寮に戻っていた。
「あれ……アルタロムさんが居ないのです!?」
黒髪の男の方がいない。
後ろから何かが俺に絡みついて、気がついたら後ろに飛ばされていた。
そしてあの時、黒髪のあの男は俺と入れ替わるように前に出ていた。
「ホ、ホースさん!急いで先生に伝えなきゃなのです!」
「伝えるのなら騎士団の方がいいだろう。」
「あ、そうなのです!!」
慌てていてこの女は使い物にならない。
あの男は俺よりも弱かった。
時間稼ぎにもならず、すぐに死ぬだろう。
(そうすればこの街もすぐに……)
「おい女、お前はすぐに騎士団に報告しろ。」
俺は駆け出した。
すぐに向かわなければ、この街は滅ぶ。
俺の足ならば十、いや五分で街の外壁につける。
ドラゴンもあの集落を破壊してから来るとしても五分では街に着くことは無い。
せめて俺に意識を逸らすことができれば街に被害が出ずに済むか?
楽観は消して許されない。だが今はそう願わせてくれ。
街の門に着いた。
まだ空の彼方にはドラゴンの姿は見えない。
あの周辺には集落や村が多かったのだろうか、いや、今日見て回ったがそんな様子はなかった。
昔に見た時よりも数は少なくなっていた。
俺が想定より早くここまで来ていたとしてもすぐに来ないとおかしい。
それからいくら待ってもドラゴンが来ない。
一度は騎士団が集まってきた。
「全然来やしねぇな。」
「嘘だったんじゃねぇの?」
疑いの声が聞こえる。事実であるのにだ。
こいつらは危機感がまるでない。
「あんまりふざけたことを言ってんじゃねぇぞ?」
騎士団長 アーサー こいつだけは油断のならない相手だ。
しかし、我々の計画を果たすのにこの男は確実に障害となるだろう。
「あれ、お前どっかで見たような……。」
勘づかれたか。
いや、それは決してありえない。
魔法やマスクで擬態している訳では無い。本当に顔を変えているのだから気づかれることなんて消してないはずだ。
「こんなとこにいるわけねぇか。
悪い、気のせいだったみてぇだわ。」
(やはり、この男は油断ならない。)
しばらくして、騎士団長がドラゴンは来ないと決定するや否やすぐに帰還して行った。
俺は昔からこの騎士団の考え方が嫌いだ。
騎士団長に思考を任せ、自分たちは思考を放棄する。
その騎士団長が国の操り人形だったとしてもそれに気づかない。
日が暮れ始めてもドラゴンが来ることはなかった。代わりに戻ってきたのはあの黒髪の男だった。
「あ、ホース。どうしてこんなところにいるんだ?」
「ドラゴンはどうした。」
「あぁ、ドラゴンは発光弾を何発か投げたらどこか逃げて行っちゃった。
戻ってこないといいんだけどね。」
嘘だ。
血の匂いがする。この男の血の匂いじゃない。
この男は最初から発光弾なんてものは持ち合わせていなかった。
この男はたった一人であのドラゴンを殺したのだ。
「さ、帰ろうか。」
「……あぁ。」
帰還するまで、この男は飄々とした態度を一切崩すことはなかった。
下らない話を繋いでこちらに話しかけてきた。
「ホースって馬の獣人だよね、持久力や脚力以外にどんな感覚が優れているとかってあるの?」
「目。」
俺は意識せずとも後ろまで視認することが出来る。
こんなことを聞いて一体何が楽しい?
なぜこんな話をすることが出来る。
「わぁぁ!アルタロムさぁぁぁん!」
帰還すると黒髪の女が男に抱きついた。
「うわ、どうしたんだイフ!?
あーあ、顔ぐちゃぐちゃにしちゃって。
ほら、このハンカチ使って拭いて。」
子供を宥めるように落ち着いて女の頭を撫でている。
"なぜそんな落ち着いていられる。"
"なぜそんな余裕を持っていられる。"
決まっている。この男が強いからだ。
今は感じられない、だが確かな強さをこの男は持っている。
この男とは、絶対に敵対してはいけない。
「アルタロム・ダレス、よく帰還した。
貴様には聞かねばならぬことがある、私について来てもらおう。」
あの男は教師に連れていかれた。
間の抜けた騎士団に事情聴取をされるのだろう。
あんな騎士団であればあの男の作り話にも騙されるはず、俺は決して騙されることは無いが。
すぐに部屋に戻って"あの方"に伝えなければ。
そして、あの男……いや。
アルタロムを我々の計画に協力させるのだ。




