19話:森の迷宮の守護者
新たな扉を発見した俺たちはフロガを解放して、下層に続く階段を下っていた。
「グリーンマンか。」
この迷宮の守護者はグリーンマンだった。
デカい苔のような体とは聞いていたが、さすがに大き過ぎないか?
踏み潰されそうだ。
「魔物ってことは倒していいんだよな!」
「待って、グリーンマンは打撃攻撃が効かないよ。」
この森はフロガの苦手な魔物が多いな、本当にあの先生は性格が悪い。
「じゃあどうすんだよ!」
フロガの声を聞いて俺とフォンバーグの目線が合った。
まぁ、考えていることは大体同じだろうな。
「援護は最低限でいい。」
「了解しました。」
やっぱりフォンバーグとは思考がよく似ている。
「フロガ!フォンバーグと役割を交代してくれ!」
「あいよ!」
フロガが防御態勢に入るとフォンバーグは一気に間合いを詰めてグリーンマンに切り込んで行った。
グリーンマンは苔の集合体だ。胸の奥にはそれを操る核がある。狙うならそこだろう。
グリーンマンの攻撃は腕を振り下ろしたり踏み潰そうとしてきたりと単調だ。
フォンバーグの機動力であれば攻撃を食らうこともない。
「俺もやらないとね。
水の神よ 我の命に応じ力をお貸しください
凍結」
魔力出力を上げることで魔法の威力ではなく範囲を広くした。
凍結は冷感するくらいにしか使われないような魔法だ。人間を巻き込むことは無い。
ただし、粘液や水を含む魔物に対しては特攻になる。
みるみる内にグリーンマンの体は凍りついて攻撃速度を下げることに成功した。
どうやら、グリーンマンの体は苔だから水を含んでいるという俺の予想は正しかったらしい。
「このまま全身凍らせてやる!」
「ダレス!後ろだ!」
フォンバーグの警告で俺の足元に何か小さいものが動いているのに気づいた。
小さいグリーンマンか……?
分裂したんだ。急いで魔法を止めて防御しないと攻撃を受ける。
相手は攻撃の体勢に入っている、今から防御して間に合うか……?
「ちょっと借りるぜ?」
一瞬葛藤している内に、フロガが俺の懐から剣を引き抜いて分裂したグリーンマンを真っ二つにした。
「大丈夫か?」
「……うん。」
え、何今の。惚れてまうやろ。
剣撃が見えない。
速いというか、剣の軌道が滑らかで無駄が少なかった。
「アルは剣がないと魔法使えないってわけじゃねぇよな?」
「いや、大丈夫」
もし、フロガに防御を任せられれば俺はフォンバーグのほうに集中できる……。
「フロガ!防御は任せてもいい!?」
「おう!任せろ!」
分裂したグリーンマンはまだまだいる。
いつこんなに分裂したのかは知らないけど、一体ごとの強さはそんなに大したものではない。
まずは本体を倒してから分裂体は処理することにしよう。
「フォンバーグ! 一気に凍らせますから手伝ってください!」
「わかった!」
グリーンマンはもう殆ど凍りかけている。
これならフォンバーグにも詠唱する余裕があるはずだ。
近距離と遠距離の両方から一気に凍らせる。
「水の神よ 我の命に応じ力をお貸しください
凍結」
フォンバーグの魔法でグリーンマンは凍った。
これならあとは攻撃するだけで簡単に砕けるはずだ。
「フォンバーグ! 溶ける前にすぐに攻撃してください!」
俺がそう言ってもフォンバーグは動かない。
なぜ動かないんだ? 一発強い魔法を叩き込めば倒せるはずなのに詠唱している様子もない。
「おい、なんだあれ?」
フロガがなんか言った。なんだって、グリーンマンが凍っただけだ。
後ろに緑の何かが着いているだけで……
「フォンバーグ!攻撃が来ます!」
「わかっている!」
大量のグリーンマンの分裂体がグリーンマンの体に引っ付いて氷を溶かしてしまった。
でもどうしてあんな数がいるんだ? こっちにもフロガが付きっきりになるくらいの量が襲ってきているのに。
何か、気づいていないからくりがある……?
「アル!どうするんだ!?」
「少し待ってくれ……。」
グリーンマンはどうやって分裂しているんだ。
いや、そもそも分裂体はどこから出てきて本体に戻って行ったんだ?
「あ、そういう事か。」
「どういうことだよ!」
「フロガ、俺が合図したら前に行って。」
「……わかんねぇけど、わかった!」
そもそもグリーンマンは最初よりもでかくなっている。分裂しているのにだ。
つまりそれは分裂しているんじゃなくて合体しているということだ。
小さいグリーンマンは分裂体じゃなくて新しく生まれたグリーンマンだった。それが合体して守護者として居るんだ。
なら、これ以上合体させる通りはない。
「行け!」
俺が合図するとフロガは攻めあぐねているフォンバーグの方に向かって行った。
当然、小さなグリーンマンが俺に襲いかかってくるから早く詠唱しないとな。
「大いなる風の神よ 我の命に応じ勇猛なる嵐の力をお貸しください 全てを解き放ち吹き荒らせ
吹き上げる風」
風の上級魔法で作られた竜巻の中で発生しているかまいたちでグリーンマンがスパスパと切れて一掃できた。
次々と来るからまた新しいのが来るだろうが、一瞬だけでいい。
その一瞬で片をつける。
「水のを司る神よ 我の命に応じ 雄大なる力をお貸しください
氷矢」
完全回復される前に合体し始めている部位を優先して破壊する。
「どけハンバーグ!」
俺の攻撃が命中した直後、フロガがフォンバーグの前に割って入り攻撃を攻撃を繰り出そうとした。
「まだ動くのかよ!?」
グリーンマンは完全に凍りきっていたと思った腕を動かしてフロガを攻撃しようとした。
そんなことはさせない。
俺はまだ残していた氷矢でもう一方の腕を破壊した。
「あんがと! 彼岸 !!」
飛び上がっていても使えるのかその技。
フロガは正拳突きで凍ったグリーンマンの胸部を叩き割り、グリーンマンは核を露出させていた。
「気に入らねぇけど、後は任せた。」
「言われなくても。」
フォンバーグの追撃で核は切り裂かれ、グリーンマンは力尽きた。
「ダレス!すぐにこっちに来い!」
「はい!」
あまり離れていると別の場所に転移されてしまう。
さすがに一人で知らない土地に飛ばされるのは嫌だ。
影移動があるから何とかなるけど。
俺がフロガとフォンバーグの近くに走り込むと、一気に光に包まれて俺たちは見知らぬ街の中にテレポートしていた。
「無事に攻略できたようだな。」
「そうですね。」
ここはどこだろうか。
「まずは情報を集めなければ、早く帰るぞ。」
迷宮は攻略すると強制転移されるから嫌いだ。
それにしてもあの先公……帰還用の魔道具の一つ持たせてから転移させても良かっただろ。
その後、フォンバーグが近くの人に話を聞いて現在地が中央大陸の最東端の街であることがわかった。
コミュ力があるリーダーは頼りになるね。
「どうやって帰ったものか。ここから急いでも数週間はかかる。」
「あの先生魔道具の一つ渡してくれればいいんですけどね……。」
「あ?魔道具?」
どうしたんだいフロガくん?
俺の言葉を聞いてフロガは腰に着けたポーチを漁り始めた。
まさかな……?
「これのことか?」
持ってんじゃねぇかよぉぉぉ!
明らかに先生がつけていたのと同じブレスレットがポーチから出てきたよ……。
「貴様!そういったものはすぐに出せ!」
「なんか色々言ってたし、歩いて帰るのかなって思ってよ?」
「そんなわけないでしょ!!」
あの先公ほんといい性格しているよ……!
よりにもよってフロガにこんな重要な物を渡すってどんな神経してんだ!ぶん殴ってやりたい!
フロガから魔道具を奪い取り、俺たち三人は無事に勇者学園に帰還することが出来ました。




