22話:討伐依頼
とにかく問いただしに行こう。こんな危険な依頼は受けられないし先生にも断りに行かないといけない。
「アルタロムさん、早く準備しなきゃなのです。」
「はい?イフ、何を言っているんだ?」
「依頼は一回受けたら断れないのです。
それに、多分ホースさんはもう向かっていると思うのです。一人で行かせたら危ないのです。」
ホースは向かっている可能性がある?
あぁ、そうだよな。魔物を意に介さず突っ込んで行くって言ってたもんな、準備するなんてしないかもな。
「見捨てる訳にも行かないか……。
イフ、転移の魔法陣を買ってすぐに向かおう。」
俺とイフはとりあえず、走って売店を巡りつつホースを追った。
先の計画はあんまり立ててない。
食堂の話から、道中で話したのは俺が前に出てイフは後ろで魔法を使って欲しいということだけ。
本当に、自分勝手なヤツは手間がかかる。
「ホース!」
俺が声をかけるとホースは振り向いて俺たちの方を向いた。
イフの予想通りホースは依頼のあった森の手前まで着いていた。
「なんで勝手に依頼を受けた!
それで、なんで一人で向かっているんだ!」
いきなり説教みたいになってしまった。
いや、でも俺間違ったこと言ってないと思う。
「黙れ。」
真顔で一蹴された。
(え、嘘でしょこの子。
一人で勝手なことして迷惑かけたってのに、黙れですって?)
「あんまりふざけたこと言ってるんじゃないよ……?」
「俺の邪魔をするな。」
(あ、ダメだこいつ!話が通じるようなヤツじゃねぇ!)
「わかったのです。邪魔はしないからついて行きたいのです。」
(あら、イフちゃん優しい子……。)
本当にいい子だ、こんなお話通じない奴に寄り添って上げてるんだもん。
「黙れ。」
(こいつ一発ぶん殴ってやろうかな。)
人が話してんのに黙れの一言で済ませようとするんじゃないよ。
イフのこと無視して先に行ってんじゃないよ。
「アルタロムさん、行こうなのです……。」
(泣いちゃった!)
健気だ、涙目になりながら追っかけようとしてるよ。マジで偉いこの子。
その後も、どんどん先に行ってしまうホースの後を俺とイフは少し離れた位置で歩いていた。
「あいつ、何のつもりだろうな。」
「きっと何か事情があるのです、私たちはホースさんの邪魔をしないように依頼を成功させるのです。」
この子は聖女なのだろうか、後ろに後光が見えてきた。
さっきは暗いやつなんて思っていてごめんなさい。後光が強すぎて見えなかっただけでした。
「アルタロムさん、なにか見えてきたのです。」
イフの言う通り、少し先に何か見え始めた。
妖精族の集落だ。
森の中にあるこの集落から今回の アースドレイク 討伐の依頼がされている。
「このような危険な依頼を受けていただきありがとうございます。」
集落に入ると、妖精の女性が話しかけてきた。
「御託はいい、さっさと連れて行け。」
「失礼だろ!」
女性の名前は”アリア”というらしい。
アリアは案内をされている間に色々と話を聞かせてくれた。
高齢で外に出ることもできなくなってしまった集落の長の代わりに孫の彼女が依頼の案内役になったんだそう。
若いのに大変だなぁ。
「ここは?」
「最後にドレイク共を見た場所でございます。」
案内された場所は明らかに壊された痕のある廃墟や、 妖精の死体が並んでいた。
「この村は奴らに襲われて、為す術もなくやられてしまったのです。」
妖精は地と生命魔法を得意とする種族だ。
種族特性と言うべきか、他の魔法を使うことが出来ず、こういった強力な魔物相手となると対処ができない。
だから他の種族に討伐を依頼することはよくある。
そういえば、この村の大きさに比べて死体の数が少ないように感じる。
「あの、失礼ですこの村の住民の方は?」
「全員殺しました。」
殺したのか、ドレイクが妖精族を食べるという事例は聞いたことがなかったから、死体は処理されたのだろう。
「え、待って”殺した”といいましたか?
”殺された”ではなく?」
「はい。彼らは我々に助けを求めてきましたが、幾分我々も困窮している身。
彼らは死んで植物となり、我々が食すことで新たな命が生まれるのです。」
想定外の回答に呆気にとられてしまった。
罪悪感なんて無さそうな顔で、同族を殺して食ったと言っている。
他種族である以上価値観が違うのはわかっていたがこれほどまでとは。
イフも俺と同じような反応だ。
「それで、アースドレイクはどこにいる。」
「ドレイクは群れを成して生活する以上多くの食物を必要とします。
この周辺は食物が豊富ですから、まだ移動はしていないと思われます。」
言われてみればこの周りは草が生い茂っていて木には果実が多く実っている。
これも元妖精族なのだと考えると、なにかが化けて出てきそうで落ち着かないけど。
「ア、アルタロムさん。ちょっと傍に居て欲しいのです。」
イフが俺の腕を掴んで震えている。
こういうのは俺も苦手だからよくわかるのだが……
イフちゃん、握る力が強いですよ。折れちゃうからもっと抑えてください。
”ガサガサ”
なにかが音が聞こえる。
「なにか近くに来ている!数は……五、六体!」
俺が声をかけると、ホースは即座に草むらに突っ込み、イフと俺は臨戦態勢に入る。
「イフはアリアさんを守って!」
俺は魔法でも剣でも戦える位置を陣取る。
しばらくしていると、ホースがアースドレイク五匹を連れて草むらから出てきた。
「水を司る神よ 我の命に応じ 雄大なる力をお貸しください」
水飛沫
大量の水球を空中から落として攻撃する水魔法。
ドレイクは蜥蜴と鰐を足したような見た目の魔物だ。
地属性のアースドレイクの皮膚は岩みたいで硬いが、性質も同じなのか水に濡れると軟化する。
つまり水に濡れさえすれば、皮膚を砕くのに苦戦していたホースも、攻撃が通りやすくなる!
でも、蹴り一発で体を貫通するなんて思ってもみなかった。
ホースは足技を使って戦闘を行うスタイルみたいだな、脚力がずば抜けて高い。
(馬……なんだろうな。)
その場にいたドレイクを全部倒し終えると、ホースは俺に向かってきた。
「ぐぇ!?」
そしてなんの警告もなしに俺の腹に蹴りを繰り出し、俺はイフたちの足元まで吹っ飛ばされた。
「邪魔をするなと言ったはずだ。
お前が魔法を使ったせいで一匹逃げ出した。」
だからといって普通人の腹に蹴りを入れますかね?
物凄く痛い、多分肋骨が何本かイッた。
「……貴方、一体何様のつもりなの!?」
イフが声を荒らげてホースのことを怒鳴りつけた。
「俺はドレイクを追う。」
一瞬怯んだような素振りを見せたが、ホースは何も無かったように言い放った。
「アルタロムさん!大丈夫なのです!?」
「いや、肋骨がイッた。治して。」
「わ、わかったのです!
生命を司る神よ 我が命に応じ 癒しの力をお貸しください」
治癒
イフの手が緑色に発光し俺の蹴られた部分を照らした。
中級の治癒だ。
温かい光はじわじわと効力を広げ、折れたはずの骨の痛みは少しずつ和らいでいった。
「治してくれてありがとう。
それと、あんなに怒ってくれるとは思わなかった。」
「あれはダメなのです!
もっと力がこもっていたらアルタロムさん死んじゃってたかもしれないのです!」
多分そんなことは無い。
「ホースは、本気で俺の事は蹴ってないよ。」
「え?」
「だって、柔らかくなったとは言えドレイクの皮膚を貫通する蹴りなんか食らったら俺なんか真っ二つさ。」
入学試験の時のイフを見て、すぐに治せるくらいの威力に抑えてくれていた。
それに、今見たらドレイクを追って行ったホースが見えない。
あの脚力を見たら、多分歩幅も合わせてくれてたといたんだと、そう思う。
「まぁ、なんというか。
あいつは自分勝手だけど、周りの人を危険な目に合わせるようなことはしないんだと思うよ。」
イフがちょっと不満そうな顔をしている。
すぐに受け入れられないのは仕方ない、だって俺もそうだから。
ホースにも事情はある。
イフの言っていたことも事実なんだろう。
だから、ちゃんと話してくれる日が来るといいと思う。




